第41話 川上

 俺、川上 真一(カワカミ シンイチ)は高校最後の大会に出ていた。


 今年は、嫌いな奴が部活辞めて気分良く試合が出来るものだと考えてたんだが、なぜかその嫌いな奴が大会に参加してやがる。


 その嫌いな奴は橋本だ。コイツは、いつもなんでも無い様な顔をしながら部活でも勉強でもいい成績を残してやがる。俺は、そんなに頭が良くないから部活動頑張って推薦貰うのに必死だってのに。


 それは、高校二年生の頃だ。その頃にはもうアイツは、普通に受験で東京の大学に行く事を決めて人間関係や部活にあまり関心が無い様だった。


 けれど、それでもそこそこの成果を出してるし。当時3年生だった先輩のマネージャーの吉田 麻衣(ヨシダ マイ)からも良く声を掛けられてたんだが、そっけない反応だった。


 なんて、勿体ない事してるんだ。そう思って声を掛けるが


「いや、遠距離恋愛なりそうなのとかめんど臭いし。今はいいや」


 と言う反応だった。いいじゃねぇーか、とりあえず付きあっちまえば! 上手くいかなかった時はその時でよっ!


「じゃぁ、俺がマイ先輩にアタックするからな? あとで文句言うなよ?」


「勝手にどうぞ。俺には関係ないし」


「そうか、興味無いんだな?」


「? 興味はないな?」


 そう言質を取った。そうしてからマイ先輩に告ったんだ。けれど最初、断られたんだが


「橋本のヤツ、マイ先輩の事なんて『興味無い』って言ってましたよ。悔しくないですか?」


「なにそれ…………興味ないって………」


「俺と嘘でも良いから付き合って見ませんか? 橋本の興味引けるかもしれませんよ?」


「確かに大輔君の反応良く無いし……まぁ、嘘なら…………」


 こうして俺とマイ先輩は付き合った。けれどやっぱりと言うか橋本の興味は引けなかったんだ。それからは、マイ先輩と会う時はデートと言う名の愚痴を聞かされるだけの何かだった。


 その関係は、マイ先輩の卒業後も続いていて定期的に橋本の報告をさせられていた。


 やがて新しく入って来たマネージャーの南条 奈央(ナンジョウ ナオ)について、報告をした時にマイ先輩から


「その子と付き合いなさい。そうしたらご褒美あげてもいいから。とにかく大輔君には近づけないで」


「…………そのご褒美ってのはなんですか?」


「ぬ、抜くだけなら……」


「え? なんですって?」


「アンタのその粗末な物を抜いてあげるって言ってんのっ!」


 マイ先輩は顔を真っ赤にしなが言い出した。

 おいおい。この女やっぱりおかしいんじゃないか? まぁ、目当ての男子の気をひくために別の男と嘘でも付き合う様な女だし。どこか頭がおかしいのかもしれない。


「分かりました。でも場所はホテルでお願いしますね。うち兄弟いるんで、それともマイ先輩の家に行けますか?」


「わかったわよ……ホ、ホテルでいいから」


 南条さんと付き合えたらラッキー、あと抜いてもらうよりも先のことも出来るかもしれない。そんな欲まみれな状態で、前のチャラ男と別れたばかりの南条さんに告白したんだが、なぜだか付き合えた。


 どうなってんだか分からないが、俺はラッキーな様だ。


 これからは本命は南条さんで行こう。でも、どうせなら初体験は済ませておきたい。そう思って先輩をホテルに向かい、結局本番はできなかったがそれでも気持ち良かった。


 幸せな気持ちでマイ先輩と肩を寄り添ってホテルを出たんだが南条さんに見つかった。


「川上先輩!! 浮気してたんですかっ。その人はだれですか!?」


「あ、あー。これはな? なんでもないんだよ」


「じゃぁ、なんでホテルから出てるんですか!」


「お前、見てたのか!? まさかストーカー?」


「私じゃないです! お父さんが、付けてた人から報告がありましたっ」


 そういうと道の角から帽子をかぶったぱっと見て印象に残らない様な男性が出て来て頭を下げてから、また引っ込んで行った……どうやら見張られてたようだ…………。


「じゃ、私もこれで……誰にも言わないでね(そうしたらまたご褒美あげるから)」


「あ、あぁ」


「なんなんですか!? 本当に!!」


「だからなんでも無いんだよ。これは嘘だから」


「嘘? 嘘ってなんですか!? わけがわかりませんっ」


 南条さんは、そう言いながら取り乱し始めた。


 さっきマイ先輩を抱きしめた感覚を思い出してしまい。つい、南条さんも抱きしめようとしたら、拒否された。


「触らないでくださいっ。気持ち悪いです」


「マイ先輩の事は本気じゃないんだよ。今は南条さんの事を大事にしたいと思ってる」


「嘘ですっ。それならあんな事はしてないはずです」


 そうして、俺と南条さんの話し合いは平行線のまま別れた。


 けれど、マイ先輩からはそのままアプローチし続けろと言われてる。そうしたら、またご褒美をくれるらしい。



 ―――――と言う事があって


 俺は、橋本の事が嫌いだ。自分勝手なんだろうけれど嫌いなモンは嫌いなんだ。

 トーナメントを順調に登って行った俺は、橋本との試合になった。


「よくここまで来たな。というかお前なんかズルしてるだろ?」


「突然、なんのことだ?」


「誰に指導受けてんだよ。前よりも強いじゃないか!」


「それ自体は別にズルじゃないだろ」


「お前は、いつもいつも。そうやってなんでもない様な顔をして、いい所取ろうとしやがって……!」


 (何かこいつにしたか?)

 そう言いたげな目の前の男の顔がムカつく。八つ当たりかもしれないがとにかく腹が立つ。


「まぁ良い、そうだ。お前、俺に負けたら何でも一つ言う事聞けよ」


「はぁ!? なんでそんな事をしないとならないんだ。全く意味がわからないぞ」


「勝手に部活辞めて、今好き勝手してんだから言う事聞けよ」


「…………それで、もう絡んで来ないんだな?」


「それはお前次第だ」



 ―――――川上vs橋本


 ―――ザ ベスト オブ 1セットマッチ 川上サービス トュー プレイ―――




 試合自体は接戦だったがなんとか意地で俺は勝ったんだ。やったぞ!!


 だから、目的を伝えてやる事にした。


「ハァハァ勝ったぞ!!」


「ハァハァ負けたな……やっぱ川上は本気になると凄いな」


「……お世辞なんて要らねーよ」


「ふぅ…………お世辞じゃないけれどな。それで? 命令したい事って? 流石に死ねとかは無理だぞ」


「お前、南条さんと別れろ」


「なんだ、その事か…………もともとそのつもりだ」


「え?」


つづく

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あとがき


更新遅れました。もう1話で完結します。

翌朝6時に投稿予約しました。

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