16-13 夢の灯

 四月になりマリーの新出版社〝ローザブル〟が開業した。

 だが様々な事情によってその最初の商品である『白いエルフ姫』の発売は、一週間ほど遅れる事になったのだ。

 そしてついにナロンの本が発売される日がやって来た。


「ナロンさん、今日は負けないからね!」

「こっちもですよカリンさん」

 アクエリア共和国西の都ローシャで今、ナロンとカリンが睨みあっていた。

 今日のナロンの本の発売に合わせてシュバルツビルト出版は最強の刺客を放って来たのだった。

 そう『コリンシリーズ』の最新作である。

 ナロンが旅に出ている間にマハリトがカリンに書かせた本だ⋯⋯そしてマハリトのシュバルツビルト出版での最後の仕事でもある。

 一見するとシュバルツビルト出版が新出版社〝ローザブル〟を潰しにかかったように見えるが、ローザブルの経営者のマリーとシュバルツビルトの経営者のオリバーは裏で繋がっているため、単なる客の関心を煽るイベントだったりする。

「ねえナロンさん、どうしてあなたは本にあんなメッセージを込めたの?」

 それは本の最後に書き加えられたナロンからのアリシアへのメッセージだった。

「今から一年くらい前、ここで花火を見たんです」

「花火?」

「うん――」


 一度夢を諦めかけたナロンは、ここで見た花火に勇気付けられた。

 その花火が誰の手によって上げられたのか、その時はまったく知らなかった。

 それをナロンが知ったのは今年になってからだった。

 今年の仕事始めのすぐ後にイデアルの開街祭が行われた。

 そしてその日やって来ていたアリシアが打ち上げたのは、あの日ナロンが見たあの花火だったのだ。

「あの⋯⋯魔女様、もしかして以前ローシャで花火をしませんでしたか?」

「ん⋯⋯したかな?」

「それって五月の⋯⋯」

「もしかしてナロンも見てたの?」

「はい⋯⋯あの日あたしも見ました」

「そっか」

「あの⋯⋯魔女様、ありがとうございました」

「何が?」

 この時ナロンは何を言ってもアリシアには伝わらない気がした。

 だから言えなかった。

 だから決心した⋯⋯書こうと。

 いつか書く物語でこの恩人アリシアに感謝を伝えたいと⋯⋯そう想ったのだ。


「ナロン先生! 早く来い! 店が開くぞ!」

 遠くでマハリトが呼んでいた。

「じゃあカリン先生また」

「ええナロン先生⋯⋯今日は負けないから!」

 そしてナロンとカリンはそれぞれ自分の本を売る為に、売り子の手伝いをしたのだった。

 その日のナロンとカリンの売り上げ勝負は⋯⋯

 ナロンが五千部。

 カリンが七千部だった。


 しかしナロンは午前中で完売し、カリンの方はその日が終わっても在庫が残っていたのだった。




 ここはウィンザード帝国の山奥の村。

 そこで一人の少年が壁に飾ってある立派な武器を眺めていた。

「すごいな⋯⋯いつか俺も⋯⋯」

「ボウズ! そいつはまだお前には早い!」

 そう言ってガロンは少年に出来たばかりの新しい剣を手渡した。

「これが今のお前さんにはちょうどいい剣だ! この剣が物足りなくなったら、また来い!」

「うん! わかったよおやっさん!」

 そして少年は新しい剣を腰に装備し、旅に出る。

「これ、持っていきな」

 ガロンの妻コロンが少年に手渡したのは握り飯だった。

「ありがとうおかみさん! また来ますね!」

 礼を言った少年をガロンは引き留める。

「おい坊主! 駆け出しのお前はまずエルフィードへ行け!」

「知ってます、この本で見ましたから」

 そう言って少年が見せたのはナロンの本『小さな冒険者』だった。

 こうしてまた一人、新しい冒険者が旅立った。

 それをガロンとコロンは見送った。

 だがそれにいちゃもんをつける男が現れた、ガロンの鍛冶師としてのライバルであるドダンだ。

「おいガロン! てめえまたあんなしょうもない剣作りやがって〝帝国の名工〟の名が泣くぜ!」

「ふん! 別にいいだろ! てめえこそ自分の仕事をやってろ!」

「ああやるさ! お前がのんびりしている間に俺っちは腕を磨いて〝明日の英雄〟を待つのさ!」

「明日の英雄か⋯⋯」

 それはドワーフ族の夢だ。

 次の英雄に誰が武器を作るか、という⋯⋯

「十年後か二十年後が楽しみだなドダン!」

 こうしてガロンはドダンを怒鳴り追い返した。

 最近、娘の本を読んで冒険者を目指す者が来るようになった。

 その本には鍛冶師の聖地カカロ山の事も書いてあったからだ。

 しかしこのカカロ山にはそんな駆け出しにわざわざ剣を作ってやるもの好きは、これまで居なかった。

 だからガロンが剣を打つことにしたのだ、初心に戻って。

 今送り出した少年が再びこの地を訪れる事を楽しみに⋯⋯

 それにもしかしたら今の少年に将来剣を作るのは、自分ではなく娘かもしれないのだ。

「伝説の鍛冶師ってのは伝説と巡り合えてこそだな、ナロンよ!」

 ガロンも少しだけ遠回りをすることにしたのだ、夢への道を⋯⋯娘と同じように。




 真新しい剣を持ったあの少年は、エルフィード王国の首都エルメニアの冒険者支部に辿り着いた。

「いらっしゃい、冒険者ギルドエルメニア支部へようこそ」

「冒険者登録お願いします!」

 そして少年は手続きを済ます⋯⋯

「――ですので今、聖魔銀会に入会していただければいざという時に安心ですよ」

「なるほど⋯⋯ポーション一割分の入会費を払えば一か月間は一個目はタダで、次からは半額で買えるんですね!」

「もし今お金に余裕がないのでしたら、ギルドの報酬から一定金額引かせて頂きますが?」

「本当ですか?」

「ああその通りだ!」

 その時自分に声をかけたのが誰か少年にはすぐわかった、その右腕を見て。

「あなたがガーランドさんですよね!」

「ああそうだが、良く知ってたな君は?」

「ええ、この本で読みましたから」

 そう言って少年が出したのはあの本だった。

「君も⋯⋯か、まあ頑張りたまえ」

「はい!」

 少年は本で読んだ英雄と話せて興奮していた。

 そして手続きを終えた新人冒険者の少年は壁に貼られた依頼を見始める。

 それを見ながらガーランドは受付嬢のセリアと話す。

「どうしてこうなったのかな⋯⋯」

「みんなあなたに憧れているのよ、ガーランドさん」

「俺はそう大した冒険者じゃなかったんだがな⋯⋯」

「自分の事は案外わからないんじゃないかしら、あなたがした事がどんな風に受け止められるかなんてね」

「ただ見苦しく生活費を稼いでいただけだったんだがな⋯⋯」

 ガーランドの冒険者時代はそう目立った存在ではなかった、だが怪我で引退してからの新人育成が今や伝説となってその評判が独り歩きしていたのだ。

「私はカッコいいと思ったわ、あなたが魔女様から腕の再生を断ったのを見て」

「別にこの義手でも何も困らんしな」

「でもギルドマスターのあなたが義手の方が、新人にはいい教訓になるって思ったんでしょ?」

「ただの気まぐれさ」

「そういうところが素敵なのよ」

 そう笑いあいながら新人冒険者が依頼の紙を持ってくるのを、ガーランドとセリアは見ていた。

 その二人の左手には同じ指輪が嵌められていたのだった。




 アクエリア共和国西の都ローシャにあるグリムニア大聖堂では。

「サリートン、久しぶりではないか」

「これはメルクリウス教皇、お久しぶりです」

「どうじゃ聖魔銀会の様子は?」

「ええ順調ですよ、始まったばかりですが冒険者を中心に入会者を増やしてます、資金源の方も順調で忙しくてたまりませんよ」

 そう明るくサリートンは笑った。

「まあ無理するな、ほどほどにがんばれよ」

「はい、教皇も」

「当たりじゃ、儂はもう年じゃからな」

 そう言いながら去っていくキーリンはまだまだしっかりとした足腰で元気そうだった。

「メルクリウス教皇⋯⋯私がその座を頂くまでどうかお元気で」

 そうサリートンは不敵に笑ったのだった。




「編集長! またカリン先生と連絡が取れません!」

「またか! ⋯⋯くそ、どうなってるんだ。 マハリトはどうやって原稿を取っていたんだよ、カリン先生から⋯⋯」

 シュバルツビルト出版では編集のマハリトが辞めた為、その担当だったカリンの扱いが難しくなっていた。

 なにせ自由奔放に、いつでも世界中を気ままに旅する作家なのだから。

 そんなカリンは――

「こうしてたまには誰かと旅するのもいいわね」

「そうでしょ! このアトラちゃんと一緒に旅するなんて、すごく名誉なんだから!」

「本当に一緒に旅して良かったわ⋯⋯ネタに困らなくて」

「何か言った? カリン?」

「いいえ別に、今度行く場所は少し寒い山奥よ」

「いいじゃない? このアトラに行けない場所なんてないわよ! アトラの歌を聞いてくれる人が居る所なら、どこでもいいわよ!」

 世界を旅して本のネタを探す作家と人魚の歌姫は、今一緒に旅していた。

 なんか気があったからだった。

 でもそれは今だけかもしれない、何せ二人はどちらも気まぐれなのだから。

「待ってなさい世界! このアトラの歌をね!」




 その頃ウィンザード帝国のとある山奥で大きな声を出す少女が居た。

「あーーーー!」

「もっとよ! もっとお腹から声を出しなさい!」

「ホントにこんな訓練で音痴が直るの、オバサン」

「⋯⋯まずアンタは大きな声を出す事に慣れなさい、あんな音が反響する舞台じゃなくてここでね」

「なんでよ?」

「音痴にとって音が響く舞台はかえって下手になるわよ、まずは声を出せるようになって自分の本当の声と向き合いなさい」

 そういってバレーナはアイリスの前で歌い始める。

「ひどい声ね⋯⋯」

 無理をして喉を壊したバレーナの歌声だが、なぜかアイリスにとっては二番目に心に響くいい歌声だった。

 そして郊外でのレッスンは続く。

「おいバレーナにアイリス! まだ寒いだろ、暖かいお茶でも飲んでちょっと休憩にしないか?」

 そうのんきそうな声で練習を中断させたのはシュテルだった。

「そうね、そろそろ休憩にしましょうか」

「やった!」

 こうしてアイリスはブラウメア夫婦と楽しみながら、この雪景色が残る山奥の別荘で特訓を続けるのだった。




 今日もアクエリア共和国、南の都のセロナンの特設ステージでは人魚の公演が行われていた。

「ラティス、今日の君の歌も素晴らしかったよ」

 そう言ってきざったらしく花束を差し出すのは、この街の領主のドレイクだった。

「ありがとうドレイクさん、またこんな花束をいただいて⋯⋯」

 最近温かくなってきた為そろそろセロナン以外の海へも行こうかと思うラティスだったが、なかなか踏ん切りがつかなくなっていた。




 それはある日のウィンザード帝国の皇室での茶会の時だった。

「あらミハエル、ずいぶんとミルクを入れるのね?」

「うん姉さん⋯⋯ミルクを飲めば背が伸びやすいって聞いたから⋯⋯」

「そ⋯⋯その通りよ!」

 少し目を逸らしながらルミナスは答えた。

 そんな様子を見ながら⋯⋯

「ふふ⋯⋯子供たちの成長は早いわね」

「まったくだなアナスタシア」

「あらあら父上も母上もまったく年寄りみたいなことを」

「誰が年よりだと?」

 こうして母と娘がつまらない事でケンカし争う⋯⋯いつもの家族の姿だった。

 それを見ながらミハエルは――

「早く大人になりたいな⋯⋯」

 いつまでも見上げるだけじゃ嫌だと、そんな事をミハエルは思い始めていた⋯⋯




 アクエリア共和国、北の都イスペイにて――

「お嬢様、お手紙が届きました」

「ふむ⋯⋯誰からだ爺?」

「片翼の聖女ミルファ様からです」

「なんだと!」

 マリリンは慌ててその手紙を爺やからひったくった。

 そして中の手紙を素早く読み始め、しだいにマリリンはニヤケ始めた。

「どうなさいましたか?」

「ふふふ⋯⋯忙しくなるぞ爺!」

 そのミルファからの手紙がまた新しい物語の始まりになるのだった。




 その日、一人の聖女が大聖堂を去る事になった。

 その名はエリザベート⋯⋯かつてミルファを目の敵にしていた少女だった。

 実家の命令でアリシアの巫女の座をミルファから奪おうと色々画策したが、全て失敗に終わり実家からも見捨てられて勘当になったのだ。

 その追放されるエリザベートをミルファは見送りに来た。

「⋯⋯ふん、せいぜい我儘な魔女の面倒を見る事ね、私はこれから気ままな冒険者にでもなるわよ!」

 そう精一杯の強がりを言った。

 これまで箱入りだったエリザベートにとって外の世界は不安と恐怖でしかなかった。

「エリザベート⋯⋯先輩、これを」

「なによ?」

 ミルファが渡したのは封筒だった。

「紹介状です、北の都の領主のマリリンさんへの⋯⋯もしも先輩がやる気があるのなら、そこで雇ってもらえるように書いてます」

「紹介状? なんでアンタが?」

 これまでエリザベートはミルファに酷いことをして来た自覚があった、それなのにこのミルファは一度も告発したりはしなかったのだ、単にエリザベートの追放は自分の失敗と実家が見捨てたせいだった。

「私孤児院を作るんです、もしよければ先輩そこで働いてください」

「なんで私なのよ⋯⋯」

「聖女見習い時代の孤児院を回ってた時、一番子供に懐かれていたのが先輩だったから」

「⋯⋯そうだったかしら」

「⋯⋯先輩の作ったスープは美味しかったですよ、もし要らないならそれは捨ててください」

 それだけ言い残してミルファは去った。

 エリザベートが聖女見習いになったのはミルファよりも二年は早かった。

「もしかして孤児院に居た頃のあの子と会ってたのかしら⋯⋯全然覚えてないなあ」

 でも聖女見習いだった頃の、人々に役立つことが純粋に嬉しかった時の事はやけに懐かしかった。

「⋯⋯イスペイか寒そうね、でもちょうどいいかもね」

 行くあてなどなかったエリザベートは、とりあえず北の大地を目指す事にしたのだった。




 アクエリア共和国、東の都ポルトンそこには大きな造船所があった。

「ちょっとトレイン! 何処よ!」

「ああミラ、こっちだよ!」

 そう大きな声でミラに応えるためにトレインは、作りかけの船の中から出てきた。

「どうしたんだいミラ?」

「なんかこの子が見学したいって⋯⋯」

「ん? 君は?」

「はい! 俺はセイルっていいます、今日ここの港に入った船の見習いです!」

「その君がここに何の用だい?」

「その⋯⋯いつか自分の船を持ちたいと思って見に来ました!」

「そうか! それなら好きなだけ見ていくといいよ」

「はい! ありがとうございます」

 そんな船の事で盛り上がる男たちは、ミラにはまだ理解できない生き物だった。

 でも少年相手に船の事を話すトレインが、何だかカッコよく見え始めるミラだった。




 ローシャにあるオリバーの屋敷にて。

「マリー、新出版社の出だしは好調のようだな」

「ええもちろんよ、パパ⋯⋯オリバーさんから習った経営哲学があるし、当然よ」

「そ⋯⋯そうか、まあがんばれよ。 ところで今日もイデアルへ行くのか?」

「ええ、そうだけど?」

「あの街は今後の世界経済を変える街になる、しっかりな」

「もちろんよ」

 こうしてマリーは今日もイデアルへと向かった。

「お待たせしました、皆様方」

 イデアルの役場の会議室でマリーを待っていたのは、ギルド長のセレナと『プリマヴェーラ』社長のネージュにアリシアから街長代理を任されたゼニスだった。

 それにマリーを加えた四人が今後のこの街の発展を決めていく役員会議のメンバーになる。

「それでは今日の議題は、このイデアルにマリーの経営する商会をどう置くかですが⋯⋯」

 議長のゼニスが場を回しながら会議は今日も始まった。

 ――待っててねパパ、私がパパを養える立派な商会を作って見せるから⋯⋯

 マリーの野望は始まったばかりだった。




 イデアルの役員会議の後のギルド長室にて。

「おいネージュ、最近のリオンはちゃんとやって行けてるのか?」

「ええ、あんがい逞しいですわねあの子は」

「あのババアにいじめられていないのか?」

「なんだか最近は可愛がられてますね」

「信じられん⋯⋯」

「わたくしもです」

 今日もセレナとネージュが交わす話題はリオンの事だった。




 エルフィード王国のエルフィード城のある一室で、リオンはレッスンを受けていた。

「はい、それまでです」

「ありがとうございます、ローゼマイヤーさん」

「⋯⋯リオン様、辛くはないのですか私のレッスンは?」

 これから先のリオンの王妃としての立ち振る舞いを指導するよう、ローゼマイヤーはアレクに命令された。

 そしてかなり厳しくリオンには指導に当たっている、なのにリオンは終始笑顔だった。

「だってローゼマイヤーさんは私がアレク様の隣に立てるように、アレク様に恥をかかせないように頑張ってくれてるんでしょ? こんなに嬉しい事はないよ」

「⋯⋯あなたの様な教え子は初めてですよ」

 そうローゼマイヤーは本物の笑みを浮かべる。

「これからもよろしく、ローゼマイヤーさん」

「ええ、こちらこそ」

 しかしいつまでたってもリオンには、セレナが何故このローゼマイヤーを嫌うのか理解できないままだった。




 その頃、エルフィード城の王の執務室にて。

「アレク、年内にはお前たちの婚礼を済ませよう」

「はい父上」

「で⋯⋯それでだ、その時にお前に王位を譲ろうかと思う」

「ち、父上!? それはまだ早いのでは?」

「こういうのは切っ掛けやタイミングも重要だ、しばらくは儂もお前のそばで補佐をしながら引き継いでいくつもりだ」

「父上⋯⋯」

「でアレクよ、覚悟は出来てるか?」

「⋯⋯はい父上、もちろんです」

「お前はまだ若い、だが頼れる者は多い。 一人で頑張ろうとするな」

「はい、父上」




 かつて一冊の本が世界を一度焼き尽くし、その後平和を作った。

 そしてまた新たに歴史を変える本がこの世に生まれた。

 その作者の名はナロン、ドワーフ族でありながら作家を目指した変わり者だった。

「さてナロン先生、次回作の打ち合わせをしようか?」

「うーん、やっぱりアトラの事かな?」

「だが歌姫の活躍は本では表現しづらいぞ」

「⋯⋯ですよね」

「なにかオリジナルでもいいんだぞ、面白ければな」

「⋯⋯実は前から考えてた話があって――」

 この頃ナロンは気づいていた。

 夢には二つあると。

 叶える夢と、追い続ける夢だ。

 リオンやアトラは叶える夢だった。

 でも自分の夢は追い続ける夢だった。

 たとえ一冊売れたとしてもそれで終わりじゃない。

 新しい物語はいくらでも生まれるのだから⋯⋯

 ペンと槌を持ち替えながら進むナロンには、どちらも極められないかもしれない。

 でもだからこそ進める道もあるはずだ。

 ナロンにしか見えない⋯⋯伝えられない物語が⋯⋯

「――こういう話なんですけど、どうです!?」

「⋯⋯ボツ」

 これからもナロンの挑戦は続いていく。




 ここは魔の森、銀の魔女アリシアの住処。

 そこにアリシアは友人たちと居た。

 今日は出たばかりのナロンの本の読書会だった、そしてアリシアは長い読書を終える。

「ねえアリシア、夢は叶った?」

 読み終わったのを見計らいフィリスは問いかける。

「どうだろう⋯⋯ちっとも上手くいった気がしない」

「じゃあまたやるの? 魔女ごっこを?」

「当分はいいかな、他にもやりたい事があるし」

「やりたい事って?」

「うん、それはね――」

 銀の魔女アリシア。

 彼女もまたこの本の作者と同じ、夢を追い続ける存在だった。

 一つ夢を叶えてもまた新しい目標を見つけて、追いかけ続ける。

 フィリスと話しながらアリシアはその本の最後のページを読んでしまった。

 その反応を見る為にフィリスは今日一緒にアリシアと過ごしたといってもよい、そんないたずらが叶った瞬間だった。

 そしてアリシアは照れくさそうに、その読み終えたナロンの本『白いエルフ姫』の最後のページで顔をみんなから隠した。

 とんでもない不意打ちだったからだ。

 何故ならその本の最後のページにはこう書かれていたのだ。

 作者のナロンの、印刷ではない直筆で――


 ――このやさしい物語せかいは銀色の魔法でできている、と。

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銀色の魔法はやさしい世界でできている~このやさしい世界で最後の魔女と素敵な仲間たちの夢見る物語~ 🎩鮎咲亜沙 @Adelheid1211

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