似たもの同士
──以下、××ストーカー事件、事件記録より。
資料1.近隣住人調書(事件現場となった××アパート 303号室住人 男性)
【始めの違和感は洗面所でした。外に出かける彼女に対し、俺は「いってらっしゃい」と呟くように声をかけた後、鍵を開けて部屋に入りました。いつも通りの彼女の部屋。でも、洗面所だけ違いました。見た事のない歯ブラシが置いてあったんです。色合い的に見て、男の物だと思いました。ピンと来ましたよ、これは浮気だって。
はい?それだけじゃ疑うには弱いんじゃないかって?確かにそうです。けど最近、彼女の様子がおかしかったんですよ。妙にウキウキしながら外に出かけてて…ま、無闇やたらに疑うってのも気が悪いもんですからね、疑惑を無くすって意味でも、俺は部屋に置いてあったパソコンを見たんです。もしそこに何もなかったら彼女を疑うのはやめようと思ってね。けれど、そこにあったのは望む物では無かった。
彼女のパソコンのパスワードは誕生日だったんで、すぐに分かったんです。で、開けたんですよ。そしたらメールフォルダにその…男への…熱いラブレターがね。他にもそいつとデートでもしたのか、部屋着姿とかの写真がいっぱいあって。
それを見た俺の気持ち、分かります?はらわたが煮え繰り返るなんて言葉がありますけど、本当に的確だなって思いましたよ。体の中がカッと熱くなって。あの瞬間でしたね。殺意が芽生えたのは。
だって彼女の事をずっと見て、ずっと聴いてたのは俺なんですよ?なのに、あ、あ、あの女は俺じゃない、他の男にうつつを抜かしやがって!!
その後のことですか?単純ですよ。俺は自分の部屋からナイフを持ってきて、彼女が帰ってくるのを待ちました。何時間経ったか忘れましたけどね、帰ってきたんですよ。奴が。しかも何が上機嫌なのかヘラヘラ笑いを浮かべてね。待ってる間にやっぱり止めようか、なんて考えもあったんですけどね、あの顔を見たら一瞬で無くなりましたよ。
…?その時の服装?赤の水玉だった気がしますけど…とにかく俺はアイツがドアを開けた瞬間に刺してやったんです。ええ、腹です。あん時のあのアバズレの顔と言ったら!フフ…刑事さんにも見せてやりたかったですよ。
え?彼女と話したことですか?無いですけど。でも愛し合っているなら、会話の有無なんて関係ないじゃないですか】
備考1.事情聴取終了後、男を住居侵入及び傷害の容疑で逮捕。
資料2.被害者 事情聴取(同アパート201号室住人 男性)
【はじめの違和感は視線、でしたね。いつの日からか感じたんですよ、見られてるなあ…って。
外だけだったのが、段々と部屋の中も見られてる気がして。それは感覚だったんですけど、段々不安になってきて。そしたらどこへ行っても、物陰からずっと、同じ人が見てくるのに気がついて。
1日だけだったらまだ気にならないんですけど、外で何回も何回も数日に渡って…いえ、話しかけられはしなかったです。ただじーっと見つめてくる感じで。
はい、尾行されるのもありました。で、どこかで見た事ある気がして、そしたら思い出したんです。アパートの人です。僕は、アパートの他の住人と関わりがなかったですけど、あの人はゴミ捨て場で一度だけ挨拶したことがあって。はい、間違いありません。
他にも郵便受けに小包が届いて、中身が髪の毛の束だったり、知らないアドレスからメールが送られきて、僕しか知らないはずのその日の行動が全部書いてあったり。
あ、あと洗面台の歯ブラシが無くなってるなんてのもありました。今考えるとあそこのアパートの鍵、すごく簡単な作りなんですよね。だから、いつ部屋に入られても不思議じゃなかったんです。
けれど、まさか刺されるなんて。…刺された時の事ですか?はい、はっきり覚えてます。あの女が初めて近づいてきたんです。え、なんで急に近づいてきたんだ?と思ったら、「なんで私の愛に気づいてくれないの!?」って叫ばれて、そのあとすぐ切りつけられました】
備考2.被疑者女性は未だ逃走中。腹部を負傷していると見られ、現在も捜索が続けられている。
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