第二章 導きの世界会議

02-01 帝国への誘い

 アリシアとフィリスが竜討伐から戻って来て二日後、再びアリシアはエルフィード城へ事後報告の為やってきた、その時初めてアレクから世界会議開催に関して聞かされた。

「世界会議?」

「そうだ、毎年春過ぎにこの大陸の国家が全て集い今後について話し合う、それに今回は銀の魔女様にも参加してほしい」

「世界会議か⋯⋯もうそんな時期なんだ、今年は色々あってあっという間だったなー」

 フィリスののんびりとした発言に関し、アリシアは聞き返す。

「色々って私のこと、フィリス?」

「そうだよ、アリシアが突然現れて大変だったんだから! でもまあ、今となってはいい思い出かな? ⋯⋯それにしても今年の世界会議は帝国でするんでしょ、アリシアと一緒なら楽しくなりそう」

 どうやらフィリスの中ではアリシアも一緒に行く事は決まっているらしい、なんとしてでもアリシアにも来て貰わなければならないが、どう話を持って行くかアレクが考えていると⋯⋯

「帝国に行くんですか? 帝国か⋯⋯うん楽しみかな?」

 ⋯⋯なんかあっさり言質が取れてしまった。

 どうやって帝国へついて来て貰うか、どう話を切り出すか悩んでいたが⋯⋯無駄になってしまった、助かったと言えばその通りだが、何故か納得がいかないアレクだった。

「⋯⋯ずいぶん仲良くなったな、二人とも」

「まあ、そうですね」

「あれ? もしかして兄様羨ましいんですか? だったら兄様もアリシアの事を名前で呼べばいいんですよ」

 フィリスはさりげなく、助け舟を出す。

 フィリスの普段は眠っている、ここぞという時しか発揮されない勘が導き出す。

 ――お父様が兄様をアリシアにつけたのは、兄様とアリシアが恋仲になればこの国は安泰だという目論みも含まれているはず。

 フィリスはアリシアの事を義理の妹、もしくは姉になる未来も悪くないと思う、だからさりげなく誘導する。

「いや、それは失礼では無いかと思うのだが⋯⋯」

「私は別に構いませんよ、これから長い付き合いになるのですから」

「そ、そうか、なら今後ともよろしく頼む、アリシア⋯⋯殿、私の事はアレクと呼んでくれ」

「こちらこそ改めてよろしくお願いします、アレク様」

 そんな二人のやり取りを眺めフィリスは思う⋯⋯

 ――ヘタレたな、兄様は。

 フィリスはアレクを知っているつもりではいたが、こういう一面もあったのかと改めて知る。

 ――でもまあいいか、あんまり露骨だと台無しになるし、今しばらくは私がアリシアの一番でいたいし。

 よってフィリスはそれ以上深入りせず、話題を元に戻す。

「世界会議にアリシアも連れて行くって事は、やっぱりお披露目的な意味でなの? 兄様」

「まあそういう事だ、森の魔女様の死を正式に発表し、アリシア殿という後継者が居ると示す事によって、今後の無用ないざこざを避ける為にな、構わないかなアリシア殿?」

「ええ、構いません」

 その後しばらく、帝国の世界会議行きに関するあれやこれやの打ち合わせが続く、そしてアリシアがポツリと呟く。

「でもこうなると、一度正式に見直して置いた方がいいですね」

「見直すって何を?」

「礼儀作法です、私が師から学んだものはどうやら若干ズレがあるようですので⋯⋯恥を掻きたくありませんし、どなたか講師の方を紹介して貰えませんか?」

「なるほど、それならうってつけの人物がいる、後で紹介しよう」

 フィリスはそのアレクの答えに嫌な予感がする。

「ねえ兄様、それってもしかしてローゼマイヤーさん?」

「そうだ、これ以上の人選は無いだろう」

「やめといた方がいいんじゃないかな、ローゼマイヤーさんは⋯⋯」

「そのローゼマイヤーという方は、どんな方なんですか?」

 アリシアはフィリスの様子からさすがに不安になってくる。

「この間、アリシア殿のショートケーキを持って来るよう手配したあの人物だ」

「あの時の年配の侍女の方ですか、そっか⋯⋯あの人か、それでお願いします」

「大丈夫かな?」

「心配ならお前も一緒に受けたらどうだ、最近はご無沙汰だっただろう」

「⋯⋯わかったわよ、アリシアだけだと少し不安だし」

「何か問題があるのですか?」

「⋯⋯めちゃくちゃ厳しいのよローゼマイヤーさんは」

 アリシアの疑問はこの後すぐ分かるのであった。


 その後アレクとの話が終わった後、アリシアとフィリスの二人は礼儀作法の講習を受けるべく、城の一室で待機していると一人の女性が現れた。

「フィリス殿下、銀の魔女様、この度お二人の礼儀作法の講師をアレク殿下より仰せつかった、マゼンダ・ローゼマイヤーです、よろしくお願い申し上げます」

「よろしくお願いしますローゼマイヤーさん、この間はケーキありがとうございます」

 そんなアリシアの、感謝の言葉に対してローゼマイヤーはこう答える。

「主人に、そしてお客様に対して満足して頂く事は私共の務めですのでお気になさらぬように」

 そして完璧な一礼するローゼマイヤーをアリシアは、憧憬の眼差しで見つめる。

「ローゼマイヤーさん、今日はよろしくお願いします⋯⋯その程々に」

「フィリス殿下、貴方の方からお越し頂くことは大変珍しい事です、そうですねにしておきましょうか」

 こうしてアリシアとフィリス、二人の礼儀作法の授業が始まった。


 それから約四時間ほど経った頃、ローゼマイヤーは手を叩きながら言う。

「今日の所はこの位にしておきましょうか」

「ありがとうございました」

「⋯⋯」

 その終了宣言にアリシアはお礼をし、フィリスは無言である。

「正直驚きました、少々修正するだけで済みましたので、銀の魔女様はしっかりと森の魔女様から学ばれておられた様ですね」

 ローゼマイヤーとしても意外な事だった、あのいい加減な森の魔女が、弟子に此処までしっかりと礼儀作法を、教えられたと言う事実に対して。

「そしてフィリス殿下、少々弛んでいるのではありませんか」

「くっ」

 この四時間フィリスの方は散々だった、本来こういった習い事は苦手であり、しかも今回はアリシアの事が気になるあまり雑念だらけでミスの連発、大恥であった。

「認めたくはありませんがフィリス殿下は本番には強いお方です、きっと本番では成し遂げられると期待しております、ですが貴方の一挙手一投足がこの国の未来を担っている事をどうぞお忘れなきよう」

 こうして一礼し去ろうとするローゼマイヤーを、アリシアが呼び止める。

「今日はありがとうございました、また何かあったら力を貸してください」

「私に出来る事であれば、いつでも何なりとお申し付け下さいませ銀の魔女様、これからのご活躍を期待しております」

 最後にわずかな笑みを浮かべ、ローゼマイヤーは退室していった。

「⋯⋯アリシアってもしかしてローゼマイヤーさんが気に入ったの?」

「あれだけ私に尽くしてくれて、嫌いになる要素が何処にあるの?」

「いや、めちゃくちゃ厳しいし⋯⋯」

「ものを教えるのは厳しくて当たり前では? 師もそうやって私に魔法を教えてくれましたよ」

「⋯⋯もしかして似ているの? 森の魔女様とローゼマイヤーさん」

「似ている⋯⋯そうかも知れません、全体的には違うのだけど時々雰囲気が同じと思う時があるかな?」

「⋯⋯そっか」

 こうしてフィリスの当初の不安は杞憂に終わったが、なんだか納得のいかないままアリシアの礼儀作法の習得は無事終了した。


 アリシアとフィリスがローゼマイヤーの授業を受けていた頃、王の執務室でアレクは無事アリシアから帝国行きの同行の承諾を得た事を報告していた。

「そうかよくやったぞアレク、今から帝国と共和国へ手紙を出せば一週間もあれば届くだろう」

「フィリスのおかげですよ、こうも簡単に話が進むとは⋯⋯ここまで変わるものなんですね信頼関係を築くと」

「お前たち二人に任せて正解だったな、儂ではこうはいかなかっただろうからな、ともあれ今後もしっかりやるのだぞアレクよ」

「はい父上、フィリス共々アリシア殿との、信頼関係の構築に励ませて頂きます」

 こうして執務室を後にするアレクの背を見ながら、我が子の成長に満足するが、しかし⋯⋯

「アレクとアリシア殿が婚姻となればこの国は安泰⋯⋯と思ったがこちらの方の望みは薄いな」

 まあ仕方がない、欲をかきすぎて全てを台無しにするわけにはいかない、何事も程々にが魔女との上手な付き合い方だと、ラバンはよく理解していた。

「世界会議か⋯⋯さてどうなる事やら」

 間違いなく波乱があるだろう、しかしなんとしてでも成し遂げなければならねい、この国の⋯⋯いやこの世界の未来のために。

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