10-06 創る理由

 ひとまずアリシアの帝国刀作りは達成できた。

 完全に満足いく出来とは言えなかったが、それでもこれ以上は真の達人にしか違いのわからない領域である。

 少なくとも今月末のルミナスの誕生日までに、どうにかなる目標ではなかった。

「フィリスへ贈ったマントより苦労したし、今回はこれでルミナスには満足してもらおう⋯⋯」

 しかし、いつかはもっと凄い物を作れるようになりたいと、心に誓うアリシアだった。


 そしてアリシアには再び自由な時間が戻って来た。

 しかしそう思ったのもつかの間、アレクからの呼び出しがあった。

 お城へ呼び出されたアリシアは、アレクの隣にネージュが居たためどんな要件か、大体察しがついた。

「ごきげんようアレク様、それにネージュ様も」

「アリシア殿度々呼び出してすまない、感謝する」

 こうしてアレクが立会人となってネージュとの話が始まる。

「それでネージュ様、何かあったの?」

「その話の前に銀の魔女様、わたくしの事は今後ネージュと呼び捨てでお願いします」

 つまり正式にネージュはアリシアの部下となるけじめだと、アリシアは理解した。

「わかったネージュ、今後も私に代わって勤めて欲しい」

「お任せください銀の魔女様」

 そう言ってネージュは優雅に礼をした。


「それで話というのは?」

「その前に現在の進捗状況を説明します。 ゾアマンとは交渉も終わり協力して頂ける事になりました、後は海藻ですがこちらは今一つです、何せ深い海底での採取ですので⋯⋯」

「やっぱり人魚族の協力がいる?」

「⋯⋯出来れば、しかし専用の魔道具を用意したりすれば現地の人だけでも可能性はあります」

「ふむ、なるほど⋯⋯」

「そして現在募集している製薬を行う人材も、かなりの数の確保に成功しました」

「つまり順調ってこと?」

「順調です⋯⋯一つ問題ができましたが」

「何、問題って?」

「⋯⋯実際に製品を作る場所です。 販売はローシャを始め各地の都市に代理店を展開しますが、製造工場はここエルフィード王国内にしようかと」

 アリシアは考える、ネージュは王国貴族だし他国に工場を作っても不便なだけだと。

「いいんじゃないかな?」

「それが、そうでもない」

 これまで沈黙だったアレクが解説する。

「工場を他の領地に作ると税金やら利権やら面倒が増えるのだ、それに作るには魔力が濃い場所が適しているしな⋯⋯」

 その説明でアリシアには言いたい事がわかった。

「つまり工場を魔の森に作りたいって事?」

「その⋯⋯できれば」

 ネージュは申し訳なさそうに謝る。

「⋯⋯いやあれはそこまで濃い魔素は要らないし、森の中でなくてもいいかな?」

「そうなのか? だったら魔の森のギルドの近くにでも作るか? あの辺りもアリシア殿の領地だからな」

「いいんですかアレク様、それで?」

「ああ、こちらとしてはそれが助かる⋯⋯もっともアリシア殿がそれでいいならだが」

 ふとアリシアは思いつく。

「そういえばギルドはそろそろ正式な建物を作ると言っていたし、まとめて作ったらいいかな?」

「なるほどいい手だな、まとめてしまった方が壁で覆うにしても結界を張るにしろ安全だし、そこには魔の森の外交所もあるからな」

「とりあえずセレナさんにも相談しないと⋯⋯まあ反対しないとは思うけど」

「銀の魔女様、わたくしをそこへ連れて行ってはもらえませんか?」

「アリシア殿、私の方からも頼むネージュと共にギルドと協力して施設作りの計画を進めて欲しい」

 こうしてアリシアはネージュと共に魔の森のギルドへと跳んだ。


「これはノワール公爵令嬢、ようこそお越しくださいました」

 完璧な所作でセレナはネージュを迎えた。

 幼い頃のネージュはセレナリーゼと会った事がある、しかし今のセレナは魔法具で髪の色を変えていてその正体をネージュが気づく事はなかった。

 ただのギルドマスターにしては立派すぎる堂に入った礼儀作法だとは思ったが、そういった優秀な人材が選ばれたのだろうと思うだけだった。

「魔の森のギルドマスター、今回は話があって来ました」

 こうしてネージュとセレナの話し合いは始まった。

「⋯⋯なるほど、この場所に製薬所を作るのか?」

「はい、その為に協力してください」

 表面上はネージュは公爵令嬢でセレナは平民である、しかもネージュはアリシアの名代でもある、よって既に決定した事としてアリシアの見ている前で話は進められていく。

 そしてセレナもその辺りは弁えており、別段逆らったりはしない。

「つまりこの場所に、その製薬所と外交所とギルドを合わせた複合施設を作る訳か⋯⋯大がかりになってきたな」

「無理は言っていますが不可能な事を押し付ける気はありません、必要な人員はこちらで手配しますから。 なのでそちらの都合や今のうちにしておきたい話はありませんか?」

 セレナは思った、この令嬢はなかなかのやり手だと、そしてまともにリオンと戦う破目になっていれば決して敵わなかっただろうと。

「こちらもそろそろ本腰を入れてこの場所に拠点を築くつもりでした、ですのでその申し出感謝します、ノワール公爵令嬢」

「ありがとうセレナさん、わたくしの事はネージュで構いません、これからよろしくお願いしますわね」

「こちらこそネージュ様」

 どうやらこの話は纏まったようだった。


 そしてネージュとセレナそして会計士のゼニスが加わり、今後の計画を進めて行く事になった。

 その為ある程度話が纏まらないとアリシアがいても意味がないため、一先ずアリシアは離席することにした。

 アリシアは今ある仮設のギルドや冒険者たちが寝泊まりしている住居などを見て回る。

 アリシアからすればそれらは皆、自分たちのやりたい事の為に勝手に集まった人達だ、それがどんな暮らしをしようと本来関係ない。

 しかし、ここに大きな街が作られればどうだろう?

 きっと訪れる人は増えるに違いない。

 それなのに、ここがみすぼらしいままだとそれは自分の恥になる⋯⋯何となくアリシアはそう思った。

 だからこれは彼らたちの為ではない、そう自分に言い聞かせながらアリシアはどんな街づくりをするか想像し始めた。

 そんなアリシアの前にふよふよと浮かび移動する、魔法の釜に入ったアトラが現れた。

「あら魔女じゃない!」

「やあアトラ元気? その釜はどう?」

「ええ快適よ! もっともちゃんと歩くまでの繋ぎだけどね!」

 そう言われアリシアは困る⋯⋯何故ならまだアトラを歩ける魔法が開発出来ないからだ。

「ねえアトラちょっと相談がある⋯⋯いいかな?」

「何よ?」

「現状私の変身魔法ではアトラの足を一本しか創れない⋯⋯それじゃ歩けないからもう一本は魔力で創った仮初か義足の装着でしか対処できない」

「えー何それ? もっとマシな魔法は出来ないの?」

「⋯⋯人が人魚に変身する魔法なら出来るよ、二本の足を一本の尾ひれに変えるだけだからね。 でも人魚を人に変身させるには⋯⋯単純に言うと素材の骨が足りないから出来ない」

「ふーん、もっと魔法って何でもできるんだと思ってたけど、違うのね」

「⋯⋯魔法は万能だよ、でも私は万能じゃないだけ、いつかはこの課題も解決して見せるけど時間はかかる、だから待てないならアトラ⋯⋯海へ帰った方がいいかも」

「ふーん、言いたい事はそれだけ?」

「⋯⋯」

「だったら出来るようになりなさいよ! このアトラちゃんは自分で歩いて世界中に歌を届けるの! それはもう決まっている事よ! だからあんたがアトラを歩けるように出来るはずなんだから!」

「⋯⋯わかった、やってみせるよ。 だからもう少し待ってて」

「ええ待っててあげるわよ、魔女!」

 そういってお互い笑いあいあって別れたその後、アトラが一人になった時に⋯⋯

「⋯⋯だから最初に尾ひれを切り落として義足にする方がてっとり早いって言ってたのか⋯⋯それはやだなー」

 目的のためとはいえ、そこまでの覚悟は持てないアトラだった。


 その後、アリシアはギルドへと戻った、自分も街づくりに参加する為に。

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