01-06 魔女と姫騎士の出会い

 〝金色に眩しく輝く少女〟それがアリシアが見た、その少女の最初の印象だった。


 思わず瞬きした後、再び見上げた少女はごく普通であり、先ほどの光は無くなっていた。

 これはどういうことなのだろう?

 アリシアは思わず思索にふける、そもそも目の前の少女の金色要素は、長い背中まで伸ばした金色の髪くらいである。

 身長はアリシアより高めで、赤色の上着と黒のスカート、そして白のニーソックス、その上から着込んでいるのはミスリル製のライトアーマー⋯⋯まるで物語に出てくるような完璧な姫騎士といえる格好である。

 こんな格好の人が本当に居るんだな⋯⋯と、自分の事を棚に上げてもう一度、少女の顔を見上げる。

 そのサファイアを思わせるような青色の瞳がとても印象的だった、真っすぐに伸ばした姿勢と凛々しく意志の強さを感じさせる表情、今の道端の縁石に腰掛けうなだれていた自分自身とはまるで正反対である。

 そして一つの答えにたどり着く、先ほどの光あれはいわゆる後光という物なのかと⋯⋯


「あの⋯⋯どうかしましたか? 何かお困りですか?」

 どうやらそう短くない時間を、アリシアは奪われていたらしい⋯⋯

 困っている、そう確かに困っていた、そして答えにたどり着ける方法がアリシアには分からなくなっている。

 そんなアリシアに差し伸べられた救いの手⋯⋯アリシアは素直に頼ることにした。

 このチャンスは逃せない、しかしどう説明すればいいのか⋯⋯

「銀貨が一枚要るんですが、どうすれば手に入れられるかわからず、困っていました」

 その説明はあまりにも端的で、結果だけを伝えるものだった。

「銀貨を⋯⋯一枚だけですか?」

 そのあまりにも言葉足らずなアリシアの説明に、フィリスは僅かに動じる。


 この世界のお金は、次の様になっている。

 小銅貨 1Gグリム

 銅貨 10Gグリム

 小銀貨 100Gグリム

 銀貨 1,000Gグリム

 小金貨 10,000Gグリム

 金貨 100,000Gグリム

 大金貨 1,000,000Gグリム

 ちなみに単位のGグリムはこのグリムニア大陸の名前、並びにその創造主グリムニール神にちなんで名づけられている、今から約二百年ほど前に制定されたこの国だけではない、この大陸共通の通貨である。

 そして今、アリシアが欲している銀貨一枚( 1,000Gグリム)とは、この王都で少し上等な料理屋で一人が昼食で使う位の金額である。


 なぜその程度の小銭で、これほどの力を持つ魔女が困り果てているのか、フィリスには皆目見当もつかない。

「銀貨一枚くらいでしたら、差し上げますが⋯⋯」

 フィリスは手持ちの財布から一枚銀貨を取り出し、アリシアに差し出す。

 それに手を伸ばしかけたところで、アリシアの手が止まる。

 このままただ受け取って構わないのだろうか? 自分は魔女、他人に施しなどしない、なら自分も施される訳にはいかない。

 アリシアは銀貨に伸ばしかけた手を戻した後、ゆっくりと立ち上がりフィリスに語り掛ける。

「私は魔女、その一枚の銀貨を対価に、あなたの望みを一つ叶えよう」

 たとえどんなに無様をさらしたとしても、師より受け継いだ魔女の矜持は捨てない、アリシアにとって初めての決意だった。

「えっ?⋯⋯対価って?」

 内心激しく動揺するが、それでも現状を素早く理解し、この千載一遇の機会をどう生かすべきかフィリスは考える⋯⋯答えは一つだった。

「私の父を、助けてください」

 それからフィリスは父の現状を、現在に至るまでを事細かに説明する、それを聞きアリシアはしばらく考え込む⋯⋯そして。

「それ本当に病気なのかな? 呪いの一種なんじゃ⋯⋯」

「呪いって、神官様は違うとおっしゃられていたわ」

「より高位の術者が掛けた呪いの中には、見抜けない術もあるよ」

 だとしたら今までの苦労は一体⋯⋯それに父を診断した神官もグルの可能性が⋯⋯そんなフィリスの思考はアリシアの声で遮られる。

「さあ、あなたのお父さんの所へ連れて行って」

「えっ!?」

「行かなきゃ治せないでしょ」

 それはすなわち、この魔女を城まで連れて行くという事、一抹の不安がフィリスの頭に浮かんだが信じる事にする。

「わかりました、この不肖フィリスめが魔女様をわがエルフィード城へと、ご案内させていただきます」

「⋯⋯えっ!?、お城?」

「はいそうです、あっ申し遅れました私はこのエルフィード王国、国王ラバン・エルフィードが娘フィリス・エルフィードと申します、以後お見知りおきを」

「王女⋯⋯様? 国王があなたのお父さん」

「はいそうですけどそれが何か?」

 何かどころではなかった、この段階ではアリシアは王に会いに行く気など無かったのである。

 元々の予定では、十年後くらいに行けばいいや位の気持であった、しかしそれだともう王は亡くなっているだろう、一年も持てばいい、それがアリシアの見立てだった。

 魔女として約束した手前、行かないわけにはいかなくなった、どうしてこうなった、そもそも何故こんな所に王女がほっつき歩いているのか⋯⋯

「⋯⋯そっか、『城下町の白百合姫』か」

「えっ!?」

 突然目の前の魔女の口からフィリスもよく知ってはいるが、今なんの脈絡もない名称がこぼれ出た事に戸惑うが、すぐさま気持ちを切り替える。

「それではエルフィード城へ、ご案内します」

「⋯⋯」

 またアリシアの気持ちが暗く沈んで行くのだが、こうなった以上は行かない訳にもいかない。

 二人はエルフィード城へ向けて歩いていく、その間二人の間に会話は無かった。

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