67香港左派暴動
佐々が、苦笑しながら言う香港暴動、六七香港暴動とは前年に起きた香港の毛沢東主義者による暴動だった。
香港はアヘン戦争により英国側へ租借されて以来、日本の占領を除いて英国領として存続していた。
南北中国共に返還を求めていたが、英国は条約を盾に拒絶していた。
そして南北中国には温度差があった。
中華民国側は表向き返還を求めていたが、実際には国民党幹部の多くが香港の銀行に秘密口座を持っており、賄賂で得た金を貯め込んでいた。
そのため、香港はアジアの金融センターとなり、豊富な資金をアジア各国に貸して更に繁栄していた。
また権力抗争に敗れた時の亡命先としても重要であり、香港が英国領であることにメリットを感じていた。
だが、打倒資本主義を掲げる中華人民共和国は全面返還を要求していた。
また、ベトナム戦争の最中であり、香港はベトナム沖に展開する艦隊の補給休養地として活用され、重要な拠点となっていた。
ここで香港を混乱させれば、ベトナム戦争の戦況を少しでも北ベトナム優位に出来る上、恩を売れると考えた中華人民共和国は熱心に返還するよう求めた。
当然、長江の北側にしか領土を持たない中華人民共和国の主張を英国は無視。
怒った毛沢東は、直接香港の左派系住民を扇動して英国領からの離脱と中華人民共和国への編入を画策した。
当時、香港は自由主義、規制が殆ど無かった。
自由な経済だったが同時に政府による保護もないため、貧富の差が大きく貧困層は不満を持っていた。
彼らは毛沢東思想に共鳴、いや香港政府を打倒する言い訳にして暴動を起こした。
その最中に領事として対応に当たったのが佐々敦行だった。
「大変でしたよ」
香港各所で起きる暴動の情報収拾を行うと共に香港の在留邦人の脱出準備に奔走した。
東洋の真珠と呼ばれ、南中国の莫大な資金が流れ込む香港は金融街であり日本の商社や銀行がその資金を運用しようと進出し、登録されているだけで三〇〇〇人の日本人が暮らしていた。
他にも短期の旅行者や無届けの定住者、トランジットの日本人もいてその所在を確認する必要もあった。
彼等の安全を、最悪の場合、日本に無事に返すことが佐々の任務だった。
佐々は具体的な計画として安全な避難場所香港郊外の日本人経営のレストランとホテル――暴動が頻発する香港中心部から離れており安全が確保されているかつ、食糧と水、トイレがあり大勢が数日間籠城できる場所を中心に確保。
脱出作戦の為に必要なルート――道路が封鎖されやすい市街地を避け、郊外の道路を設定。
救出艦艇の入港場所、航空機の離着陸の準備。
それを暴動が行われる最中、各所を駆け回って全て整えたのだ。
「私も香港からの脱出準備のために沖合へ出撃し待機していました」
佐々の話を聞いていた砂川も感慨深く言う。
香港暴動が激化し、邦人を脱出させるために海自及び国防軍に脱出作戦の準備立案が行われていた。
艦隊も同盟国である台湾南部に集結し、実施に備えた。
「何とか沈静化してくれて助かりました」
西側艦隊と香港政府治安部門の努力により事態は沈静化。
香港は平穏を取り戻し、無政府状態は回避された。
救出作戦は撤回され、艦隊は日本へ引き返した。
大和の出撃が遅れた理由の一つは香港暴動への対処、救出作戦が発動された時、参加するためだ。
「暴動が沈静化され、救出作戦は発動せずに済みましたが、もしも起きていたらと思うと身の毛がよだちます」
佐々は笑っていたが、実行されれば現地の責任者として困難な指揮を執ることになっただろう。
「ところでベトナムの戦争は上手く行きますか? 米軍は今年度中に戦争は終わると言っていますが、須賀さんはどのようにお考えですか?」
佐々の質問に須加は少し考えてから自分の考えを慎重に述べた。
「自分の考えですが、ベトコンは青息吐息です。このまま行けば倒れるでしょう」
「戦争は終わりますか」
「いや、ベトコンはねばり強く、戦いは長く続けられます。今は下降線ですが、途中で上向く可能性があります」
「まさか」
「いや、あり得ます。ベトコンは北ベトナムの支援を受けています。実際、前線で北、東側からの援助物資を押収したことは一度や二度ではありません」
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