小笠原兵団反撃開始
「砲撃準備!」
攻撃命令が伝えられると直ちに地下にもうけられた電話線を通じて各砲台に通達された。
入り口を覆っていた蓋や偽装が解かれ、掩蔽壕に隠されていた大砲や火砲が引き出され、予め設定されていた目標に向けて砲門を向ける。
「準備完了!」
長い時間をかけて訓練を行ったため、日本軍砲兵部隊が準備から狙いを定めるのに五分と掛からなかった。
「攻撃開始!」
砲兵部隊の命令が下ると上陸地点に向かって硫黄島全体から一斉に火砲が放たれた。
「なんだ。味方の砲撃か? 艦砲射撃の予定は無いはずだぞ。誤射か?」
島の各所から砲撃が放たれた瞬間、上陸した海兵隊員の一人は呟いた。
三日間の艦砲射撃で、特に最後の砲撃を浴びて生き残っている日本兵などいないと思っていたからだ。
だが、彼の間違いは肉体と共に消滅した。
それまで隠されていた各種火砲五〇〇門以上から放たれた砲弾が上陸地点の狭い領域に殺到した。
特に威力があったのが九八式臼砲と四〇〇ミリロケット砲だ。
九八式は日本軍が開戦前から開発した秘密兵器で、無砲弾とも呼ばれ通常の大砲とは逆に砲弾の下部が空洞になっており、ここで発射薬を点火し三〇〇キロの砲弾を打ち上げる。
射程は一キロほどと短いが、通常の重砲では、特に圧力が掛かり隙間を作る事の出来ない重い砲身が不要となり、人間が持てる重量の部材に分解し最前線に持ち込める事が可能になった。
九八式臼砲は緒戦の南方作戦やフィリピンの戦いで使われ大きな成果を挙げたが、ここ硫黄島でも威力を発揮した。
予め作られた洞窟陣地のトンネルを使い、米軍上陸地点間近まで迅速に移動出来る事も大きかった。
四〇〇ミリロケット砲も活躍した。
鉄資源の不足と、重砲の生産能力が限界に達した日本軍が、低コストで生産しやすく前線で扱いやすい兵器として採用したロケット弾だ。
二〇〇キロの弾体を六つの噴気孔から出る燃焼ガスで打ち出す構造だ。
最大射程は四〇〇〇メートルと短いが、炸薬充填量が一〇〇キロ近く、二五〇キロ航空爆弾に匹敵する威力を持っている。
これらは大音響で飛来してくる上、大威力を発揮するため海兵隊員の恐怖の的だった。
一発で数十人が死傷することもあり「空飛ぶアシュカン――金属製ゴミ箱」、「悲鳴を上げる神様」と呼んで恐れた。
他にも様々な火砲や迫撃砲が集中する。
硫黄島の戦いで特筆される特徴の一つに、これら比較的射程の短い火砲の活躍が挙げられる。
洞窟陣地を移動する必要があることから重砲では無く小型、移動容易な火砲が用いられた。
いずれも射程は短かったが、硫黄島が東西八キロ、南北四キロと小さく、短い射程の火砲でも十分に全島をカバー出来たからであった。
そして狭い上陸地点に集中攻撃を受けた結果、上陸部隊は大損害を受けてしまう。
上陸用舟艇は吹き飛び、直撃を受けたアムタンクは乗っていた隊員ごと破壊された。
海岸の至る所で死傷者や吹き飛ばされた肉体の一部が散らばり、血が河のように海に向かって流れ込んでいく。
だが、日本軍の攻撃はこれで終わりでは無かった。
海岸近くに隠匿されていた陣地からの射撃が始まった。
歩兵部隊の小銃や機関銃、大隊砲が海兵隊員に浴びせられる。
アメリカ軍の上陸正面にぶつかった速射砲第八大隊第二中隊の活躍は目を見張るものだった。
中隊長である中村貞雄少尉の神業的射撃技術により彼自ら操る一式機動四七ミリ砲は初弾から命中。素早く次弾装填し次の車両に狙いを付けるとこれも命中。
あっという間に二〇両のアムトラックを撃破した。さらに接岸中の上陸用舟艇三隻、ブルドーザー一両を撃破した。
直後に米軍の反撃があったが、中村は素早く陣地交換を行い攻撃を続けた。
結果、彼一人でこの日四〇両近いアムトラックが撃破された。
「武勲抜群にしてよく皇軍速射砲部隊の神髄を発揮し米軍に損害を良く与えた」
報告を聞いた栗林は、こう言って、手放しで喜び、東京に打電。その活躍は天皇にも上聞され、一階級特進が決まったほどだ。
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