○ピュタかな?

 素材庫の中に入るとそこには美しい城下街が広がっていた。

 石造の建物が建ち並び、石畳の道が続いている。

 街は城壁に囲まれており大体8km×8km位の街をぐるりと囲んでいる。


「確かにこれは防壁に丁度いいね」


「でしょう。しかも城も手に入ったし多分色んなお宝も一杯よ♪」


 何だか盗賊にでもなった気分だ。

 持ち主はもう居ないから盗んだわけではないけど。

 僕はステータスウィンドウのアイテムリストを確認する。


「アイテムリストになんだか封印って表記されてるアイテムがいくつかあるんだけど何だろう?」


「んーまだ封印が生きてる場所があったかぁ。おそらく城でしょうね。

 宝物庫が怪しいわ。封印を解かないと手に入らなさそうね」


 僕達は城壁の門をくぐり街を歩いて行く。

 ちなみに素材庫に保存したものは全て複製可能になっていた。

 前世の持ち物は最初から入っていたから触れるまでは複製出来なかったのだろう。


 宿屋に鍛冶屋、道具屋、魔道具屋、住居、長屋、酒場、教会、ギルド等々さまざまな建物が街にはあり、そのどれもが今さっきまで誰かが生活していたかのように綺麗に残されていた。


 ただ当然のようにそこには誰もおらず、何処か寂しさすら感じられた。


「キレイに残ってるものね。随分と時間も経つでしょうに・・、」


 セフィ姉さんはどこか懐かしむ様にそして少し寂しげに街を眺めていた。


「真っ白な空間に大きな城が佇んでいるのは何だか違和感が凄いね」


 僕は暗くなりそうな雰囲気を誤魔化す様に適当な事を言った。


「そう言えばここは素材庫だったわね♪」


 先程の寂しげな雰囲気を胸に収めて、気付けばもういつものセフィ姉さんに戻っていた。


「そうだ。素材庫にエディット機能を複製出来ないかなぁ」


 思い付きで言ってみる。


「流石にそれは無理じゃないかなぁ」


 ダメ元で試してみよう。


「あ、できた」


「出来たの!?」


 セフィ姉さんは目を丸くして驚いていた。


 ホームの様に記憶からの創造は出来なかったけど

******************

ー空間の設定

 ー背景の設定

 ー温度の設定

 ー空間内の物の移動、編集

 ー空間の形状変更

******************

 上記の内容が可能になった。


「流石にホーム程、自由には出来ないみたいだね」


「それでも十分凄いけどね・・・」


 セフィ姉さんはいつもの様に呆れていた。


「えっとまずは空間をオブジェクトの上100mまでに設定する。

 お♪使える空間が大分広くなったみたい」


「さらっと凄い事するわね。空間がめちゃくちゃ広く使える様になったわよ?」


 上方向に随分と無駄なスペースがあった様だ。


「下方向の空間は無しにして、都度必要に合わせて広げればいいか。

 空を青くしたいなぁ。出来た。でもなんだか違和感が凄いなぁ」


 どこかペタッとした不自然な空。ちょっと嫌な感じがする。


 そうだ。ダークエルフの里の空をそのまま反映する様にしよう」


 色々と試行錯誤しながら進めていく。

 僕はどうやらこういった作業が好きな様だ。

 上手く空は出来たが城の上の方が途切れて見える。


「空間の境目のせいかな・・・。えっと境目を透明に設定。お♪いい感じ」


 やっと満足いく出来栄えになった。


「空が出来たわね・・・」


セフィ姉さんは出来上がった空を見上げて呆然としていた。


「これで外の時間と一緒に暗くなるから夜は真っ暗になっちゃうかなぁ?」


 折角作ったけど不便になっては意味がない。


「んー街灯の魔道具は生きてるっぽいわね。日中に光を吸収して夜発光するわよ。

 夜景が楽しみね♪」


 異世界の雰囲気満載の石造りの街並みにただずむ巨大な城。

 それが夜景に浮かび上がるのか・・・。


「そうだね。ぜひ見てみたいな」


 僕は心からそう思った。なんだろう?この気持ちは・・・。


「そう言えば植物や植樹関係は消えちゃってるみたいだね。

 そのうち植えていきたいな」


 緑があれば更に美しい景色になるのにと思った。


「まぁゆっくり時間をかけてやっていきましょう♪」


 確かに焦る事はないよね。そういえば・・・


「ハクは100m以上高く飛ぶと頭打っちゃうから気をつけてね。

 いつも模擬戦やる場所は空間を高くしとくから」


「わかったー。ここではあまり高く飛ばない様にするー」


 ハクはここにきてから周りをキョロキョロしながら見慣れない物に

 興味を示しながらも大人しくついてきてくれている。


 これからも、戦闘以外に色々と興味を持っていってくれるといいな。

 今の所、戦闘と食事以外はそれほど興味が深くはなさそうだ。


・・・


 そうこうしているうちに僕達はやっと城の前まで来ていた。


「近くで見ると本当に立派な城だね」


 高さは一番高い所で100mはあるだろうか。

 城壁とお堀で囲まれていて正面に石橋が架けられている。

 それを渡りまた城門をくぐると城の正面入り口に着いた。

 重厚な扉を開けるとそこには巨大なホールが広がっていた。


 高い天井はドーム型になっている。そこからはキラキラ輝く豪華なシャンデリア。

 床は大理石のタイルが敷き詰められ、壁や柱には細かい細工がされていた。正面には2本の大きくカーブした巨大な階段が有り上階へと進める様になっていた。


「まずは何処から探索しようか?」


「やっぱりまずは玉座を目指しましょう♪」


 といっても何処に玉座があるのか分からないので適当に真っ直ぐ向かう。


 まだ城の真ん中まで来ていないのにまた外の空間に繋がっている。

 先程階段を上がったはずなのでいわゆる屋上庭園というやつだろうか。


 見上げるとさっきより塔が更に近くに見える。

 植物は消滅してしまっているので荒廃した雰囲気でちょっと残念だ。


 そのまま庭園を抜けて再度城の中に入る。また長い廊下を進み、たくさんの扉をスルーしながら突き当たりの大きな扉を開ける。


 ちなみに道中には凄く高そうな調度品があちこちに飾られていた。

 まさに豪華絢爛な宮殿のようだ。


 扉の奥には物々しい雰囲気で20mくらいのドーム状の部屋が広がっており

 真ん中には魔方陣が敷かれていた。


「転移魔方陣っぽいわね。きっと玉座の間へのものよ。当たりね♪」


「ほとんど真っ直ぐ進んで来たけどあっさり着いたね。この魔方陣ってまだ使えるのかなぁ?」


「故障している様子も無いしいけるんじゃない?」


 セフィ姉さんは適当に返事した。


「魔力はまだ流れてる」


 意外にもハクから有力な情報が入った。

 僕達は魔方陣に乗る。暫くすると魔方陣が薄ら光り出した。

 次の瞬間、僕達は一際豪華な装飾で彩られた

 先程と同じくらいの大きさのドーム状の空間に立っていた。


「ここは全くと言っていいいほど劣化してないね」


 そう、先程までは少し汚れた様な時代を感じさせる雰囲気だった。

 しかし、ここにはそう言った劣化が全く見られなかった。


「魔道具による保護がかかってるみたいね。それにここは地下空間にあるみたいよ。

 多分、あの大きな扉の向こうが玉座の間じゃないかしら?」


 部屋には大きな扉が1つあった。


 僕はその扉を開く。


 そこにはまさに玉座の間と言った荘厳な赤いカーペットの伸びた

 玉座が置かれていた。周囲には美しい装飾品と細かな装飾が施された柱。


 当たり前だがそこには王の姿は無かった。


「何だか神竜の間を思い出すなぁ」


 あそこにいい思い出はないのだけれど。


「確かにちょっと似てるかもね。こっちが真似したんじゃないかしら」


 なるほどそれもそうか。


 するとセフィ姉さんは何かを思い付いたかの様に玉座の方へ向かった。そして


「終点が玉座の間とは上出来じゃないか♪ここへ来い!」


 ドヤ顔で嬉々として、セフィ姉さんが玉座の前に来る様に僕達を促す。


「それ死亡フラグだよ?3分間待って貰えばいいの?」


 僕は呆れながらセフィ姉さんに言った。


 何をやるのかと思えば・・・またいつものおふざけだった。


 そしておもむろに玉座に座り、章頭の三文芝居へと繋がるのだ。


 転生したらラスボス奥の間だった件については苦言を呈したかったが

 だからと言って今更こんなベタな冒頭を取ってつけられてもなぁ・・・。

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