アメリカの動き
「北山さんのおかげで何とか迎撃出来ていますがね」
佐久田は北山に感謝した。
北山財閥が大量生産してくれた迎撃機のおかげで何とか本土防空が成り立っている。
先日も三回目のB29の迎撃に成功した。
ニューギニアから撤退してきた陸軍航空部隊、精鋭のパイロットと整備員が設備と支援態勢――潤沢な燃料と部品供給そしてレーダー監視網と無線を使った指揮系統で効率的な迎撃を可能としていた。
特に助かっているのは北山が供給する高オクタンガソリン燃料だ。
ガソリンエンジンは圧縮が高いと出力が上がるか、オクタン価が低いとノッキング、点火する前に自己着火してしまう。
だから高出力のエンジンには高オクタンのガソリンが必要だ。
しかし、日本には高オクタンガソリンを作り出す設備が少ない。
高性能機を生み出せないアキレス腱の一つとなっている。
インド洋で英国の船団を捕獲したとき稀に高オクタンガソリンを手に入れているが全然足りないし、あてに出来ない
だが、北山は高オクタンガソリンを満州の工場から提供していた。
「しかし、どうやってあんな高オクタンの燃料を」
「企業秘密だ」
どういうことか尋ねようとしても北山はこればかりは答えない。
「戦いは終わらせなければなりません。何か方法はありませんか?」
「無理ですね。アメリカは単独で世界を相手に戦える程の国力です」
戦争が終わる理由は、双方の疲弊によるものだ。
しかし、米国の国力は他国を圧倒している。
太平洋と大西洋に戦場を抱えながら、大国である英国とソ連を支えられる物資を送り込める余裕があるのだ。
その気になればアメリカ一国だけで世界相手に戦争が出来る。
「連合国対日独ではなく、アメリカ対日独です」
佐久田の呟きは事実だった。
「残念ですが先の選挙の結果を見てもアメリカが講和の席に座ることはないでしょう」
レイテでの戦いは歴史上希に見る日本の大勝利、アメリカの敗北だった。
選挙前のこともあり、ルーズベルトが落選してもおかしくはないくらいだった。
だが、ルーズベルトは、議会演説で日本軍による卑怯な攻撃だったとすり替え、国民に団結を求めた。
選挙に落ちたくない民主党の議員が拍手で称賛し、講和を主張する共和党議員の発言をかき消した事もあってアメリカ国民は、ルーズベルトの演説に影響され、彼を支持した。
リメンバー・レイテ
リメンバー・パールハーバーに続く標語がアメリカに広がっており、講和の雰囲気ではなかった。
「戦争は続きますか?」
「ええ」
北山の言葉に佐久田はうなだれた。
「何とか兵器の増産を行い兵備を整えます。ですが、限界は迫っています。何とか講和出来る環境を整えてください」
「できる限りの事はしますが、次の戦場に備える必要もあります」
「すぐに戦闘が起こりますか?」
「ええ、マッカーサー戦死によりニミッツに指揮系統が統一されました。今まで以上に効率的に攻めてくるはずです」
太平洋の主力である海軍を率いるニミッツと自己主張の強いマッカーサーの陸軍。
この二つの軍が日本に向かって進軍していた。
これまでならアメリカの国力で二つの軍の侵攻作戦を支える事が出来た。
だが、四四年に受けた損害は国力で支えられるレベルを超えていた。
特に人的損害は大統領選挙戦に影響を与えるほどの酷さであり、ルーズベルトは危うく落選しかけた。
だが、ルーズベルトの巧みな政治手法により、落選どころか、更に支持を広げることに成功。
改めて日本に強く無条件降伏を求める声明を発表した。
アメリカと講和する機会はなくなったと言って良い。
大統領選挙は四年後、中間選挙あはるが二年後だ。
当分
つまり余剰戦力がいて膨大な戦力を叩き込む準備をしているわけだ。
「十万以上を失いましたが、戦線の整理、ペリリュー、ビアクから後退させた数個師団、さらに予備の海兵師団もいるはずなので、すぐに兵力を整える事が出来ます」
「何処に来るか分かりますか?」
「ええ、狙うとすれば、マリアナと日本本土の中間にある硫黄島です。ここを守らなければ、日本は破滅です」
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