07-EX01 夢の残り火
アリシアがアリスティアをこの世界から消して一週間がたった頃、帝国ではアリスティアが潜伏していたダンジョンの調査が始まった。
そしてその協力をアリシアは依頼され、承諾した。
もし何か危険なものが残されていれば対処できるのは自分だけかもしれないという思いと、少しでもアリスティアがどんな魔女だったのか知りたいという未練によって。
アリシア、フィリス、ルミナス、ミルファの四人は、ここ帝国首都ドラッケンから馬車で四日くらいの距離が離れたダンジョンに来ていた。
今回の帝国対アニマの使徒の最終決戦に使用された魔物たちは、ここから湧き出してきたと目撃されていたからだ。
一見するとただの廃坑といった洞窟である、しかし周りの環境によって魔素溜まりになっており、自然と魔獣の巣窟となった場所だという。
「さてここね⋯⋯ではアリシアさま、よろしくお願いいたしますわ」
「ん⋯⋯」
全員でゆっくりと洞窟に侵入する、事前の説明によるとここは大したダンジョンでは無く、帝都周辺の冒険者ギルドの駆け出し冒険者たちの修行場ぐらいの認識だったという。
アリシアは慎重に辺りの壁を魔法で調べながら歩いた。
「ここだね」
アリシアが発見したその隠し扉は比較的、入り口周辺だった。
「ここですか?」
その石壁をルミナスは触って確かめるが、全く違いがわからない。
「ルミナス、そこは
そのアリシアの言葉を聞きルミナスは飛びのく。
「この壁が生物なの?」
どうやらフィリスにもわからないらしい。
アリシアは近づき軽く魔力を与えて指示すると、その
「すごいですね⋯⋯」
事前に説明されていてもミルファには、それが動き出すまでただの石壁以外には見えなかった。
「すごく素直でいい子だな⋯⋯攻撃しない限り何もしてこないよ」
「ホントに⋯⋯?」
ルミナスは半信半疑だったがこれまで約二百年間発見されなかった事実に、納得するほかない。
「ねえルミナス、アリスティアの工房がここだけとは限らないわ、他の場所も調べた方がいいかもね」
「そうね⋯⋯帝国のダンジョンは全部でいくつあったかしら」
帝国の領地はこのグリムニア大陸の中でローグ山脈によって、隔離されているようなものである。
そしてそのローグ山脈を始めとした至る所にダンジョンはあった。
「前のローグ山脈にもあったアリスの工房、あそこも調べた方がいいね、何処か別のダンジョンと繋がってる可能性もあるし⋯⋯わたしだったら
「アリシア、
「魔の森のみんなの家の中にある、それぞれの国と繋がっている奴だよ」
「あれですか」
「そういや名前言ってなかったね」
「あんなものをアリスティアが設置できるのでしょうか?」
ミルファは疑問を漏らす。
「⋯⋯そうだねアリスの能力では創れないか⋯⋯でも物理的なトンネルを、魔物に掘らせている可能性もあるし」
「調べてみないとわかりませんねそれは」
「とりあえず、まずはここを調べましょう」
こうしてアリシア達はアリスティアの工房へと侵入を始めた。
暫くは長い通路と階段ばかりで、何もなかった。
「たぶん地下の最下層あたりね工房は」
それがルミナスの読みだった。
「ねえアリシア、さっき言ってた
「人一人が通れるくらいのなら何処でも繋げられるよ、ただ起動時に結構魔力を使うからそれなりの人でなきゃ通過できないけど」
「あのアリシア様、私は毎日使ってますが魔力を吸われているような感覚はないのですが?」
「ああ、ミルファの言ってる事は正しいよ、
「そんな仕組みだったのですね、あれは」
ルミナスは感心した。
「じゃあ例えばアリシア、いったん魔の森を経由する
「十分可能だね」
「そんなの出来たら世界が変わるわね」
「物流に革命が起こるわよ」
二人の姫はそんな国にとっての都合のいい事を考えてみた。
「⋯⋯条件次第ではやってもいいけど」
「え? ほんとにアリシア⋯⋯でもなんで?」
「私にもメリットがあるからだよ、今魔の森の魔素は回復中だけどほっとくといつかは溢れて氾濫する、そうならない為にわたしは計画的に魔の森の魔素を無駄使いして氾濫しないようにしているからね、だから定期的に
「なるほど⋯⋯じゃあ魔の森以外の他の魔素溜まり同士も
「たぶん」
「世界中の魔素溜まり全部にそんな物を創る⋯⋯アリシアほんとにやりたい?」
そう言われるとアリシアもやりたいとは思えなかった。
「確かにめんどくさい⋯⋯」
たとえ小さくても氾濫する規模の魔素溜まりは世界中に百近くはあるのだ。
自分や仲間たちの利便性の為なら頑張る気にもなるが、世界中の人の為に何かをする気にはなれなかった。
「むやみな急激な変化は、あまりいい結果にはならないわよね」
冷静になったルミナスもしない方がいいと、結論を出した。
そして一先ずその話題は終わる、最下層の工房への本当の扉が現れたからだ。
その扉には何の仕掛けもない、ただの扉だった。
中には生活できる住居スペースや研究室など多数の部屋があった。
まだ培養液の中には造りかけの魔物が多数いた。
ミルファが静かに祈りの言葉を捧げた後、アリシアは工房の機能を停止させた。
そして生命の火が消えていった。
その後、工房の中に多数の資料が見つかり、片っ端からアリシアの収納魔法へと放り込んでいく。
筆跡などからおそらくアニマの使徒が書き残したものだろうと、フィリスは推測した。
アリシアも短い時間だったが、あのアリスティアがこんなに几帳面に資料や実験結果を残しているとは、思えなかった。
「これどうするの?」
そんなアリシアの疑問に二人の姫は答えた。
「封印指定の禁書という事になるでしょうね」
「今のところ判別せず半々で、王国と帝国の共同管理ってことで進める予定よ」
「共和国は?」
「あそこは世襲制じゃないから長期保存に向いていないって、辞退したわ」
「⋯⋯つまり二つに分けて使えないようにする、でも燃やしたりして無くすこともしないってことですか」
王達の判断をミルファはそう認識した。
「何かあった時の為に⋯⋯か」
正直アリシアはここにある資料をもって帰りたかった。
しかし黙ってそんなことは出来ない、そんな事をすればアリシアは世界から恐れられる可能性が増えるからだ。
この資料の一つ一つが多くの命の犠牲の果ての結晶だと、アリシアは知っている。
魔女の力なんて大抵そんな物だ。
だからこそ特に払った犠牲の多いこういった命の分野の魔法こそ、人々へ役立てるべきだとアリシアは合理的に考えるが、みんながそうではない。
しかし、このアリスティアの魔法がいつか世界を救う日が来るかもしれない。
「ねえもしも、これが必要な日が来たら私にやらせてって、王様たちに伝えておいて」
「⋯⋯わかったわアリシア」
そう答えながらフィリスも、決してこれらが使われる日が来ない事を願っていたのだった。
アリシアは思う、アリスティアにも何か目的はあったのだろうかと、全てが行き当たりばったりな人は、本当に居るのだろうかと。
だからこのアリスティアの遺産は彼女の夢の残り火なのだと、アリシアは思った。
アリスティアが夢見た世界が何だったのか全く理解できなかったが、この遺産に触れればいつか知ることが出来るのかもしれない、そんな未練をアリシアは抱き続けるのだった。
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