ハワイ要塞

 ハワイは海軍の根拠地らしく相応の防御が施されていた、というより防御しなければならなかった。

 海軍基地に必要な機能は


一.大型艦が入港出来る水深がある

二.大きな河川がなく土砂が流入せず港湾機能を損なわない

三.港湾が山で囲まれており外から内部を見る事が出来ない

四.湾の出入り口が狭く、防御が容易であること


 以上を満たす必要があるが、真珠湾は三番の点が欠けていた。

 ハワイ諸島の火山はマグマの粘度が低いため火山は高くならず、流れ出したマグマは広がりやすいためオアフ島には平野が多い。

 東西二つの火山に囲まれ形成された真珠湾は、二つの火山に囲まれていたため奇跡的に良好な港湾となったが平野で開けた場所に位置していた。

 そのため外から、外洋の艦艇から真珠湾内部を確認し易く、砲撃が容易だ。

 米軍も真珠湾の弱点を理解しており、対処をしていた。

 それも米国らしい力業でだ。

 真珠湾周辺の海岸に多数の沿岸砲台を設け、大砲を多数設置。

 火力で敵艦の接近を防ぐというものだ。

 真珠湾口の西側にあるフォート・ウィーバーから湾口を挟んで東にあるフォート・カメハメハ、ワイキビーチの砂州に作られたフォート・デラッシー、ダイヤモンドヘッド岬に作られたフォート・ルーガーを順次建設。

 いずれの砲台も日本海軍の攻撃を想定し、当時の日本海軍最強戦艦の迎撃が出来るよう大砲を選定している。

 戦争前、最後の拡張となった軍縮時代の工事では長門型を迎撃するため一六インチ砲が配備されていた。

 これらの陸上砲台の威力は勿論、命中率も高く最大射程において、三〇パーセントの驚異的な命中率を叩きだしている。

 艦砲射撃の命中率が最大射程において一パーセントを切るのと比べれば、脅威である。


「ハワイの要塞相手には連合艦隊がもう一揃えいる」


 と宇垣が嘆くほどハワイ要塞は強力だった。

 しかも開戦後は、奇襲攻撃を受け大損害を被ったためより強固な防御を施されている。

 真珠湾で沈ん廃艦となったアリゾナの砲塔を移設したアリゾナ砲台を建設し、航空機に対する対空陣地の増強や掩体壕の設置など強化されていた。

 以上の事情から艦砲射撃の計画を聞いて宇垣は当然反対していた。

 だが、佐久田は戦艦の艦砲射撃を要請した。

 航空機とは比べものにならない弾薬投射を行えるからだ。

 大和型の四六サンチ砲なら一.四トン、長門型の四一サンチ砲なら一トン、金剛型伊勢型なら六〇〇キログラムの砲弾をたたき込める。

 大和型二隻一八門、長門の八門、金剛及び伊勢型五六門が一斉に放たれたなら、合計六七トン以上の砲弾が行く。

 五斉射もすれば三三五トン。流星攻撃機延べ四〇〇機分の弾薬をたたき込める。

 予定している七〇斉射も浴びせれば降り注ぐ弾薬は合計四六九〇トン。

 五千機の艦攻、二五〇機のB29が攻撃したのと同じ効果が望める。

 だからこそ佐久田は艦砲射撃を求めた。

 勿論無理強いはしていない。

 艦隊の安全を確保するため、事前に奇襲による反撃手段の破壊と徹底した空爆を行う事を計画していた。

 実際、昨日と今朝の空襲では要塞に対しても攻撃が行われれ沿岸砲台に多大な被害が出ており要塞砲の一部が破壊されていた。

 それでも隠匿していた砲台が生き残っており彼らはやってきた日本艦隊に対して砲撃を行った。

 だが、発砲してすぐに位置は露見し、上空待機していた流星の急降下爆撃、八〇番徹甲爆弾――長門の徹甲弾を改造した八〇〇キログラムの徹甲爆弾の攻撃を受ける。

 江草率いる流星隊の急降下爆撃は効果的で、昨日の内に対空砲火を潰していたこともあって第一次インド洋作戦を彷彿とさせる驚異的な命中率で砲台へ的確に投下。

 全ての砲台を破壊、沈黙させていた。

 もはやオアフ島には日本艦隊の攻撃から身を守る術は無かった。

 日本艦隊はバーバースポイント海軍飛行場へ五斉射すると狙いをヒッカム飛行場へ変更、ヒッカム飛行場に地獄を作り出した。

 そしてヒッカムも廃墟にすると日本艦隊は主目標、真珠湾海軍施設へ狙いを変更した。

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