オルデンドルフ隊 迎撃準備

「司令官! 燃料給油は間もなく終わります!」

「よろしい」


 ほぼ徹夜にもかかわらず、オルデンドルフ少将は元気だった。

 大西洋でUボート相手の時は、何処にいるか不明で二四時間神経をすり減らし、満足に眠れなかった。

 だが太平洋へ転属してからは、明確に敵がいる。

 巡洋艦隊の司令官として上陸作戦の支援が殆どだったが、大過なく勤め上げた。

 今回のレイテ上陸作戦では戦艦の指揮だが、上陸の支援だ。

 しかし昨夜は素晴らしかった。

 迫ってくる日本艦隊相手に一方的な打撃を与えられ、戦艦を二隻撃沈した。

 これだけでも歴史に名が残る。

 レイテの部隊を救った英雄となり満足していたが、夜明けに日本艦隊の接近を聞き、驚いた。

 そして、キンケイドから迎撃命令を受けたとき、むしろやる気を出した。

 部下達は出来るだけ休息を命じ、短時間だが睡眠を取れたはずだ。

 自分も含め幕僚は眠っていないが、日本艦隊を迎撃する準備の為にも寝ていられない。


「敵艦隊の構成は?」

「戦艦一隻を失っていますが、戦艦七を主力とする艦隊です」

「こちらも七隻だ。数は問題ない」

「しかし、敵は新型戦艦がいます」


 日本艦隊の大半は軍縮条約前に建造された古い艦だが、二隻は開戦後に出来たばかりの新型戦艦だ。

 二年も経ち、実戦参加はマリアナが最初で経験も十分。

 強力な敵と思えた。

 一方オルデンドルフ隊は、改装を受けているが、すべて軍縮前の旧式戦艦。

 性能面では少し不利だ。


「大丈夫だ。新型戦艦の主砲は一六インチと推定される。新型は九門と、コロラド級より一門多いが、二六門対二四門で大差はない。一四インチはこちらは一二門四隻に対して八門四隻で圧倒的に有利だ。一四インチ砲艦を殲滅した後、一六インチ砲戦艦を仕留める」

「コロラドが間に合って良かったです」


 マリアナで砲撃を受けて本土で修理を施されていたコロラドだったが突貫工事で回復。 オルデンドルフ隊に加わっていた。


「パールハーバーの敵討ちが出来るな」


 オルデンドルフ隊に所属する九隻の戦艦の内、五隻は開戦劈頭パールハーバーで撃沈されたものを浮揚し修理したものだ。

 彼女らは『リベンジャーズ』と呼ばれ、戦線に復帰した。


「問題は、我が方の速力だが日本艦隊は幸いにもレイテ湾に向かっている」


 旧式戦艦は軍縮条約前の古い設計、航続力と防御を重視したため、最大速力は二一ノットと遅めだ。

 日本艦隊は最も遅いとされる長門でも二五ノット、金剛クラスは三〇ノットは出せるとされている。

 新型戦艦も少なくとも長門以上の速力は出せるだろうと考えられていた。


「湾口に展開し、日本艦隊の侵入を防ぐ。駆逐艦は日本艦隊の進路を妨害。戦艦隊へ誘導しろ。速力で勝っているから離れようとするだろう。そこへ魚雷を叩き込み撃沈。最悪でも進路を戦艦隊へ向けるんだ。あとは戦艦が何とかする」


 日本軍はレイテ湾への突入を考えているハズだ。

 速力が遅い米旧式戦艦だが、湾口に展開し、日本艦隊に立ち塞がるように行動すれば日本艦隊を迎撃、上手くいけば昨夜のようにT字で迎撃出来、優勢に戦う事が出来るはずだ、とオルデンドルフは考えた。


「司令官、レイテ湾の船団は退避させるのでありますか?」

「今から出来るか?」


 現在、レイテ攻略を行っている第六軍は上陸した部隊だけで一〇万。洋上待機中を含めれば二〇万もいる。

 彼らを支援する輸送艦艇及び支援艦艇の総数は一千隻近い数だ。

 彼らはレイテ湾に殺到している。

 十万の第六軍を支援するには、一刻の中断もなく、船に乗せられた物資を送り届ける必要がある。

 内陸への進撃も始まっている。

 もし、ここで退避命令を出せば、大混乱になるだろう。

 進撃はおろか、軍は機能不全となり、崩壊する可能性もある。

 第一、日本艦隊は迫っている。

 出航したところで、十ノットも出ない輸送船など最低でも二五ノット以上、中には三五ノット以上を出せる駆逐艦がおり、輸送船など簡単に捕捉されてしまう。


「我々が盾となって、日本艦隊を防ぐしかない。一隻でも通したら我々の負けだ。諸君の奮闘を期待する」

「はっ」


 責任の重大さに参謀達は身を引き締めた。


「それとオルデンドルフ少将、マッカーサー大将ですが」

「何だ?」

「乗艦のナッシュビルからの観戦を望んでいるのですか」

「またか」


 スガリオ海峡海戦の時も艦船を希望してきたが、夜戦の混乱にまきこみたくなかったので、思いとどまって貰った。

 ハッキリ言って昼戦でも邪魔だ。

 むしろ座乗する軽巡ナッシュビルも戦列に加えたい。


「止めるように伝えろ」

「ですが、指揮下の部隊の勇戦を見たいとの事ですが」

「好きにさせろ……」


 言っても無駄だと考えオルデンドルフ少将は許した。

 だが、二人とも日本海軍の事を理解していなかった。

 マッカーサーは陸軍で海戦の多かったソロモンは報告しか聞いていない。

 オルデンドルフ少将も戦争の前半は南大西洋で戦っており、地獄のソロモンに参戦した経歴はなかった。

 勿論、日本海軍の戦いぶりは聞いていたが話半分、話しに尾ひれが付いていると考えていた。

 昨夜の夜戦での勝利もあり、今回も簡単に勝てると考えていた。

 だから彼らは、この後本当の日本海軍を知らされることになる。

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