持久戦

 佐久田の目の前を、内堀通りを行進している彼らは、佐久田がもたらしたレイテでの勝利により助かったといえる。

 作戦成功に導いた佐久田が助けたと言っても過言では無かった。


「持久戦を展開し粘れば、連合艦隊が助けに来ると彼らは信じ陣地構築に励んでいます」


 そして、持久戦を続けていた現地守備隊を助けた、孤立した守備隊を助け出した事実は他島の守備隊に希望を与えた。

 水際防御から洞窟陣地による持久戦へ守備方針を転換。各島で陣地構築作業が急ピッチで進められていた。

 古来より鉄壁とされた水際防御、ボートに乗り移り無防備な状態で陣地を敷設した浜辺に上陸するなど自殺行為と考えられていた。水際に陣地を構築すれば、いかに強力なアメリカ軍でも撃退出来ると戦争中盤まで日本軍は信じていた。

 だが米軍の支援攻撃、大量の航空攻撃と艦砲射撃は、日本軍の陣地を発見次第、破壊した。

 上陸する瞬間に砲火を放ったため見つかり、集中攻撃を受けて破壊される陣地が続出。

 初日で守備兵力が壊滅し、劣勢のまま戦い、やがて全滅、玉砕した。

 難攻不落とされた島々の防御が敢闘したとはいえ、一週間から一ヶ月ほどで壊滅した事実は日本軍に衝撃を与えた。

 本来マーシャル諸島で米軍を待ち構え、侵攻した米軍を島々が持久で受け止め、米軍を拘束。そこへ連合艦隊が出撃し包囲する米軍を攻撃する作戦だった。

 それが、島があっけなく陥落したことによって早急に変更することになった。

 艦砲射撃が効きにくい内陸部での持久で時間を稼ぐ方式に変わった。

 しかし、水際防御を主張する一派もいて、それぞれの方針で防御を行ったため現場は混乱しマリアナでは易々と抜かれる事態となった。

 だが、持久戦を選択したペリリューが二ヶ月にもわたって抵抗し救援に駆けつけた連合艦隊によって助かった事は、朗報であり持久戦の正しさを証明した。

 そのため各所で持久戦のための洞窟陣地が作られつつあった。

 守備隊は勿論、内地から作業員を送り込み急ピッチで建設が行われつつあった。


「ですが戦争が終わらなければいずれ戦死してしまいます。人知があったとしても長期間維持出来てもいずれ負ける。このような見世物に使うなど欺瞞です。戦争終結のために尽力するべきです」

「政府の意向です。国民の士気を上げるためにも必要だとのことです」

「勝利の目算が立たないのに、ショーを行っても意味がないでしょう」

「絶望で虚脱状態になるよりマシでしょう」


 北山の言葉に佐久田は無言で同意した。

 中国戦線で陸戦隊を率いていたとき、長期間続く戦いにやる気を削がれていく部下達の指揮を維持するのにどれだけ苦労したことか。

 多くても千名程度の陸戦隊でさえそうなのだから、国民全体が継戦意志を持つように維持するのは難しい。

 それに国民への打撃となる事態が発生していた。


「先日よりマリアナからB29の爆撃が始まりました。それも東京近郊の工場です。今のところ大した被害はありませんが、いずれ帝都や名古屋、大阪などの大都市への爆撃も行われるでしょう」


 先日、中島の武蔵野工場を狙った爆撃が行われた。

 マリアナ陥落以降、急ピッチで進められた防空体制と妨害工作が功を奏し、被害は最小限に抑えられている。

 だが、日本本土を空襲された衝撃は国民の中で大きい。

 二年前、空母を発進したB25による東京空襲の時よりも大きい。

 これまで無敵皇軍、勝利の連続だったにもかかわらず、本土を爆撃されたとなれば、国民は政府に疑問を抱き、動揺する。

 政府としてはなんとしても国民の意志をつなぎ止めるためのショーを必要としていた。

 今回の行進は、空襲から目を逸らせるためにも行われたのだ

 だが、米軍の物量は圧倒的だ。

 空襲をいずれ成功させ、日常的に繰り返すだろう。

 潜水艦にマリアナへの船団を襲撃させているが、焼け石に水だ。


「遠からず、本土各地が空襲を受けるでしょう。迎撃部隊は活躍しているようですが」


 北山の予測は正しい。

 マリアナがある限り、いずれ爆撃を成功させ日本各地を空爆するのは確実だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る