07-11 未来を切り開く『理想』

 ――リーベが死んだ、パーチェが死んだ、そしてアリスティア様が捕らわれている限り復活は出来ない。

 今回は二百年前の時とは違って、事前に復活の魔法をかけて貰っていないからだ。

 しかし奴らはアリスティア様を開放しないだろう⋯⋯つまり今、俺が死ねば全てが終わる。

 いや違う、俺たちとは違ってアリスティア様は不死の魔女だ、たとえどれだけ時間がかかってもいずれは解放される日が来る、その時には俺たちも復活してもらえる、また再び会う日が来る。

 しかしそんなにアリスティア様を待たせるわけにはいかない。

 今すぐに助け出すのだ、この俺の手で⋯⋯どんな事をしてでも――


 キマイラ軍団と戦い続けるフィリスの後方で歓声が上がった、それによってフィリスは知る親友ルミナスの勝利を。

 後は自分がこの目の前の男を倒せば終わる、そうフィリスが考えた時だった。

 フリーダムの前に空から二頭の竜が現れた、氷の息を吐く青竜と、雷の息を吐く黄竜だった。

 何か不味い⋯⋯

 そうフィリスは直感した、だから先に動いた『理想の剣アルカディア』に魔力を送り込み蒼く輝く刃が『増幅』され黄金に輝いた。

 その剣でフィリスは全力で切り込み、先手を取った。

 瞬く間にその二頭の竜は真っ二つになった。

 それを見た帝国軍から歓声が上がる。

 だがフリーダムは動じない、ふてぶてしく笑っていた。

 竜二頭を瞬殺する事はフィリスにとっても負担は大きかった、しかしまだ気を抜けない、まだ多数のキマイラが残りそして何を考えているかわからない男がまだ残っているのだからだ。

「感謝するよ黄金の姫騎士、こいつらを殺してくれてな。 生きたままじゃ素材に出来なくてな、死んだ直後のこいつらが欲しかったんだ」

「⋯⋯何を言っているの、あなた?」

「見せてやろう、俺の切り札をな!」

 真っ二つになった二頭の竜の右半分と左半分がそれぞれフリーダムへと引き寄せられた、そして――

 そこには右半分が黄竜、そして左半分が青竜の、そして二つの首の根元の間にフリーダムの上半身が繋がっていた。

「何ですって!?」

「見たか、これが偉大なるアリスティア様から授かった『合成』の魔法の力だ!」

「アリスティアから授かったですって!?」

「そうだ! パーチェは『複製』を授かり魔獣や魔物をいくらでも増やし無限の軍勢を生み出す、そしてリーベは『進化』の魔法を授かり無敵の肉体を得た、そしてこれが俺の授かった『合成』の魔法さ」

「そうやってこのキマイラたちを生み出したのね、命を冒涜して!」

「冒涜だと! 違う! これは新たな生命の可能性を生み出す神の御業だ! そしてそれを授けてくれたアリスティア様こそが、この世界の神なのだ!」

「⋯⋯」

 フィリスは思った、こんな力を使い続けていれば歪んでいくのは当然だと⋯⋯

「⋯⋯そういえば貴方の名前、聞いてなかったわね」

「名前だと? いいだろう聞かせてやろう、アリスティア様が名付けてくれた俺の名は〝フリーダム〟だ!」

自由フリーダム⋯⋯いい名前ね。 一つだけ認めてあげる、貴方のそのあるじへの忠誠心を⋯⋯しかし、それ以外の全てを私は認めない!

 ――我が名はフィリス・エルフィード! お前達の野望を断ち切り、人々の〝理想〟に満ちた未来を護りし守護者なり」

「未来を造るのはアリスティア様だー!」

「勝負です! フリーダム!」

 そしてこの戦い、最後の決戦が始まった。


 まずフリーダムは自身に合成された青竜の首から氷の息を吐いた、それによってフィリスの動きを封じる気だった、しかし⋯⋯

 フィリスの持つ『理想の剣アルカディア』の能力『防護』によって阻まれる。

「効かないだと!」

 次にフリーダムは黄竜の首から雷の息を吹きかけた。

 しかし、それをフィリスはいとも容易く『切断』した。

 この結果にフリーダムは絶句するしかなかった、普通これだけの高威力の竜の吐息を止める為には専用の術を組む必要がある、だから即座に別属性の攻撃なら対応不可能だと考えていたからだ。

 二つの息をいなしたフィリスは距離を詰め、フリーダムに切りかかる。

「ちっ!」

 即座にフリーダムは距離を取り空を飛ぶ、そして他のキマイラに指示を飛ばした。

「お前たちやれっ!」

 フリーダムによってけしかけられたキマイラ軍団の間をフィリスは動き回り、確実に仕留め続けていく。

「何なんだあの動きは! 何故消耗しない!?」

理想の剣アルカディア』によって『回復』し続けるフィリスの動きは、それを知らないフリーダムにとって異常だった。

 しかし空を飛ぶフリーダムは思いつく。

「護るといったな? 出来るものならやって見ろ!」

 フリーダムは放った、竜の息を⋯⋯左右同時に別々の方向へと、狙いは帝国軍だった。

 それに気づいたフィリスは即座に空を駆けて盾になる。

 雷の息が帝国軍に届く前にフィリスは間に合った、しかし――

「二つ同時には止められまい、お前の護る力など⋯⋯な!?」

 もう一つの氷の息を止め盾になったのは炎の鳥⋯⋯ルミナスの『真紅の極炎鳥クリムゾン・イーグレット』だった。

 あの瞬間フィリスは信じた親友ルミナスを、そして疑うことなく自分は雷の息の前に立ったのだ。

 だから間に合った。

「くそっ!」

 空駆けが解除され地に落ちるフィリス、その瞬間を狙ってフリーダムは突っこむ。

 ごちゃごちゃ考えるのはもう止めた、この巨大な質量の最大速度で体当たりすれば防げるわけがないと考えて。

 そして相手の考えを読んだフィリスは防御の覚悟を決める、しかしこの『理想の剣アルカディア』が折れるはずがないと信じているが衝撃で手放してしまう予感があった、だから――

 フィリスは『理想の剣アルカディア』の周りの空気をした『増幅』を込めて。

 その空気の膜がクッションとなりフィリスへの衝撃はごく小さくすんだ、そしてフィリスは立つ竜の頭の上に。

 それに気づいたフリーダムはもう一つの竜の頭でフィリスを攻撃しようとしたが、間に合わなかった。

 フィリスは飛んだ、二つの竜の首の根元、そこに居るフリーダム本体目指して。

 そして黄金に輝く『理想の剣アルカディア』が全てを切った。

 真っ二つになったフリーダムの意識が消えていく。

「アリスティア様⋯⋯申し訳ありま⋯⋯⋯⋯」

 そして大地に立ったフィリスが、剣を掲げて宣言する。

「敵、首魁を打ち取ったりーーーー!」

 その声は戦場全てに響いた、これによって帝国軍の士気が上がる。

 しかしまだ戦いが終わったわけではない、魔物が無尽蔵に増え続ける事は無くなったが、それでも大量に残っている。

 しかも統率も制御も失ったため、収拾もつかない。

 今は拡散しないように、出来るだけ倒し続けるしかなかった。

「⋯⋯フリーダム、貴方の想いに私の想いが勝っただけ。 どちらが正しかったかはこれからの未来が決めるのよ」

 その闘いこそが自分の使命なのだとフィリスは『理想の剣アルカディア』に誓う。


 やがて長い戦いは終わり、ここにアニマの使徒は死んだのだった。

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