北爆中止
須加は先日の出撃でも援助物資を押収していた。
北ベトナムの援助がある限りベトコンは抵抗を止めないだろう。
さらに軍機密というより米軍が認めないだけだが、捕虜にしたベトコンの中に北ベトナムの方言を話す者がいた。
彼等がホーチミンルート、ラオスなど内陸国から移動してきたことは明らかだった。
「北ベトナムの支援を止めない限り、ベトコンは戦い続けるでしょう。これでは戦争は終わりません」
「しかし、北ベトナムへの空爆は非難が大きいですよ」
米軍も北ベトナムが策源地だと分かっておりハノイを中心に空爆を行った。
防空網が貧弱な北ベトナムは大きな被害を受けた。
その日は東京空襲の比ではなかったと言われている。
しかし、北爆は中止された。
ハノイに入った報道各社が悲惨な被害を報道したため米軍への批判が強まった。
支持率の低下も起こりジョンソン大統領は北爆の中止を命じた。
通信技術とメディアの発達により即時に全世界に戦争の悲惨さが伝わるようになった。
もし東京空襲の実態を、すぐに報道できていたら、違う結果になったかもしれないという話もある。
いずれにせよ、報道が米軍の大規模空襲、最も効果的な手段を止めたのは事実だ。
「北爆が有効である事は事実です。それを実行できない以上、苦戦は必至です」
だが世論の反発で北爆を中止している。
この分だとラオスのホーチミンルートも放置だろう。
何もかも制限が多くて上手く戦えない。
「作戦が上手く行きません」
戦車を攻撃しても良いが戦車の工場は民間地域に近く誤爆の危険があるため禁止。
同じ理由で弾薬集積所を破壊できても弾薬工場は民間地域に近ければダメ。
物資を運び込む東側の船団も止められない。
前線で叩いても、後方から次々と物資、援助が送り込まれている状況では、根っこを引っこ抜かない雑草と同じで次々と生えてくる。
「米軍が負けるかもしれません」
「まさか」
「あくまで私の私見です。このままの状態ならば」
マクナマラはキルレシオ、米軍の被害よりベトコンの損害が大きいことから西側優位、勝っている言っていた。
だが、それを上回る補充がベトコンで行われていたら、負けてしまう。
南ベトナム政府に反発する住民は勿論、北ベトナムからの援軍が来たら拙い。
マクナマラ本人もそのことを認識しているのか、戦争に勝てないと言い始め国防長官を解任されている。
軍の合理化を行い失敗し混乱をもたらしたためとされるが、進めてきたベトナム戦争が劣勢となりに懐疑的になったためだろう。
「この状況をアメリカは改めると思いますが」
須賀はそう言ったが、自分自身信じていなかった。
官僚主義的な米軍が自らの非を認めて改めるとは思えなかった。
それ以上に現状上手くいっている。
ベトコンを追い詰めつつあり、今更変えようとは思っていないようだ。
「いやあ、本日はどうもありがとうございます」
夜も更け空気が悪くなってきたので佐々は切り上げることにした。
必要な事は十分言えたし、自分の境遇も自ら話すことで、状況を整理できたからだ。
「この辺でお開きにしましょう」
「いや、変な事を言ってしまって済みません」
「いえ、大変参考になりました」
「またよろしければお話をお聞かせください」
外務省と防衛庁は太平洋戦争中のわだかまりもあり外務省は防衛庁の情報を受け取ろうとしない。
そのため、前線の情報が手には入らないことを佐々は憂いており、自分で手に入れる必要があると考えていた。
そのために須加達に接近したのだ。
「ええ、機会があれば」
須加は砂川と一緒に上原を担ぎ、佐々と分かれて部屋に戻った。
部屋に戻った須賀は直ぐにベッドに直行。
砂川も飲み過ぎていてこのままベッドに入りたい気分だった。
そのまま眠ろうとしたが、外で爆発音が響き、眠りを妨げた。
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