大躍進政策

「鉄は国家の基礎なり」


 毛沢東が人民代で演説したこの一節は確かに的を射ていた。

 ビスマルクの鉄血演説をはじめ、鉄が近代国家の発展に重要な事は明らかだった。

 先の太平洋戦争で日本がアメリカに負けたのも、国力が低かったため、極論だが鉄の生産量が低かったからだ。

 いくら船を作ろうにも原料となる鉄が無ければ建造できない。

 航空機も、航空機自体はアルミでも、生産するための工場や完成品を収容する格納庫の構造材に鉄が必要だ。

 実際、航空部隊と艦艇部隊で鉄の分配量を巡って衝突が起きていた位だ。

 それほど鉄は重要だった。

 その鉄を増産する毛沢東の着眼点は間違っていない。

 しかし、中国に鉄を生産できる技術、大型の溶鉱炉を建造できる実力がなかった。

 ならば出来る方法で達成しようと考えたのが古来からのタタラ製鉄法だった。

 生産量は少ないが数を、北中国の全ての農村で製鉄を行わせる事で量を確保しようとした。

 独裁者である毛沢東の言葉に反発する者はなく――毛沢東主義の北中国で毛沢東に反対することは反共産として処罰される――直ちに実行され、農村ではタタラ製鉄が行われた。

 そして大失敗した。

 近代製鉄の特徴は生産量と共に品質が高いことだ。

 高炉の中で高温に熱して作り出した鋳鉄には不純物が少なく、高品質な鉄製品、頑丈な製品を作ることが出来る。

 だが、素人が作ったタタラでは、低温しか出せない上に、不純物も多い。

 量は生産できても鉄くずどころか、不純物が多すぎて使い物にならないゴミにしかならなかった。

 だが数にこだわる共産中国はそのゴミさえ鉄としてカウントしていた。

 そもそも、原料になる鉄鉱石が各農村に提供されなかった。

 しかし期日までにノルマを達成するよう命令、達成できなければ反共産主義者として処罰される。

 そのため、村々では身近にある鉄製品、農具を溶かして提出した。

 農具が無くなったため農業生産は急速に低下した。

 更に農業政策の失敗、これまでの畑に倍の作物を植えろとか、害虫や雀を根絶せよと命じて失敗していた。

 農作物を密に育成しても栄養分が足りず、かえって生産量が減ることを毛沢東は元農民でありながら理解できなかった。

 あるいは共産主義の精神があれば解決できると考えたのかもしれない。

 どちらにしても計画は失敗し収穫量は急減少した。

 そして害虫、害鳥の駆除がトドメを刺した。

 害鳥とされた雀は確かに穀類を食べる。

 だがそれ以上に作物を食い荒らす害虫を食べており農作物の虫害を防いでいた。

 その雀がいなくなったため、害虫が大繁殖して農業生産に壊滅的なダメージを与えた。

 結果、農作物の収穫は人民の必要量を大きく下回り、大飢饉が発生。

 多くの人民が餓死した。

 正確な記録はないが、最低でも一千万以上の人民が餓死したと言われている。

 毛沢東の失敗は明らかだったが自身の無謬性を維持するため失敗を認めず政策も失敗を認めないため、撤回しなかった。

 中国を良くしようと、活発な議論、批判も許容する百花斉放百家争鳴、「たとえ中国共産党に対する批判が含まれようと、人民からのありとあらゆる主張の発露を歓迎する」と言う趣旨で良い提案を受けようとした。

 だが共産党への批判が多すぎるため、中止。

 それどころか共産党に批判的な意見を出した人間を逮捕し追放する愚挙に出る。


「資本主義者をあぶり出すための毛沢東主席の深謀遠慮である」


 と中国共産党は強弁したが、誰も信じなかった。

 そして、批判者を弾圧したところで、共産中国が行き詰まっていることは全かであり、批判者を消し去ったところで問題が消える類いでもない。

 結果、責任を転嫁するため、自らの地位を安泰にするため、毛沢東は外敵を求め戦争を、計画。

 満州国に侵攻した。

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