16-09 魔女の使い魔教室
アリシアはミハエルに使い魔の使役方法を教える為、ウィンザード帝城の飼育園へと移動した。
相変わらずミハエルは動物に懐かれている、そしてフィリスやミルファもわりと懐かれやすいタイプで同じように二人も動物たちに囲まれていた。
なおアリシアとルミナスにはあまり動物たちの方からはよっては来なかった。
「それではミハエル殿下とそのアズラエルとの間の繋がり⋯⋯〝パス〟について話を始めます」
「はい魔女様! その⋯⋯出来れば殿下はやめてくれませんか? こちらは教えを乞う立場ですし」
そのミハエルの申し出を聞きアリシアはルミナスをチラッと見る、すると「そうしてあげて」といった仕草を返した。
「じゃあわかったよミハエル君」
「はい! よろしくお願いします」
こうしてアリシアの使い魔教室は始まった。
「まずミハエル君とアズラエルとの間には既に繋がりがあります、今は自覚できていないかもしれないけど」
「それは最初に血の契約を行った時からですね?」
「そう⋯⋯だから魔力の繋がり〝パス〟は既にある、後はそれを自覚しそれを使えるようにするだけ」
「なるほど⋯⋯つまり知らない土地にも既に道はあって、それを知るだけ⋯⋯みたいな?」
「そのルミナスの例えはわかりやすいね」
姉のたとえもあってミハエルは〝パス〟の概念を理解していく。
「さて⋯⋯ルミナスはパスを説明できる? どうやってルミナスは〝影〟と繋がっているの?」
「え、私? 私の場合はムンっとやって、カっとなったら、バシっと繋がる感じよ!」
「全然わかんないよ姉様⋯⋯」
「まあ確かにそんな感じだね⋯⋯出来る私達にとっては」
「でしょう? アリシアさま」
「これだから天才って⋯⋯」
「そうですね」
そんな説明でアリシアとルミナスはわかり合った、そしてフィリスにはチンプンカンプンでミルファにはわりと理解できたのだった。
フィリスにはおそらく魔素⋯⋯精霊と交信する才能が無いのだ。
そしてミルファは初めて翼で飛んだ時から光の精霊を自在に使いこなしていたため理解できるのだ。
いわば歩ける人が歩き方を人に説明するくらい困難なたとえなのである。
「難しいです⋯⋯何か取っ掛かりがありませんか?」
案の定ミハエルにはわからない概念だった。
「じゃあまずは繋がろうか⋯⋯」
そういってアリシアは椅子から立ち上がり、正面に居たミハエルの後ろに回った。
「魔女様何を?」
「今から私がミハエル君と〝パス〟で繋がる⋯⋯そしてそこからさらにアズラエルとも繋がる。 これでミハエル君はパスを自覚できるはず」
「なるほど⋯⋯それならたしかに」
ルミナスも同意した事でミハエルから不安は無くなった。
しかしミハエルは焦った。
いきなり後ろからアリシアに抱きつかれたからだ。
「ま、魔女様何を!?」
「ん⋯⋯こうして密着した方が安全だしね」
そんな何も気にしていないアリシアと、女性に抱きつかれてドキドキするミハエル⋯⋯
しかしそんな雑念はミハエルからすぐに消え始める――
――あ⋯⋯アズラエルと繋がった⋯⋯
そうあっさりと認識できたからだ。
「ミハエル君はそっちの繋がりを意識したままで⋯⋯こっちは切るから」
そしてアリシアは自分とミハエルとのパスを切断した。
しかしミハエルとアズラエルは繋がったままだった。
「出来たでしょ? 一度出来たら後は簡単だと思うよ」
「はい、やってみます!」
そう言ってミハエルは何度も自分とアズラエルとの間のパスを繋いだり切ったりを繰り返した。
その様子を見てアリシアはミハエルはやはり優秀なルミナスの弟だと思った。
「これ簡単そうに見えたけど、アリシアだから出来た事よね?」
「当たり前でしょ、普通は他人を経由してパスを繋ぐなんて出来ないわよ」
そうフィリスとルミナスは感想を漏らす。
「じゃあ次は目を閉じてパスを繋いで、その状態でアズラエルの目を開いて」
「はい⋯⋯」
言われるままにミハエルはアリシアに従う。
するとミハエルの視界はアズラエルの視界になった。
そして目を閉じたままミハエルはアズラエルを飛ばしてみた。
ミハエルの視界はぐるっと回りアズラエルを通して自分たちを見下ろしていた。
それに驚いたミハエルは思わず体が反応し椅子から転げそうになった、しかしそれをアリシアが支えた。
「私も初めてそれをやった時、転びそうになったのを師に支えられたな」
そうミハエルの耳元でささやくアリシアの声は優しかった。
「ありがとう⋯⋯魔女様」
「いいよこのくらい、慣れるまではベットで寝ながらとかの方が安全かもね」
「はい⋯⋯試して見ますね」
こうしてミハエルはその日のうちに使い魔との第一歩の〝視覚共有〟を会得したのだった。
なおルミナスはもうとっくに〝影〟と出来るようになっていた事だった。
それからアリシアは使い魔に意思を伝える方法も教えて、アズラエルは完全にミハエルの使い魔になったのだった。
「ありがとう魔女様」
「いいよこのくらい」
そう言ってアリシアの講義が終わった時はすっかり日が暮れていたのだった。
「うーん、アリシアさまに今日言われてわかった事や出来るようになったこともあるし、私もこれからいろいろ研究が捗りそうね」
そう、ルミナスもすっかり〝影〟を使いこなせるようになっていたのだった。
アリシアの見立てではルミナスの〝影〟はもはやルミナスの半身と言っていいくらいの存在になっているので、本当にいろいろ出来るようになるだろうと思った。
アリシアも真剣に正式な使い魔を持とうか悩むくらいである。
「じゃあミハエル君、また何か困った事があったらすぐに呼んで。 ルミナスに言ってもらえばすぐに来るから」
「はい、そうしますね魔女様」
そうして少しだけ顔を赤くしたミハエルはアリシアを見上げながら握手した。
「よかったわねミハエル」
「⋯⋯うん、姉様」
そんなアリシアにフィリスは話しかける。
「どうアリシア、初めて教え子を持った感想は?」
「教え子⋯⋯か、そうなのかな? うーん、ミハエル君は才能もあって教えればすぐ出来るから楽しかったけど、普通の人は違うんでしょ?」
そのアリシアの問いかけは以前ルミナスから聞いた事が原因だった。
「そうね、以前アリシアさまが教えてくれた水を使った魔力の訓練方法は我が国の魔導士達でも、ほとんど出来なかったからね」
「エルフィード王国でもそうね」
フィリスとルミナスは以前アリシアに教わった魔力の訓練方法を自国の魔道士強化の為にやらせてみたのだが、上手くいかなかったのだ。
「あの訓練なら姉様から教わって、僕なら出来るようになったよ」
そう言ってミハエルは、残っていたカップの中の紅茶を球体にして持ち上げたのだった。
「要するに普通の人には出来ない訓練だったんだよね、あれって⋯⋯私は気づかなかったよ」
そうアリシアは反省した、それ以来アリシアは誰かに何かを教えるのは苦手意識を持つようになってしまったのだった。
しかし今日ミハエルに使い魔の事を教えてアリシアは楽しかったのだ。
いつか自分も弟子を持てたら⋯⋯そんな夢を見るくらいには。
こうしてアリシアの使い魔教室は終わったのだった。
その日の夜アリシアは魔の森の自宅でミルファと夕食を取りながら思い出していた。
「しまった⋯⋯ナロンに会うのすっかり忘れていた」
「今日はもう遅いですし明日でいいのでは?」
「そうだね」
こうしてアリシアは明日ナロンと会う事にしたのだ。
ある物語の取材を受ける為に⋯⋯
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