日本軍の報復
飛んでいるのは双発の細いシルエットの機体、フランセーズ――陸上攻撃機銀河だ。
戦闘機と見間違えるほど、スマートな機体はビックバードの横を飛び去る。
「拙い! 俺たちの飛行場を! 滑走路を潰す気だ! 機銃! 撃てるか!」
「ダメです! 射程外です!」
「機関士! 出力を上げろ! 追いついて潰す!」
「無理です! エンジンが一つ潰れているので、残りのエンジンに負担が掛かっています。これ以上出力を出すとエンジンが炎上します」
「畜生め! 通信士! サイパンに警報! それと戦闘機隊に伝えろ!」
すぐに通信士は命じられた通りにやった。
だが、駆けつける戦闘機は無かった。
別の針路から侵入した日本機がチャフを散布し、レーダーを攪乱。日本機の編隊と見誤った管制官が戦闘機をチャフへ誘導してしまった。
しかも、電子戦装備の百式司令部偵察機が侵入し米軍の通信に割り込み、戦闘機隊に偽の指示を出して混乱させていた。
銀河は邪魔されることなく、高速でサイパン島の飛行場へ侵入すると多数の爆弾を落とした。
上空のビッグバードからも見えるほど各所で爆発が起こり、滑走路周辺に炎が広がる。
「焼夷弾か」
炎の勢いからリーチはそう思った。
だが、実際は、サイパンまで航続距離を伸ばすための増槽付の爆弾だ。
空になったときに燃料タンクを切り替えると空気を吸ってしまいエンジンに燃料が供給されなくなる。そのような事故を防ぐため余裕のある内にタンクを切り替えるのが航空機の基本だ。
このような使い方をするため増槽には必ず残燃料がいくらかある。それを使って即席の焼夷弾にする事を日本海軍の誰かが思いつき、攻撃に使用されている。
爆弾庫内に搭載できるため被弾も運動性能の低下も無し。
そして機体に搭載しているのは小型の六番――六十キロ爆弾。大した威力は無いがB29を破壊するには十分だし、滑走路を穴だらけには出来る。
破孔は小さいが補修に一時間くらい掛かるぐらいには被害を及ぼせる。
与えられる損害は僅かだが、多数の破孔を作る事は出来る。
B29の着陸を、それも作戦を成功させ燃料切れ寸前の機体が着陸するのを妨害するには十分な威力だ。
「着陸できそうですか」
不安そうに銃手がリーチに話しかけてきたとき、滑走路脇で爆発が起こった。
爆弾の中に混ざっていた時限爆弾だ。何時爆発するか判らない爆弾が広く散らばっている状況では爆弾の処理も滑走路の修復も難しい。
「近くのテニアンかグアムに着陸できるか管制に問い合わせろ」
通信士に話しかけたリーチだったが返事を聞くまでもなく、無理だと分かった。
だがテニアンの飛行場にも火の手が上がっていた。グアムも同じ状況だ。
日本軍も、その点に手抜かりは無く、着陸地となるグアムもテニアンも同時に攻撃していた。
「やってくれたな、日本軍は」
空襲された報復としては満点に近い。
着陸できずに上空に待機し燃料切れになる機体は多いだろう。
「畜生め」
一時間後、工兵隊の決死的活躍によりなんとか使用可能となった滑走路にビッグバードは滑り込んだ。
上手く燃料消費を抑えられなかった十数機が海面に不時着したのを考えれば上々だ。
「はあ、疲れた」
機体から下りたリーチは一言だけ呟くと報告書を書くのも忘れ宿舎に直行した。
上空から航空機の爆音が聞こえる。
迎撃戦闘機隊が帰ってきたのだろう。
だが、パッパッパッという音が上空から響いてくる。
「伏せろ!」
リーチは兵舎の手前で慌てて地面に伏せる。
次の瞬間、飛行爆弾梅花が飛び去る。
通過した梅花は滑走路へ向かって飛んでいき、滑走路脇で爆発した。
「畜生、俺たちを着陸させない気か」
大編隊の着陸には時間が掛かる。
大規模な飛行場でも百機を越えると一時間以上。
しかも被弾して、遅れている機体もあるので到着時間は伸びやすい。
着陸待ちの機体も上空に居る。
そこへ攻撃を仕掛けてきた。
今回は、航空機による攻撃もあって着陸が遅れ気味で上空で待機中の機体が多い。
そこへ梅花の攻撃だ。
滑走路の安全確認にどれだけ時間が掛かるか分からない。
「降りてくる機体があります」
「強行着陸か」
既に燃料が殆ど無いのだろう。
乗員の独断か管制塔の指示か分からないが海に落ちる前に、一か八か着陸させる気だ。
車輪が滑走路の穴にはまり込むかもしれない。
爆撃で散らばった破片をタイヤが巻き込み、燃料タンクを撃ち抜いて、機体を炎上させるかもしれない。
それでも燃料切れで墜落する前に、滑走路へ着陸を試みるようだ。
幸い、滑走路への被弾はなく穴はあいていなかった。
破片を巻き上げて機体を損壊させた機体はあったが燃料が殆ど無くなっていたこともあり炎上する機体は無かった。
最後の一機が着陸すると、リーチは仲間が戻った安堵とその日の疲れから、その場に倒れ込み、そのまま爆睡をはじめた。
士官としてあるまじき醜態だが、誰も咎める者はいなかった。
それだけ、今日の出撃は激戦だったのだ。
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