竹島派遣隊

「例の連中の動きはどうだ?」


「こちらに向かっているようです」


 竹島派遣隊隊長の西崎三佐は部下の返答に肩を落とした。

 東京から最新情報が来たと思ったが、目の前のテレビ、CNNの生放送からの情報だ。

 このような情報は自分たちのトップである六本木から来てほしい。

 六本木から来る情報は確実なのだが、何重にもチェックされ、暗号化されているため、数時間遅れで届くことが多い。

 十年ほど前、東京湾でタンカー火災が起きた際、護衛艦と潜水艦によって砲撃および雷撃で撃沈した事例がある。

 そのとき、防衛庁長官が最初に撃沈報告を聞いたのは海上保安庁長官からのお礼の電話で、内部からの報告はその数時間後だった。

 サボタージュかとも思われたが、護衛艦から護衛隊、護衛隊群、護衛艦隊、海上幕僚監部、統合幕僚監部と情報が上がっていく指揮系統の複雑さが原因だった。

 まともに対応してくれるか心配になる。


「規模は?」


「拡大しているようです。さらに新たに数隻の漁船が出たそうです」


 最初は一隻だけかと思ったが、呼応する漁船や団体が出現し、規模が拡大。

 現在確認されているだけで、十数隻、百人以上の規模になっている。

 下手をすればさらに拡大しそうだ。


「師団司令部からは何か言っているか?」


「警戒を厳にせよ。必要とあらば増援を送る、と」


「感謝すると伝えろ」


 間もなく夜であり、ヘリの活動も不可能になる。

 増援を送ろうにも、送れない。

 仮に送られてきても、二島合わせて面積がわずか0.2平方キロしかない上、急勾配の竹島だ。

 自分たち100名だけで手一杯で、これ以上の部隊が駐留できる場所がない。

 護衛艦の一隻でも欲しいところだが、韓国を刺激しないため、北の演習に備えて近くにいるのは巡視船<おき>のみだ。

 非常に心細いようにも見えるが、「おき」は派遣隊の生活基盤や物資の備蓄、真水および燃料の供給に多大な貢献をしている。

 それに、韓国からの愛国者たちを逮捕するには<おき>が必要だ。


「<おき>からの連絡は?」


「現在は島西側で待機中。しかし、レーダーで捕捉後、追尾し竹島への接近を阻止。それでも接近し、領海に入るなら夜明け頃に密入国管理法違反で逮捕するそうです」


「了解した」


 妥当な判断だ。

 合法的かつ国際的に認められるやり方であり、下手に武力行使するよりも良い。

 武装した軍人が逮捕すれば国内外から反感を買いかねないし、海からの侵入者は海上保安庁の仕事だ。

 だが、第五師団――中国四国を統括する陸上自衛隊の師団司令部があえて中隊規模の部隊に、通常は一尉が指揮する規模にもかかわらず、三佐である自分を隊長に送り込んできた。

 その意味を理解するならば、臨機応変に対応し、決して油断するなということだ。


「見張は?」


「予定通り三直配置に付いています」


 標高の高い男島には二個小隊を配置し、警戒を続けている。

 女島には警戒のため、一個小隊を分派している。

 三交代で警戒配置を取らせており、油断はないはずだ。


「<おき>より通信です。レーダーに捕捉。これより行動を開始すると」


「了解した、と伝えてくれ。こちらも警戒レベルを上げる。予備隊も警戒に回せ」


「文句が出そうですな」


「黙らせるさ」


 嫌な予感がして、島の各所を巡回するよう命じ、一部は即応待機させる。

 もし、仕掛けるとしたら、自分なら今この瞬間を狙う。

 支援の巡視船がいなくなり僅かでも手薄になること、夜明け前の今が一番仕掛けやすいのは戦術上の常識だ。

 すぐさま、二人一組でパトロールが出ていった直後、西側から爆発音がした。


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