02-02 新たな出会いの予感

 世界会議が行われるのはアリシアたちが礼儀作法を教えてもらった約三週間後であり、約十日ほどかけて移動を予定していた。

 それまでの間アリシアは特にやっておく事もなく、世界会議の期間中は課題が滞る為今のうちにやっておく事にする、しかし週に一度のお城への訪問をしてみると、フィリスがストレスで潰れていた。


「アーリーシーアー、私もう疲れたよ、久しぶりに思いっきり体動かしたい!」

「それは返って疲れるのでは?」

 とりあえず二人は城の裏手の広場へと移動する、此処は王族たちが見ている前で兵達の訓練や闘技大会などが行われたりする場所である、アリシアがこの前黒竜を置いて帰った場所でもあった。

「で、何をするんです?」

「うーん、アリシアって魔力弾をこうシュババババって撃てる?」

「こんな感じ?」

 アリシアは右手を空へ向けてフィリスの言う通り、魔力弾を連射する。

「そう、そんな感じ、それをこっちに撃って来て、この剣で切るから」

 アリシアは訓練の内容を理解するが、その前に確認しなくてはならない。

「フィリス、その剣ちょっと見せてちょうだい」

「別にいいけど、なんで?」

 フィリスは鞘ごと剣をアリシアに渡す。

「どのくらいの威力に耐えられるか知っておかないと、壊すとまずいし」

 アリシアは質問に答えながら剣を抜く、そして気づく。

「あれっ? この剣もしかして⋯⋯」

「どうしたのアリシアその剣に何かあるの?」

 アリシアは刀身に軽く魔力を通し、剣に刻まれた魔法文字ルーンを浮かび上がらせる、そしてそこにはアリシアの署名が書き込まれていた。

「この剣、私が作ったやつだ、なんでフィリスが持っているの?」

「えっ! そうなの? この剣は森の魔女様から兄様に成人のお祝いだって贈られた物なんだけど?」

 アリシアはこの剣を作った時の事を思い出す。

「確か四年ほど前に課題で作ったやつ、あれは確か師がどっかへ持っていったきりだったはず」

「四年前だとつじつまは合うね、でも今までアリシア気づかなかったの?」

「私が作ったのには、こんな装飾は付けて無かったし⋯⋯」

「じゃあその後で森の魔女様が付け足したんだね、そっかアリシアが作ってくれた剣だったんだ」

 フィリスは思い出す、この剣と共に戦い抜いて来た日々の事を、この剣でなければ今の自分は無事ではいられなかったに違いない。

「でも何でアレク様に贈られた剣を、フィリスが使ってるんです?」

 その言葉がフィリスに突き刺さる。

「⋯⋯えっと兄様はこの剣使わないし、これ以上の剣も手元に無かったし」

 フィリスはそう言いながらアリシアから目をそらす。

「まあ二人の間で話がついているのであれば別に構いませんが⋯⋯でも今後もこの剣をフィリスが使い続けるのはちょっと嫌ですね」

「何で!?」

「この剣私が作ったの四年前ですよ、今見ると色々と拙くて見てて辛い、今ならもっと良いのが作れるのに」

 フィリスは未だに父の部屋に飾ってある、幼い日に書いた父の似顔絵を思い出す。

「確かに辛いね⋯⋯」

 フィリスはアリシアの言いたい事を、なんとなく理解する。

「この剣を手直しする訳にもいかないし」

 そんな事をすればほぼ作り直しと同義であり、もはやその剣はアレクに贈られた物ではなくなるであろう。

「⋯⋯だったら私の為に別に作って貰う訳にはいかないかな、もうすぐ私も成人だし」

「なるほど、それも一つの手ですね、フィリスはいつ成人するんです?」

「だいたい五ヶ月後かな、って本当にいいの?」

「ええ、五ヶ月も準備期間が有れば、今の自分でも納得のいくものが作れると思うし、やってみたい」

 フィリスは自分のわがままに対して、気を悪くしていないアリシアに安心する。

「まあこの剣なら大丈夫ですね、『切断』と『防護』と『再生』の三つが付与されているし」

「『再生』もあったの? どうりで手入れが必要ない訳だ」

「今の私なら組み合わせにもよるけど五つは付与できる、後二つ何がいいか考えておいてフィリス」

「五つも! うわー何がいいかなー」

「まあ考えるのは後で、訓練始めますよ」

 そう言うとアリシアは剣をフィリスに返して離れ始める。

 そして二人の訓練が始まった。


 高速で撃ち出されるアリシアの魔力弾を、フィリスはその剣で次々と斬り払う。

 しばらく続けた後アリシアは、これは通用しないと判断し魔力弾の速さに変化を加える、ある物は早くまたある物は遅く、しかしフィリスはすぐに順応する。

「もっと色々試してもいいよ、アリシア」

「後悔しても知りませんよ、フィリス」

 そんな攻防が一時間ほど続き、そして一時中断になった、フィリスがバテた為である。

「つ⋯⋯疲れたー」

「ものすごい反応速度ですね、フィリスは⋯⋯」

「そういうアリシアは元気そうだね」

「ただ突っ立って魔力弾撃っているだけですからね、このくらいなら一日中でも出来ますよ」

「あーそれじゃあ勝ち目がないよ、何か疲れない方法はないかなー」

「なら四つ目の付与は『回復』にします? 長期戦に有利になるかと」

「なるほど、そういうのもアリか、ひとまず候補だね」

 大の字になって寝っ転がるフィリスと、その隣で座り込むアリシアの二人の反省会という雑談が始まる。

「とりあえずフィリスに、一発も当てれなかったのは反省です」

「まあ、こっちは防御に徹していたしね、それに正直過ぎるよアリシアは」

「正直⋯⋯ですか?」

「うん、これがルミナスならもっとエゲツない手を使って来るに違いないよ」

「ルミナス? 誰ですそれ」

 アリシアが始めて聞く名前だった。

「あれ? 言ったことなかったっけ、ルミナス・ウィンザード今度いくウィンザード帝国の皇女、そして私の親友」

「親友⋯⋯ですか?」

 アリシアはフィリスに、自分以外の友達がいたことに、少なからずショックを受ける。

「ルミナスはね、おそらくこの世界で最強の魔道士だよ」

「魔道士? フィリスよりも魔力があるの?」

 これまでアリシアが見てきた人間達の中で、フィリスが最も多い魔力保持者である。

「そうだよ、私の五倍くらいはあるんじゃないかな」

 アリシアはその答えに絶句する、なぜならアリシアの見立てでは、フィリスでギリギリ魔女の領域に入れるか? といった所だからだ。

 そのフィリスの五倍⋯⋯ ひょっとするとそのルミナスは、もしかして⋯⋯

「これでまた一つ、帝国行きが楽しみになりました」

「そう、ならよかった、絶対アリシアとルミナスは仲良くなれるよ」

 根拠のないフィリスの言葉、しかしアリシアには不思議と説得力を感じさせる。

 その後二人の訓練でボコボコになった地面を、アリシアは魔法で平らに戻してから家路につくのであった。

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