第17話 探偵は怪異に助けられる


「やってみなさいよ。……ボリス、一応警戒して」


「了解」


 思わぬ展開に僕らが固唾を飲んで成り行きを見守っていると、善行の両側に控えていた男たちが突然、拳を握って中腰になるのが見えた。次の瞬間、僕らの身体が浮き上がったかと思うと、そのまま滑るように移動してトラックの車体に押しつけられた。


「わ……わ」


 僕はトラックに押しつけられたまま、空中で手足をばたつかせた。敵が最初に標的に選んだのは、璃々砂やボリスではなく僕らだったのだ。


「……くくっ、自分が宙に浮かぶばかりが『来訪者』の能力ではない。このように相手に対して使うこともできるのだ」


「随分、大げさな手品を使うのね」


「そうとも。その気になればこんなことだって可能だ」


 善行が声を低めて言い放つと璃々砂の身体がふわりと浮き上がり、何もない空中でくるんと半回転した。


「――やってくれたわね。……ボリス、その子たちをおとなしくさせて」


「承知――」


 璃々砂に指示を与えられたボリスは、一歩前に踏み出すとやおら上着の前をはだけた。


「いたしました」


 ボリスが短く答えると同時に、裏地に縫い付けられている大小のポケットから花火を思わせる光球が立て続けに打ちだされ、二人の用心棒に襲い掛かった。


「――ぐあっ」


 用心棒たちが相次いで路上に崩れた瞬間、僕たちは謎の力から解き放たれ地上に落下した。


「――痛っ」


 腰をさすりつつ立ちあがった僕の目に映ったのは、まだ宙に浮かんだままの璃々砂と不敵な笑みを口元に讃えた善行の姿だった。


「――ボリス、私を吊るしてるのは倒した二人じゃなく、ボスよ!」


「……では、そちらも倒します」


 ボリスが再び上着の前をはだけるようとした瞬間、善行の両目が不気味な光を放ち、見えない力に押されるように大きな身体が地面に倒れ込んだ。


「む……むう」


 ボリスが身体を起こそうともがいていると、背後から誰も乗っていないトラックがゆっくりとボリスの方に向かってやって来るのが見えた。


「ぐ……ぐうう」


 謎の力に全力で抗おうとするボリスの背にトラックのタイヤが乗りかけた、その時だった。


「――うわっ」


 ひるんだような叫び声が聞こえたかと思うと、トラックの動きが止まった。はっとして声のした方を見た僕は、信じがたい光景に思わず我が目を疑った。


 忌々し気に唸りながら身を捩る善行にまとわりついていたのは、身長五センチほどの光る「人間」たちだったのだ。


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