ハワイ攻撃隊発進

 搭乗の号令がかかり搭乗員は割り当てられた自分の機体へ向かって行く。

 始動させた整備員と交代し機体へ乗り込み、ベルトを装着。

 各部を動かし異常がないことを確認する。

 異常がなければ整備員と合図を交わす。


「総航空機発動っ! 総航空機発動ーっ!」


 全ての機の安全が確認されるとスピーカーからエンジン始動の命令が下る。

 機体に取り付いていた整備員はそれぞれクランクを回し、エンジンを始動させて行く。

 一分もしないうちに甲板に並べられた三〇機の攻撃機がエンジンを回した。

 出力を上げ、轟音をまき散らすのは戦いを待つ戦国武者の雄叫びのようだ。

 信濃を発艦する攻撃隊の編成は

 制空任務の零戦改一二機。

 レーダー及び対空陣地攻撃任務の零戦改一二機。

 滑走路破壊任務の爆装流星四機。

 誘導及び周囲の偵察警戒、戦果確認任務の彩雲二機。

 以上である。

 流星の数が少ないのは、迅速にハワイ上空へ到達し奇襲制圧するためだ。

 米軍が発進する前に、上空を制圧し後続の第二波、主力がハワイの軍事施設を破壊できるようにするためだ。

 全機の始動を確認し、整備長が合図を送るとチョーク――車止めが外され整備員は全員甲板脇へ退避する。


「発艦準備完了!」


 艦橋に報告が入る。

 旗艦であるため信濃には他の艦の情報も入る。


「尾張、紀伊より発艦完了の報告です!」

「大鳳、海鳳からも入りました」

「第三航空戦隊! 発艦準備完了!」

「第四航空戦隊準備完了!」

「長官! 発艦準備完了しました!」


 艦橋の全員が固唾をのんで、その号令を待った。

 山口は、猛将の名に恥じない果断さと大声で命じた。


「攻撃隊っ! 発艦始めっ!」

「発艦始め!」

「発っ艦っ始めっ! 発っ艦っ始めっ!」


 スピーカーから発艦を命じる声が響き渡る。

 同時にマストに掲げられた旗が降ろされ、各艦に発動、発艦始めがを知らせる。

 先陣を切って飛び出したのは制空隊を率いる板谷茂中佐の機体だった。

 身軽さを生かし、短い滑走距離でありながら悠々と発艦し、尾翼灯の残光を残して飛び立って行く。

 続いて二番機三番機も発艦して行く。

 上空は次々と機体が集合し編隊を組んでいった。

 信濃だけではない。第一航空戦隊の紀伊、尾張。第二航空戦隊の大鳳、海鳳。

 更に第三航空戦隊、第四航空戦隊の空母からも次々と攻撃機が飛び立った。

 防空任務の空母を除き、一二隻の空母から三〇機の攻撃機が合計三六〇機もの攻撃機が発艦していく。


「全攻撃隊発艦完了!」

「第二次攻撃隊発進準備に入ります! 急げ!」

「第一次攻撃隊集合完了! 空中発進!」


 上空で集合を終えた第一次攻撃隊が編隊を組み終わり、艦の向かう先、南へ向かって飛び去っていった。

 間隔を把握するために尾翼灯のみの点灯だったがそれでも空中に輝く三百機以上の航空機の放つ光は空を圧した。


「この兵力で敵機動部隊とやり合いたいものだな」

「無理です」


 山口は言うが佐久田がすぐに否定する。


「練度が足りませんし、すぐに撃墜されて仕舞います」


 今飛び立ったのは貴重な熟練パイロットで構成される精鋭だ。

 そのため夜間発艦と集合をこなせる。

 しかし、大半のパイロットは開戦から採用された未熟なパイロットだ。

 インド洋などで実戦経験を積んでいるが、かつてのパイロット達に比べて技量に劣る。

 学徒動員などでパイロットの数は増えてきているが、分隊長、飛行長などの幹部クラスが足りず、統率に困難を感じている。

 だが精鋭が揃ったとしても、移動部隊を攻撃するのは難しい。

 あのマリアナ沖海戦でさえ、二個空母群を撃破するのに艦載機の半数を失い、作戦能力を喪失。作戦中止になった。

 フィリピンでは運良く後方へ補給の為下がり孤立していた一個空母群を見つけ攻撃したが多大な損害を受けた。

 それだけ米軍艦艇の対空能力は恐ろしいのだ。

 そして日本にその損耗を補えるだけの余力は最早ない。

 しかも米軍はその程度の損害を補填できる。

 日本は最早建造能力、航空機生産能力、パイロット育成能力に余裕はない。

 ならば、許容できる損害の中で最大の戦果を上げられる目標を選ぶしかない。

 その目標がハワイだった。

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