穿鉄するは槍撃(3)

「ガラティアン、敵の攻撃を食い止めています」


 矢引真音は管制をしている松林の弾んだ声を聴く。


 同時、左側の鎖骨下に吊り下げた無線機から聞こえる左竹の安堵の呟きを聞いた。


『耐えきったか……』


 呟くような声が流れる。


『理論値では可能とされていても、現実と結果が一致するかは実際に現象が起きなければ分からない』


 重い溜息を挟んで、


『全く気が気でないよ』


 まだ不安が残ったような声が零れてくる。


「無駄に気を張り過ぎるな左竹。それより、今のデータを元にシミュレーションの再計算を矢引羽音と高崎に急がせろ」


『言われるまでも無く、二人ともきちんとやってくれているよ』


 ならばこれ以上自分から言う事は無い。

 腕を組み大モニターへ視線を向ける。

 大モニターの外部映像では、絶えずガラティアンが槍を振り回して、砲撃を迎撃していた。

 すると、忙しく連携を取っているオペレータの誰かがふと言葉を作る。


「なぜ、攻撃が当たっても無事なんだ……」


 不謹慎に聞こえる疑問は、しかし当然のものである。

 いかに強靭な特異質セラミック装甲と言えども、吸収力を上回るレーザー砲や、化学組成を破壊するほどの超高温にさらされれば、当然破壊される。

 だが、ガラティアンは現状、一切破損していなかった。

 その理由は新式の戦化粧にあると分かっていても、それがどのように作用するかまではガラティアン自体の仕組みどころか、それの根幹をなす岩長理論を知らぬ者たちには想像もできない。


『気になるかしら、坊やたち』


 まるで聞いていたかのように、疑念に答える声がスピーカーから流れる。

 女の声だ。

 同時、大モニターの隅に小さく表示された顔が映し出された。

 眉をひそめてその人物に言葉を返す。


「何の用だ、岩長宮古特務大尉。戦闘中だぞ」


 岩長宮古。ガラティアンの根底である特殊な物理体系を、その名を冠する岩長理論としてまとめ上げた女傑だ。

 奴は暗い空間で揺らめく青白い光に照らされながら、切れ長の瞳を細め、鮮やかな朱の唇を笑みの形にして、髪をかき上げた。

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ガラティアの娘は血を燃やす 底道つかさ @jack1415

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