ターナーの要請

「どうか艦砲射撃の増強をお願いしたい」


 攻略開始から五日目、ターナーはスプールアンスの旗艦インディアナポリスを訪れ艦砲射撃を要請した。

 今日が攻略完了予定日だったが、上陸海岸から一キロ以上内陸へ前進出来ていない。

 摺鉢山も激しく抵抗しており、頂上の奪い合いを未だにしている。

 昼間地上を制圧しても夜に日本軍が洞窟陣地から出てきて奇襲を仕掛けてくるため、完全制圧にはほど遠い。

 北側の制圧も上手くいっていない。

 平野が多く圧倒的な兵力で蹂躙出来るはずだったが、日本軍は多重の防衛線を構築しており、突破出来ない。

 それどころか日本軍は戦車を出して反撃を仕掛けてきた。

 前線は混乱し、あわや突破されそうになり、スミスの要請もあって艦砲射撃で粉砕した。


「馬鹿野郎! 俺たちがいるんだぞ! 艦砲射撃を止めろ!」


 味方も残っている状況で艦砲射撃を行ったため、同士討ちが発生した。

 しかし、後方の砲兵や物資集積所を守る為には仕方なかった。

 結果的に日本軍の反撃は粉砕され、増援によって戦線の再構築はなされ、スミスの判断の正しさが証明された。

 だが、海兵隊に犠牲者は多く出た。

 それでも硫黄島を攻略しなければならず攻撃は続行された。

 艦砲射撃は目標を日本軍の防衛線へ変更し射撃を続け、攻撃前の砲撃とした。

 砲撃が終わると海兵隊は前進したが陣地に隠れていた日本軍が反撃。各所に隠された機関銃銃座の十字砲火で動けなくなったところを後方からの砲撃もあって大損害を受け攻撃は頓挫した。

 それどころか前進を阻まれたところに再び日本軍の戦車が現れ、海兵隊の側面を攻撃。

 大損害を受けて後退する羽目になった。

 それでもなお、攻撃を続けたが損害が多くなるばかりで前進出来ない。

 海兵隊員達は日本軍の陣地を<ミートグラインダー>――挽き肉器とよび自分たちを肉塊に変える恐怖のマシーンだといって攻撃を拒絶する者も出てきた。

 攻略の見通しは立たず、日本軍の強固な陣地を破壊するため、更なる支援を求めターナーはスプールアンスに艦砲射撃を要請した。


「日本軍の陣地を破壊するには戦艦による艦砲射撃が必要です。どうか、戦艦の投入を」

「だめだ」


 だがターナーの要請をスプールアンスは断った。


「どうしてですか」

「旧式戦艦部隊は弾薬を全て撃ち尽くした」


 五日間の間、支援の為砲撃を続けたため弾薬が切れていた。

 しかも打ち続けたため、砲身が射耗――砲身内部のライフリングが消えかけ、砲弾の命中率の低下、味方への誤射の危険も出てきたため、交換する必要があり、後方へ下げられていた。


「ならば空母の護衛に就いている高速戦艦部隊を出してください」


 空母の護衛に高速戦艦部隊がいる。

 これらは条約明けに作られた戦艦で全艦一六インチ砲九門を備えており、攻撃力は十分だ。

 投入されれば日本軍の陣地を破壊出来ると期待出来た。


「だめだ」


 だがスプールアンスは拒絶した


「何故ですか。海兵隊員が挽き肉になっても良いのですか。日本の挽き肉器を破壊するのにどうして戦艦の主砲を使わないのです」

「日本軍が艦隊を突入させてくる可能性がある。今外すわけにはいかない」


 スプールアンスの第五艦隊空母部隊が硫黄島近海に張り付いているのは日本機動部隊の反撃に備えての事だった。

 その空母の護衛として張り付いている戦艦を転用すれば防御力が低い空母はやられてしまう。

 特に水上砲戦になったとき、装甲の薄い空母など戦艦の餌食だ。

 対処するためには戦艦が必要であり、外すわけにはいかなかった。


「硫黄島が攻略出来ません。日本の陣地は予想以上に強固で戦艦の主砲でなければ粉砕出来ません」


 しかし、硫黄島の陣地が強固なため、破壊するためにも戦艦の火力を必要としていた。だが、スプールアンスの方針は変わらなかった。


「だめだ」

「ですが」

「フィリピンの二の舞になりたいのか?」


 スプールアンスの言葉にターナーは黙り込んだ。

 未だに四ヶ月前のフィリピンの大敗北は米軍に深刻なトラウマとして残っていた。

 日本軍の機動部隊が、戦艦群が突入してきて船団を攻撃したら壊滅させられ、上陸部隊は孤立する。

 さらに上陸部隊へ向かって艦砲射撃が行われたら死傷者の数はこれまでの比ではない。

 ただでさえ狭い島に十万近い上陸部隊がいるのだ。

 損害は考えただけで恐ろしい事になる。


「機動部隊は日本軍の反撃に備え待機させる。だが支援はできる限り行う。手元にある兵力で攻略し給え」

「了解しました」


 ターナーは敬礼してスプールアンスの元を去った。 


「しかし、どういうことだ」


 ターナーが去った後、スプールアンスはここ数日膨らむ疑念、いや警戒から疑念を通り越し不安に駆られる事案を考えた。


「どうして日本の機動部隊は攻撃してこないのだ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る