佐久田と佐藤と池田
佐久田が佐藤栄作に肩入れしたきっかけは、前総理池田勇人が財政の専門家として内閣に入っていた頃から始まる。
大蔵官僚から吉田元総理の引き立てで政治家になった池田は、吉田が外交官のため経済に疎いことから経済面で早くから主導権を握っていた。
北日本による吉田暗殺後も、その実力によって経済面で辣腕を振るっていた。
しかし、軍備に関しては、予算を抑える名目から軽軍備を求めていた。
佐久田が考える最小限の軍備さえ下回る数、北という脅威に対応出来ないくらいに下げようとした。
佐久田は日本が必要とする戦力を計算。
十個師団三十万の陸上兵力を基幹に海上、航空各十万にその他技官など十万人の総計六十万の部隊を国防軍と自衛隊併せて整備する、とした。
勿論、他にも予備役を大量に抱えるとした。
しかし、池田は拒絶した。
「この半分の兵力で十分だ」
財政家として軍備を可能な限り削減したい池田の発言だった。
当然、佐久田は反対した。
「それでは戦力は四分の一以下になり戦力が整いません」
ランチェスター方程式、戦力は兵力の事情に比例する法則からすれば半分に兵力を減らされたら戦力は、四分の一。
これでは到底、国際的な協力、アジアの平和の為の予備戦力確保、日本の発言権を担保するための戦力確保も出来ない。
そもそも、半分では北日本と戦うにも戦力が不足する。
北は極東戦争で痛手を負っていたが、ソ連からの大量の移民――大祖国戦争で夫を失った未亡人を受け入れたり、抑留されていた旧関東軍将兵を受け入れる事で人口を増やした。
また、オハの油田を使い工業化に成功し満州国などから食糧を輸入。
結果、北日本は急速に人口を増やし50年代後半には一五〇〇万を超し二〇〇〇万まで増加することが見込まれていた。
また、徴兵制度を強化した結果、人口の三%、四五万の軍隊を持つに至っていた。
大半は陸上兵力だが稚内を橋頭堡にして侵攻してくれば脅威だ。
戦時になれば、豊富な予備役の動員とソ連からの増援が見込まれていた。
最悪の場合、一〇〇万を超える兵力を相手にする事になって仕舞う。
計画案でも劣勢なのに半分にされたら、圧倒的に日本が劣勢となるのは自明だ。
海上戦力と輸送力の不足から北海道のみを制圧されるだろうが、国土を奪われる事に変わりはない。
「これでどうやって日本を守るというのですか」
佐久田は理詰めで論破しようとした。
以上の状況から兵力半分など到底不可能だ
そんな兵力で到底日本を守る事は出来ない。
だが、池田には通用しなかった。池田は独自の見解を述べた。
「日本は憲法の規定で、かつてのように他国への侵略はしない。攻め込まない、防衛だけなら必要な兵力は半分だけ済む」
確かに日本は憲法で戦争放棄をしている。
軍備の不保持を明記しようか大論争になったが北の存在のために、防衛のための最小限の戦力を保持することが認められた。
しかし、侵略戦争の実行は許されていない。
先の極東戦争で広大な戦域へ日本の部隊が再び派遣されたことや戦費の増大で戦力の縮小が囁かれていたこともあり、池田のような主張をする者もいた。
だが到底認められない。
「……反撃の時はどうするんですか。いや戦争になれば、そんな少数の兵力では守れません」
当時北日本は極東戦争での損害を回復し、稚内には常に十五万の兵力を配備するまでに至った。
この兵力は日本にとって脅威だった。
極東戦争で日本の軍備増強されていたとはいえ、奇襲された時、北海道を蹂躙されかねない。
戦時になれば予備役動員とソ連軍から、更なる増強も考えられ劣勢は免れない。
北日本の人口からして最大一五〇万の動員が可能と考えられている。
勿論全てを動員するには、国力の限界と海上輸送力の限界から不可能だが、防衛制度と組織上の問題、特に下級幹部と曹の不足から国防軍、自衛隊が一〇〇万以上の人員を保有するのは困難と見られていた。
北が全面動員による大規模侵攻が行われた場合、日本の防衛線は突破され、対抗手段は核のみとなる。
三発目の核が日本で放たれるなどあってはならない。
だから核を使う前に、北の侵攻を止めるため通常戦力を増強する事を重要事項として佐久田は陸上兵力三〇万を計画していた。
それでも少ないと感じていたが日本の国力では――日本の成長を阻害しない範囲では、これが現実的だと考えていた。
「そもそも兵站、組織を維持するための頭数が足りません」
現代戦は「槍を持つ」と表現される。
総兵力の三分の一が前線で戦い、残りは、後方で支援を行う。
高度複雑化、大規模化した戦争では大量の物資が必要であり、それだけの物資を管理、輸送するのに大量の人員が必要だ。
また現代兵器は常に整備が必要であり、そのための人員も必要だ。
そして整備員は数を揃えてよしではなくそれぞれが高度に専門技能を持たなければならない。
機体担当、エンジン担当、武器担当、通信機器担当、そして太平洋戦争で苦しめられた電子装備の担当者は特に重要だ。
どの担当がいなくても戦力は大幅ダウン。下手をすれば飛ぶ事すら出来ない。
そして、これらの装備を開発するための人員。
民間企業に開発を依頼しているが、製品化できるかどうか分からない物を、碌に予算を出さない大蔵省が出していくる乏しい予算の中から開発してくれる企業などいない。
少なくとも技術の確立までは、国が国防軍、自衛隊が研究開発を行わなければならならず、それらの研究者、技術者を持つ必要がある。
池田はその人員を削ろうというのだ。
佐久田が反対するのも当然だった。
「国防を担うのは勿論、部隊を維持するための人員は削れません」
太平洋戦争中、機動部隊を実質的に運用していた佐久田は断言した。
艦艇だけでなく航空機、それも整備や燃料関係も整えないと戦えないことを身を以て知っていたからだ。
だが池田にそのような経験はなく、とんでもない素人発言で小手他。
「日本は侵略戦争を放棄し国外への派遣を止めています。国内だけで活動するのですから国内のインフラを使えば、移動できるのですから膨大な人員など不要でしょう」
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