政府専用機の中で
日本政府はYS11の時代より政府専用機を導入していた。
主にYS11を海外に売り込むための実績作りである。
しかし同時に外交的な要請もあった。
大戦後、東アジアにおいて明治以来圧倒的な工業力を誇る日本は東アジアの工場、兵器工場としての役割を求められていた。
また敗戦国とはいえ、国力がある日本にはアジアでも指導的な立場をアメリカから要求されていた。
そのためアジア諸国に政府首脳が外交特使として行くことが多かった。
初めのうちは民間機をチャーターすることでしのいだ。
だが、やがて外遊の頻度の増加、受け入れ先及び航空会社との交渉、さらに外交スケジュールと機材の調整などで時間を食うようになり政府の命令で飛ばせる政府専用機の導入が真剣に考慮された。
だだ YS11とそれに続く小型ジェット機及びビジネスジェットは東南アジアはともか、く、重要な外交相手であるアメリカとヨーロッパ往復するには国産機では航続距離が足りなかった。
そのため日本政府はアメリカからボーイング737および767を導入し政府専用機とした。
だが世界第二位の GDP を誇る日本日本の政府専用機としては、まだ能力が不足していた。
また加熱し始めていた日米貿易摩擦アメリカの赤字解消のためにさらに政府専用機の更なる導入を求められていた。
その結果、日本は航空会社が大量に購入していたボーイング747の政府専用機としての導入を決定し三機が航空自衛隊に配備されることになった。
空軍はEATOの指揮下にあり、日本独自の運用が出来ないため、空自に配置となった。
エアフォースワンより多い三機という数字は国会で野党からアメリカの要請で余計な買い物をさせられたと非難され追求された。
確かにアメリカからの要求もあったが、運用上の合理的な理由もあった。
通常政府専用機が運用されるときは、総理が搭乗する一機、万が一の故障に備えてもう一機。
そして、主務機の整備を行う場合と訓練のために、もう一機を配備しておくのが理想だ。
特に訓練は大事だった。
頻繁に専用機が利用されると碌に訓練、非常事態を想定し対応する訓練を行うことができない。
任務中に行ったらマスコミの格好の餌食になる。
さらに渡航先の実地調査のためにも必要だった。
外交上初めて訪れる国や空港も多く、政府専用機が着陸できるか実際に確認するために実機を使用して検証するのに三機あるとスケジュール的に余裕が出来るのだ。
ボーイング767で代用できるという意見もあったが同じ747の方が良い。
バブル景気により予算が潤沢にあったということもあり三機が導入された。
その最初の一機が導入され任務使用が可能となり湾岸戦争への対処の為、総理がニューヨークへ行く時に、はじめて使われた。
ただ二番機はまだ訓練と調整の段階、三番機はボーイングの工場で製造中だった。
そのため予備機には既に導入されているボーイング767が当てられた。
767でも問題はなかったのだが、すでに導入が決定している747のお披露目を兼ねてのことだ。
そして747は政府専用機の主力としてその後20年以上空を飛ぶことになる。
747の特徴的な一部二階建てというシルエットは印象に残りやすく日本の顔として永く記憶される。
ある意味政府専用機としての役割を十分に果たしたと言えた。
政府専用機について
https://kakuyomu.jp/works/16816927862107243640/episodes/16818093091610621229
しかしそれは、91年当時では未来のことでありこの段階では、はるか遠い未来だ。
そして機内の大会議室では華やかな門出とは違って重苦しい雰囲気に包まれていた。
「これほどの兵力を出す必要があったのかね?」
総理は憮然とした。
「アメリカ軍の勝ちなのだろう」
「湾岸は我が国にとって重要です。石油の大半を輸入しています。また、ソ連崩壊後に備える必要があります」
「ソ連が崩壊するだって」
佐久田参与の言葉に総理は驚いた。
「確かにペレストロイカでそれの内容が非常に苦しいことは分かっているが、崩壊というのは言い過ぎではないのか」
「いえ、ソ連崩壊が予測されていることですこれは10年も前に唱えられていました」
「何を証拠に」
「人口と出生率です」
「ソ連は我が国より人口が多いぞ」
「ですが出生率が低下してきています。つまり将来ソ連の人口は減って行きます。人口の減少は国民総生産が減ることを意味しています。効率化によってある程度抑えられるでしょうが母数となる人口が減っては上昇は見込めません」
「馬鹿な何を根拠に」
「フランスのエマニュエル・トッドという人口学の学者が唱えています。我々も検証しましたが彼の学説は十分に信用に値すると考えます。実際にペレストロイカで公表された数字と学者の唱えた理論は恐ろしく近似しておりました。ソ連が崩壊するのはほぼ確定しています。それも政治的な過ちを犯すでしょう」
「どうしてだね」
「ソ連は複数の共和国から成立しています。その各国は国が独立を目指しています。軍拡により疲弊したソ連にもはや彼らを引き止めるような力はありません。軍事介入をしようとしても国際社会から非難を浴び孤立します。もはやソ連の崩壊を引き止めることは出来ないでしょう。また現状に不満を持ちクーデターを起こそうとする人間が出るでしょう」
「また古いかつてのソ連に戻ろうというのか」
「それも十分にありえますですが政治的混乱が広がり崩壊をより加速させるだけでしょう。つまり冷戦は完全に崩壊し米ソ対立はなくなるわけです」
「それは喜ばしいことじゃないのか」
「確かに核戦争の可能性はなくなります。しかし別の問題が発生します」
「どういうことだね」
「ソ連が崩壊した後、世界残る超大国はアメリカ一国のみです」
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