神風特別攻撃隊 突入
翌朝25日、神風特別攻撃隊に再び出撃命令が出た。
「今日こそは敵艦を沈めるぞ!」
「おうっ」
関の声に隊員達は応える。
「失礼します!」
そこへ数人の下士官に率いられた搭乗員達がやって来た。
「直掩を命じられた西沢であります!」
「西沢! 西沢飛曹長か! あのラバウルのエースか!」
ソロモンの激戦を戦い抜いたラバウル航空隊――実際には複数の航空隊が交代でラバウルで戦っていたが、ガダルカナル以降は米軍の反攻もあり常に激戦区となっており、ラバウルで戦った航空隊は皆、ラバウル航空隊と呼ばれていた。
中でも台南航空隊はエース揃いで坂井三郎、笹井醇一など名だたる撃墜王がラバウルで活躍した。
西沢もその一人で、<ラバウルの魔人>と呼ばれトップエースとされていた。
「はい! 我々が直掩につきます。決して敵機に邪魔はさせません」
「それは心強い。頼むぞ!」
そういって関は乗機に乗りこみ離陸していった。
神風特別攻撃隊編成を命じられた衝撃と連日の出撃、そして空振りにより関の身体は疲労の色が濃かった。
それでもできる限り明るく振る舞おうとしており、その姿は西沢の目から見ても痛々しかった。
西沢は自分の機体に向かうが、その途上で花が咲いているのを見て一輪、抜いてポケットに入れた。
関大尉率いる敷島隊は、西沢率いる直掩隊と共に離陸。
編隊を組みフィリピンの東海上へ出ると南に向かった。
通信では第一遊撃部隊が敵空母と遭遇したとの情報が入っている。
「急いで向かうぞ」
飛んでいると逆探知装置が警報を発する。敵のレーダーに捉えられたのだ。
関は見つかるのを防ぐため、編隊を低空へ降下させると共に、敵艦隊は近いと判断した。
そして、レーダー波の方向へ編隊を進める。
徐々に近づくと、向かう方向から砲声が聞こえ始める。
艦隊戦が起きているのは明白だった。
「あそこだ!」
関はすぐに部下に指示して攻撃のため、高度を上げた。
周囲には多数の敵戦闘機が乱舞していた。
タッフィー3は第一遊撃部隊と遭遇すると、すぐさま搭載機を発艦させ、上空には一〇〇機以上の米軍機が飛んでいた。
だが、大半は襲来した第一遊撃部隊への偽装攻撃にかかりきりであり、関達に気がついたのは僅かだった。
「俺たちが相手だ!」
だが、気付いて攻撃を仕掛けた米軍機に西沢達直援隊が割り込み、関達を助ける。
「俺が失敗したら後は頼むぞ!」
関は言うと目標を探す。
一隻は艦首に大穴が空いている。
もう一隻は火達磨になって炎上していた。
そして一隻は艦隊の攻撃を受けている
残りは三隻。
少し小さいが、今後敵艦に遭遇出来る可能性は少ない。
味方から一番遠い空母を狙うことにした。
「行くぞ!」
関は、艦爆時代の要領で機体を敵空母に向け、突っ込む。
他の五機も、それぞれ残った空母に目標を定め、突入を開始する。
それぞれ二機ずつ目標を定め、関の指導通り左右から接近する。
最初に突入したのは、関大尉だった。
元艦爆乗りとしての腕を生かして先頭の空母に向かって突入する。
途中で回避行動を取るが、追随して向かう。
(もし投下していたら外していたか)
関は苦笑した。
特攻の有効性を実感すると共に、この後、米空母に爆弾を落とせないことを残念に思いながら飛行甲板中央に突入した。
自重だけで二トンを超す零戦改は、商船規格で建造されていたファーション・ベイの飛行甲板を易々と貫通。
格納庫でバラバラになったが慣性の大きい爆弾は更に格納庫甲板を貫き機関部で炸裂。
航行不能にした。
だが一番大きな被害をもたらしたのは、零戦改の残存燃料だった。
後年、不勉強なライターにより片道分の燃料しか与えられなかった、と言われる特攻隊だが、実際は満タンで飛んでいる。
神風特別攻撃隊が編成されてから数日、連日出撃しても敵との接触に失敗し戻ってきた。
特攻に限らず、洋上の敵との接触は難しく、空振りで戻る事が殆どであり、引き返すだけの燃料をあたえなければ、燃料切れで墜落する。
関達にも連日満タンの燃料を与えられており、離陸から二時間ほどしか経っておらず、機内には五〇〇キロ近いガソリンが残っていた。
それが、突入の衝撃でファーション・ベイの中にばらまかれた。
爆発の炎で気化したガソリンは容易に着火し、大火災を起こした。
残っていた艦載機や機体にも引火、誘爆し、被害は拡大する。
絶望的な状況下でもダメージコントロールのための応急修理班が果敢にも甲板に飛び出したが、そこへ二機目が突入。
作業を始めようとした彼らへガソリンをぶちまけ爆弾が爆発。ダメージコントロール班の七割が死傷した。
被害の大きさと、応急修理班の全滅、機関停止、格納甲板及び格納甲板炎上、誘爆する弾薬と引火したガソリンタンク。
艦長は二機目の突入から三分で助かる見込みなしと判断。
総員退艦を命じた。
「提督! お早く!」
放心状態のスプレイグ少将を引き連れ艦長は離艦する。
気弱だと提督をなじる気などない。
他の護衛空母、生き残った僚艦も体当たり攻撃を受けて炎上しているのを見たら誰だってショックを受ける。
人が最後まで操縦するため回避行動をしても追いかけてきて突入してくる。
訓練が不足しているのか、角度を誤り飛び越したり、深すぎて手前に突っ込む機体もあったが、全ての護衛空母に最低でも一機が突入した。
信管の不具合により爆発しない爆弾もあったが、いずれの機体も空母に突入した瞬間、バラバラになり残存燃料をばらまき、大炎上を発生させた。
後年、対艦ミサイルが実戦投入された際、信管の不良により爆発を免れたが、残ったロケット燃料で大火災が発生し沈没に至ったのと同じだった。
タッフィー3は事実上壊滅した。
「戦果報告、敵空母三に対して各二機突入、一隻大破撃沈確実。二隻炎上中」
空戦の最中、西沢飛曹長は報告した。その報告は戦闘中のため不正確だったが、間違いではなかった。
全ての機が突入を終えたのを確認すると、西沢は戦域を離脱していった。
その途中、キャノピーを開き、ポケットに入れていた花を海に投げ入れた。
護衛駆逐艦が二隻ほど残っていたが、航空支援の要である護衛空母が全滅してしまっては任務タッフィー3は任務を果たせない。
そして、彼らに第一遊撃部隊が迫ってきていた。
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