第37話 組長と想定外


あの変な神官は本物だった、楊枝の先の大福は消えるし、部屋全体が光った


なにかの魔法か胸の奥がすぅっと軽くなった


マジックでもトリックでもハッタリでもねぇ、この目で見たし感じた



治療の条件は・・まぁクソだがそこは親父次第だ



屋敷の奥の勝手口を出て同じ敷地内の一軒家に向かう


親父は病院で死ぬぐらいならとそこに医者を呼んでいる


それに舎弟共は年中しょうもないことで騒ぐし宴会でもドンチキうるさい


組長には防音がきっちりしてるこっちで休んでもらわねぇとな



「すぅー・・茂木、入ります」



ノックして入る



組長はベッドで寝ていた


もう昔の面影が全くない


徳田堅、この組長はヤクザにしておくにはもったいないと何度も思った


曲がったことが嫌いで拳一つで成り上がった怪物


殴り合いが強いだけじゃなく人同士の調整に落とし所をつけるのがうまいし、抜群に人を見る目があった



ある結婚式で知り合いのお嬢さんが結婚したのだがその相手はどこからどう見ても好青年


調べろと言われて調べ上げてもまごうことなきいい男、何の問題もないのだと出た、だが組長だけは疑っていた


ある時、隠れてお嬢さんに暴力を振るうクソ野郎だとわかったがそれも組長の指示がなかったら絶対に気付きもしなかっただろう


頭の出来が良すぎると会話が成立しないなんて事があるらしいが空を見て「明後日にはカチコミに来る」なんてもう今でも意味がわからない


なんの後ろ盾もなかった人でもここまで成り上がれるんだと憧れたし、ゴミだめから拾ってくれた恩義を返そうと努力を続けた


そんな親父が、死にかけている



「親父、ちょっと話がありやす」


「・・おぉ、茂木か、起こせ」



普通に考えればどやされるかどつかれる話だ


マホーで病気が治りそうです!馬鹿かよ?


だが親父は静かにタバコをふかせながら聞いてくれた



「茂木、オメェは信じるのか?」


「この目で魔法ってやつを見ました」


「どれ、わしも見に行ってみるか」


「いえ、呼びましょうか?」


「馬鹿言うな!どこのかしらねぇが神官様が来てんだ!俺ら見てぇなゴフッゴホ・・・」


「親父!」



医者を呼ぶか?親父の座ってる体を支え、横のタオルを差し出す


血の混じった痰を吐き口元を拭った親父



「ふー、おれらみてぇなはみだしモンのために足運んでもらってんだ、俺がいかねぇでどうすんだ」


「親父」


「おら、背負え、ここで死ぬだけよりもその坊主、見てみてぇ、冥土の土産になるかもしれんしな」



カラカラ笑う親父だが背負う重さが軽くてゾッとする


点滴を片手に親父を背負い、慎重に本邸に運ぶ


・・・なんだ?本邸を出たときとは空気が違う



「血の匂いがする、茂木?」


「アホがなにかしたのかもしれません」


「急げ」



広間を開ける前に中からうめき声が聞こえる


1人や2人じゃない、低い野太さがある、どう考えても子分共だ



あいつらっ・・・!?




開けてみるとれ倒れた子分の前でデケェ剣を掲げた神官様、それを止めようとしてる嬢ちゃん


振り下ろされれば、死ぬ



「待ってくだせぇ!!」

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