マッカーサー戦死 レイテ沖海戦終結

「なんてことだ」


 ナッシュビルを降りたマッカーサーは陸上に置いた指揮所を目指した。

 近くにあったジープを奪うと幕僚に命じて運転させ走らせる。

 途中、背後で先ほどまで乗艦していたナッシュビルが大和の砲撃が命中し、爆発する光景を目撃し、恐慌状態に陥る。


「もっとだ! もっと早く走らせろ!」


 這々の体で上陸したばかりの兵士さえ、ひき殺すような勢いで走らせ、飛行場近くの司令部を置いていた建物に向かわせる。


「航空隊は何をしているのだ」


 建物に着くとジープから降りて隣接する飛行場を見る。

 小さい半島に作られた狭い飛行場には、不時着した艦載機や陸軍機が散乱し、とても出撃出来るような状況ではなかった。


「くそっ」


 将軍にあるまじき悪態を放つと、建物の中へ入り、地下壕へ向かう。

 しかし、地下壕の前には兵士が集まっていた。


「どうしたんだ! 早く中に入れ」

「埋まっているため入れません」

「何故だ!」


 と言ったところで、兵士達の嘲笑に耐えられず自分が埋めた事を思い出した。


「早く掘り起こすんだ」


 マッカーサーは改めて命じたが無駄だった。

 大和の四六サンチ砲が建物に直撃し彼の肉体を消滅させた。

 例え、地下壕が機能していても四六サンチ砲弾は地下壕の直下まで貫通し爆発し、全てを掘り返したため、地下壕に入っていても死亡していた。

 救助の兵が向かおうとしたが砲撃のため、無理だった。

 後日、駆けつけた兵士が見つけられたのはマッカーサーが愛用したパイプのみだった。




「良いぞ! 連中は大損害だ!」


 大和から砲撃を見ていた有賀は興奮しながら言う。

 戦艦一隻で七個師団分の砲力を持つとされる。

 七隻の戦艦がやって来たレイテ湾では四九個師団分の砲撃、大和武蔵の力を勘案すれば六〇個師団にも匹敵する砲撃が狭い浜辺に集中した。

 上陸して間もなく、沿岸に物資や部隊が密集していた事も災いした。

 無造作に置かれた物資や装備品が吹き飛んだ。

 日本軍に対して無敵を誇るM4戦車さえ、戦艦の一斉射撃で一瞬にして消滅してしまった。

 米軍の攻略部隊は壊滅状態となった。


「全軍に通達、レイテ湾南方に集まれ!」


 集マレ! 集マレ!


 攻撃開始から一時間後、宇垣が打電し、第一遊撃部隊は再集結した。

 既に輸送艦艇の大半、特に大型船は撃沈、炎上している。

 陸上への砲撃も成功しつつある。

 大戦果だ。

 損害も少なく、護衛の反撃により新たに駆逐艦三隻が沈んだけで大型艦への被害はない。

 これまでの損害を考えても凄い戦果だ。

 あとは南方のスガリオ海峡から脱出し、夜陰に乗じてブルネイへ戻るだけ。

 作戦は完遂されたのだ。

 敵の護衛空母を撃破し、補給輸送部隊を壊滅、護衛に付いていた戦艦七隻を撃沈、兵力十万以上にも上る上陸船団を撃滅。

 ハワイ奇襲攻撃以来、いや日本海軍史上、世界戦史の中でも希に見る勝利を収められたのだ。


「第一水雷戦隊に命令! 海峡へ突入し安全を確保! その後、戦艦、重巡の順に通過し、殿は第二水雷戦隊が務めよ」


 臨時指揮官とはいえ宇垣の指揮は的確だった。

 安全を確保すると共に、比較的足の遅い戦艦を先に通し、高速の巡洋艦が後から追いつき、最後に最精鋭の二水戦が殿を務める。

 決して最後まで油断しない。


「損害もまあまあかな」


 先頭で大型艦艇は被弾しているが殆ど軽微。

 損失は進撃途上で空襲で失われた陸奥と、スガリオで撃破された扶桑、山城の三隻。

 だがレイテ沖で第一遊撃部隊がアメリカ戦艦七隻を撃沈して勝っている。

 他に撃沈されたのは駆逐艦のみだ。


「だが、戦列復帰できるか」


 考えがそこまで及んだとき有賀は背筋が凍った。

 大和も武蔵も被弾し大型艦艇の損傷も多い。

 これを日本海軍は修理できるのか。

 総力戦体制となっているが造船ドックは殆ど空母建造に使われており損傷艦を修理している余裕はない。

 それに艦艇を活用出来るのか。

 今回の作戦では、燃料輸送が間に合わず、内地へ向かうタンカーを徴用して急遽給油した。

 損害が軽いのは良いが、生きている艦に燃料を補給する必要があり、その確保に苦労するだろう。

 もう一度同規模の作戦が行えるかどうか、少なくとも第一遊撃部隊が活動できるか疑問だった。

 有賀は素直に勝利を喜べなくなった。


「間もなくスガリオ海峡へ入ります」

「総員、敬礼!」


 宇垣の命令で、敬礼を、スガリオで沈んだ扶桑、山城と西村提督以下の戦死者へ向けて敬礼した。彼らの仇は果たした。

 だが、この戦いで守れた日本を今後も守り切れるかどうかは、有賀には自信が無かった。

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