第24話 好きなもの

 電車に乗り、移動すること二十分。

 俺たちはこの辺で一番大きなデパートへとやってきていた。

 黒月が前に言ってたけど、ここにいい感じの雑貨屋があるとのこと。

 俺はこの辺の地理や店には詳しくないからな。ナイス黒月。今度何かお礼しないと。



「それで、雑貨屋は何階にあるのかしら?」

「三階が雑貨フロアになってるみたいだぞ。いろんなテナントがあるみたいだ」

「三階ね。それじゃあ行きましょうか」



 はやる気持ちを抑えきれないのか、雪宮が足早にデパートの中を歩く。

 それにしても……すげー見られてるな、雪宮のやつ。

 まあこれだけの美少女なんだ。俺も街中で見かけたら、目で追っちゃう気がする。

 なんと言っても歩き方がものすごく綺麗。モデルみたいにすらっとしてるし、ドラマの撮影のように見える。

 残念な胸筋だけど、それがむしろ邪魔してないというか、雪宮本来の美しさを際立たせている感じだ。

 そう思っていると、先を歩いていた雪宮が振り返って俺を睨みつけて来た。



「八ツ橋くん。今ものすごく失礼な視線を感じたんだけど」

「気のせいです」

「……わかりやすい人」

「気のせいだって言ってんでしょ」

「どうだか」



 くそ……可愛くねぇ。可愛いけど、可愛くない。腹立つな。

 雪宮を追うように後をついていく。

 ……本当、ずっと見ても見飽きないな、雪宮って。

 名前の通り、氷の花のような美しさ。

 よく美人は三日で飽きるとか言うけど、全然そんなことはない。まああれはカップルとか結婚した男女とかに当てはまるとは思うけど。



「ついたわ。三階ね」

「おお……確かに雑貨屋が並んでるな」



 専門店っぽい店もあれば、いろんな雑貨を売っている店もある。ここなら雪宮の部屋を彩るには十分な小物を買えるだろう。

 もの珍しいからか、雪宮はあっちこっちをキョロキョロ見渡している。

 すると。



「あ……にゃんこ」

「え? ……猫雑貨フェアか」



 こんなおあつらえ向きな店があるなんて、ついてるな。

 雪宮も目をキラキラさせて店の前に売られている雑貨を見ている。

 見ると壁掛け時計も猫だし、石鹸入れも猫。ハンカチも猫。水筒も猫。ボールペンやノート、消しゴムなんかも猫。

 猫、猫、猫。とにかく猫だらけ。

 多種多様な猫がデフォルメで描かれていたり、リアル風に描かれているもの。形自体も猫のものもある。

 こうして見ると可愛いけど……こんなにあるとちょっとした狂気を感じるな。



「あ、そうだ。雪宮、金はあるのか? いつも飯の金を気にしてたみたいだけど」

「好きなものにお金は惜しまない主義なの、私」



 推しを前にしたオタクみたいなこと言ってやがるぞこいつ。



「食料代、ちゃんと請求するからな」

「わ、わかってるわよ。その生活費には手を出さないようにするわ。……多分」



 こいつ、今ぼそっと多分って言ったぞ。生活費にまで手を出したらおしまいだろう。

 こいつに猫雑貨買えとか言わない方がよかったかな……。

 雪宮は目についたものを吟味して、気に入ったものを片っ端からかごに入れていく。

 見る見ると山のように積みあがっていく猫グッズに、俺だけでなく他の客も唖然としていた。



「おい。そんなに買って誰が持ち帰ると?」

「今日は荷物持ちがいて助かるわ」

「……まあ仕方ないから手伝うけどさ。そんなに買ったら、持ち運びも大変だしな。でもこの後食材の買い出しにも行くんだし、自重はしろよ」

「わかっているわ。……ありがとう」



 とか言いつつ、雪宮がいろんなものをかごに入れ、満杯になったら別のかごに入れ、更に入れ……合計三つ分のかごになった。

 さすがの店員さんも唖然としていた。本当、雪宮が自重しなくてすんません。

 店員さん曰く、お会計にちょっと時間が掛かるってことで、その間ちょっと時間ができてしまった。

 つっても、どこで待とうか……この二人だとゲーセンって感じでもないし。

 てか女子と二人で手持ち無沙汰なときって、どうやって時間潰せばいいんだ? ラーメン屋にでも入るか?



「雪宮、どうする?」

「そうね……そう言えば、さっき一階の喫茶店に美味しそうなパフェがあったわ。そこに行きましょう」

「ん、了解」



 一階に喫茶店なんてあったのか……抜け目ないな、雪宮。

 二人で一階まで降りると、雪宮は迷いもせず喫茶店へ向かっていく。意外と方向感覚はきっちりしているみたいだ。

 喫茶店に入り、俺はブラックコーヒーとモンブランを。雪宮は紅茶といちごパフェを頼む。

 そういや昨日のいちごも美味そうに食ってたし、いちごが好きなんだな、雪宮って。

 つい一週間前は、本当にお互いのことを何も知らなかったのに……どうしてこんなことになったのやら。

 俺たちの前にそれぞれ注文したものが運ばれてくると、雪宮は目をキラキラさせてパフェを見ていた。



「パフェ好きなのか?」

「すき」

「即答だな」

「だいすき。宝石箱みたい」



 幼児退行してる気がするんですが。

 まあ、雪宮が言ってることもわかる。確かに宝石が詰まってるみたいにキラキラしてるもんな。

 そんな雪宮を見つつ、俺は俺で好きなモンブランを口に運ぶ。

 え、うま。ここのモンブランすげーうまい。そういやメニューにも一番人気って書いてあったな。なるほど納得。



「……あなたってそういう顔もするのね」

「え? どんな顔してた、俺?」

「おもちゃを買ってもらった子供みたいな顔よ」

「自己紹介か? 鏡持ってきてやろうか」

「私はそんなことないもの、あむ。……ん~っ」



 いやがっつり子供みたいに喜んでんじゃん。

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