上陸地点の惨状
活躍したのは速射砲部隊だけではなかった。
最も激戦となったのはアメリカ軍がブルー2と名付けた上陸地点北側の側面に位置する岩だらけの場所だった。
ここは鉄筋コンクリートをふんだんに使ったトーチカが備えられており、艦砲射撃にも航空爆撃にも耐えていた。
上陸した第二五海兵連隊第三大隊は上陸した瞬間から機関銃と迫撃砲の激しい攻撃――至近距離に上陸された上、海兵隊の激しい攻撃を受けたため攻撃命令前に発砲し、すでに激戦となっていたため損害を負っていた。
それでも前進を続け、最初の段丘を越えた。
だが、その瞬間から待ち構えていた内陸部の日本軍トーチカから十字砲火を海兵隊は浴びせられた。
「タバコを保って飛んでくる弾丸で火を付けられるほど激しい射撃だった。自分たちがとんでもない目に遭うと私は確信した」
最前線で指揮を執っていた大隊長がこう証言するほど、ありとあらゆる方向から銃撃を受け、隊員達は倒れていった。
米軍は何とか銃撃を避けようと蛸壺――個人用の塹壕となる縦穴を掘ろうとしたが、ダメだった。
火山島である硫黄島特有の火山灰で構成された砂地は粘り気がなかった。
各隊員が持つ携帯シャベルで地面を掘るとすぐに内側に崩れてしまうため全身を隠すことが出来ない。
「小麦の樽の中で穴を掘るようなものだ」
と嘆きながら激しい日本軍の攻撃の前に身を隠すことも出来ず次々と倒れていった。
「日本軍の攻撃が激しく、身を隠す場所がない! 戦車の支援を要請する!」
悲鳴のような要請に直ちに司令部はM4シャーマン戦車を搭載した揚陸艦を海岸に送り込み上陸させようとした。
数隻が着岸前に速射砲の射撃を受けて沈められた。だが米軍は数の力で押し寄せ日本軍の砲火を掻い潜り接近。
海岸に揚陸艦が到達しランプを下ろして戦車が上陸すると海兵隊員達から歓声が上がった。だが、すぐに失望に変わった。
海岸の砂浜の角度が急で戦車が揚陸に手間取ったのだ。
ようやく上陸出来ても硫黄島の柔らかい火山灰の砂地のため移動もままならずキャタピラが砂に埋まってスタック、動けなくなってしまった。
しかも先頭の一両が砂に埋まると後続の戦車も止まってしまう。
ようやく前進出来ても、海岸に敷設された対戦車地雷に引っかかり擱座する戦車が続出。
海岸は破壊されたり味方の戦車が邪魔をして動けなくなった戦車で一杯になった。
そこへ日本軍は集中砲火を浴びせ次々と撃破されていった。
しかもシャーマン戦車の車体は大きく目立つため格好の標的となり砲火が集中。周囲にいた隊員達は攻撃に巻き込まれた。
機関銃さえ戦車を狙って撃っていた。戦車の装甲は銃弾を弾いたが、弾いた弾丸が周辺の海兵隊員に降り注ぎ死傷させる。
しかも戦車を狙い砲火が集中。
戦車を盾にしようとした隊員に被害が続出する。
おまけに戦車が回避行動を取ろうとして急に曲がり、曲がった先に砲撃から逃れるため逃げていた海兵隊員を轢いてしまう事故が発生する。
戦車の視界が悪い上に、海兵隊員は少しでも砲撃から身を守ろうと縮こまっていて見えにくかったので仕方なかった。
だが、生身で攻撃を受ける上、味方の戦車にも轢かれる隊員達には堪ったものではない。
「一体どうすればいんだ! 戦車から逃げれば良いのか!」
戦車が来ると砲火が激しくなることに嫌気が差した隊員が罵声を吐き、厄介者扱いされる羽目になった。
この日上陸したシャーマン戦車は五六両。内、上陸前に揚陸艦と共に沈んだものを含め四二両が撃破され、海兵隊公式報告書に「Dデイ(上陸日)における海兵隊のM4シャーマンは地獄を味わった」と記載されるほどの損害だった。
それでも海兵隊は前進を始めたが、日本軍の激しい砲火の前に遅々として進まず、上陸地点に押しとどめられた。
正午過ぎでも海岸から三〇〇メートル程しか前進出来ず、むしろ上陸海岸はアメリカ軍の撃破された戦車や上陸用舟艇、その他破壊された物資などで廃品置き場のようになっていた。
前進しようにも戦車は擱座。
しかも日本軍の攻撃は激しい。
速射砲が常に狙いを定め揚陸艇を砲撃してくる。
トーチカを見つけて潰しても、既に陣地転換しており、速射砲を撃破出来ずにいた。
しかも地下のトンネルを利用して移動し、次のトーチカからまた攻撃を再開する始末だ。
一部の隊員は洞窟陣地に入って攻撃しようとしたが、各所で直角に曲がっている上、日本兵が伏兵として待ち伏せており、不用意に内部へ侵入する事は不可能だった。
日本軍への有効な反撃手段がない海兵隊は損害が積み増しされていった。
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