11-09 出発の時

 アリシアはセレナを見つけ近づく。

「セレナさんこんにちは、リオンも」

「アリシア殿ごきげんよう」

「銀の魔女様こんにちは」

 ここは新ギルド街建設のための中央指揮所である。

 アリシアが来た時セレナは作業員たちと何やら打ち合わせ中だったようだ。

 リオンはお茶を入れている途中でかいがいしく手伝っているようだった。

「今いい?」

「ああ構わんが、何だ?」

「帝国行の日程が決まったから伝えに、誕生祭の三日前に移動する予定だからその日の朝に迎えに来る予定だけど、大丈夫かな?」

 セレナとリオンは一瞬目を合わせた後答える。

「問題ない、リオンの事をよろしく頼む」

「任せて、リオンもいい?」

「よろしくお願いします、銀の魔女様」

 そして話は街の建設の事になる。

「どうです? 何か問題でも?」

「いや特にないが⋯⋯聞きたい事はある、アリシア殿あの城壁を繋いでいる塔は何なんだ?」

 そのセレナが聞いているのは、この街を守る城壁に作られた塔だった。

 新ギルド街を守るように六つの塔が建っており、それを繋ぐように城壁を作ったからだアリシアは。

 単なる防壁目的なら必要ないものである。

「今のところは秘密です、まだ話せる段階じゃないので⋯⋯でも上の方の階は見張り小屋とかにする予定です」

「それは何となくわかるのだが⋯⋯」

 セレナが気にしているのは塔の一階部分である、かなり広めの面積を確保しているのに現状何もないからだ。

 そして塔の一階部分とそれより上の階は、階段もなく行き来も出来ない。

 簡単に言えば空っぽの小屋の上に塔が建っているという、意味不明な構造なのである。

「今は言えないけど何かを作る予定はあります、でも私一人で決めていい事じゃないしもうしばらく待っていてください」

「そうか、わかった」

「そうだ、それとは別にさっきこの街の名前決めたんですけど――」

 ここでアリシアが発表した『イデアル』というこの街の名は、快く受け入れられたのだった。


 アリシアは魔の森の魔女の庵へと戻った。

 ちょうどその時、ミルファはいつもの作業着で畑仕事の最中だった。

「ミルファただいま」

「アリシア様お帰りなさい」

 そしてアリシアはミルファが手入れしている最中の畑を眺める。

 酷い有様だった。

 そうあのつがいの死の烏デッド・レイブンのせいである。

 元々アリシアの薬草畑もそうだが、鳥よけなどをアリシアの使い魔である魔法人形マギ・ドールが行っている。

 しかし卵を産むまでの間はあの死の烏デッド・レイブンは保護対象だった為、攻撃を禁止していたのだった。

 それがこの結果である。

 アリシアの薬草畑とミルファの野菜畑は甚大な被害を受けたのだった。

「ほんとにごめんねミルファ、こんな事になって⋯⋯」

「⋯⋯いえ、アリシア様が悪いわけではありませんから、悪いのはあの烏ですので」

 その後二人は家の中に入り、その後の予定を伝えあった。

「そっか、オリバーさん達はもう出発しているのか」

「まあ距離がありますからね」

 先月のルミナスの誕生祭にはオリバーを始めとした共和国メンバーは参加していなかったが、今回のミハエルの誕生祭は十歳を祝うもので大きな節目となるため参加する事になっている。

「やっぱり大変そうだよね⋯⋯」

 アリシアが送り迎えをする王国とは違うのだ、彼らは。

「アリシア様が気にする事ではありません、本来そういうものなのですから」

「まあそうなんだけどね」

 でも少しだけアリシアは何かを考えるのであった。


 それから数日が経ち、帝国へと向かう日がやって来た。

 今日だけは朝早くから起きて準備を整えたアリシアは、ミルファと共にギルドへと転移で跳んだ。

 そしてそこには既に準備万端なリオンが待っていた。

「おはようございます、銀の魔女様!」

「リオンおはよう」

「おはようございます、リオンさん」

 そして眠そうなセレナがやって来る。

「朝早くからすまないなアリシア殿」

「セレナさんもおはようございます⋯⋯つらそうですね?」

「昨夜は遅かったからな、見送りが終わったらもうひと眠りする」

「じゃあリオンも昨日は遅かったの?」

「いえ、一睡もしていません!」

「⋯⋯そう、無理しないでね」

 どうやらリオンは楽しみ過ぎて、眠れぬ夜を過ごしたようだった。

「では行ってきます」

 そう言ってアリシア達は消えた、ギルドのメンバーたちに見送られて。


 城に着いたアリシア達は少し待たされることになる、到着が予定よりも早すぎたせいだった。

 アレクが来るまでの間アリシアはネージュの所へと向かった。

 ネージュの方の準備はもう出来ているようだ。

「おはようございます銀の魔女様、それにリオンとミルファさんも」

「おはようネージュ」

「ネージュ久しぶりだね」

「ネージュ様、おはようございます」

 こうして挨拶を終わらせる。

「間に合ったのネージュ?」

「ええ何とか⋯⋯」

「現場の人達はどうしてるの?」

「今日から休暇を与えて給金もはずみましたわ、今はいったん里帰りなんかして年明けに新ギルド街の工房に集合する予定ですわ」

「そう⋯⋯辞めたい人はいなかったの?」

「居ないと思いますけど? これだけ条件のいい仕事はそうはありませんし、それにまだまだ増員予定ですわ」

「そっか⋯⋯まあ無理しないで」

「お気遣い、ありがとうございます」


 そうこうしているうちにアレクの準備が終わったらしく、会いに戻る。

「すまないアリシア殿、待たせてしまって」

「それは構いませんが珍しですね、時間には厳しいのに?」

「ああそれは、馬の様子を見て来てな⋯⋯」

 今から帝国へ転移で行くのに馬は必要ないのでは、とアリシアは疑問に思った。

「馬の様子? なんで今そんなものを?」

「実は先月、ミハエルに勝負を挑まれてな、その準備だ」

「勝負と馬、何の関係が?」

「まさかアレク殿下、レースに出るおつもりですか?」

「ああそうだ」

 ネージュには何の事かわかったようだが、アリシア達は話題について行けない。

「何の話ですアレク様?」

 そしてアレクの説明が始まる。

 事の起こりは先月のルミナスの誕生祭の時だった。

 その時ミハエルは来月の自分の誕生日に記念のレースをすると言ったのだ、そしてアレクを勝負に誘ったのである。

 そしてそれをアレクは受けた。

「と、まあそういう訳だ、ミハエルには悪いが勝負になる以上は手を抜く訳にはいかないからな」

 つまりさっきまで勝負の為の馬をどれにするか厳選していた、という事らしかった。

「つまり馬も運べばいいんですね?」

「ああそうだ、すまないが頼むアリシア殿」

「⋯⋯まあいいですけど」

 こうして追加で馬も三頭運ぶ事になったアリシアだった。

「そっか⋯⋯アレク様レースに出るんですね、私応援に行きますから」

「ああ、楽しみにしてくれ」

 そんな風にアレクとリオンが話している時に、フィリスもやって来た。

「ごめんなさいお待たせして」

 今のフィリスはいつもの姫騎士ではなく普通のドレス姿である。

「そういう格好のフィリスは新鮮だね」

「アリシアもたまには違う格好すれば?」

「私は魔女、この姿には誇りがある」

 しかしフィリスはそのアリシアの言葉をあまり真に受けてはいない、なぜならアリシアはかなり形から入るタイプだと知っているからだ。

 だから魔女として以外の行動や目的になれば、違う服装にもなるだろうと思っている。

「今度一緒に服を買いに行きましょう、アリシア」

「話聞いてた、フィリス?」

 ときどきフィリスは突拍子がないなと思うアリシアだったが、それ以上に自分もそうだと思われている事には無神経だった。

 やがて全員の準備が終わり城の中庭に人が集まった。

「ではよろしく頼む」

 最後に来たラバンの声に応えてアリシアは転移魔法を発動する。


 そしてこれが、長い三日間の始まりになるのであった。

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