志摩艦隊奮戦
「西村……遅れて済まん」
重巡洋艦那智の艦橋で沈み行く山城を見て志摩中将は呟いた。
台湾を出撃した第二遊撃部隊だったが、出港後、各地に派遣されていた艦艇の再合流に手間取った上に、敵潜の魚雷攻撃からの回避で時間を浪費。
さらにはハルゼー機動部隊による空襲、被弾した艦の回航など進撃が遅れてしまった上、西村提督の突入切り上げにより西村艦隊が予定より先発し、合流出来なかった志摩艦隊だった。
だが、志摩は西村の西村艦隊が戦闘に突入したため、追いつくことが出来た。
しかし追いついた時には既に戦闘が終わり西村艦隊は壊滅していた。
残存艦の通信から状況を確認した志摩は、直ちに最上以下西村艦隊の残存艦艇を纏めると、離脱を命じ、自らは援護の為に突入を開始した。
「全艦砲撃せよ! 回避行動自由! 当てようと思うな! 敵に撃たれていると思わせろ!」
志摩は魚雷攻撃でオルデンドルフ少将の部隊を奇襲した後、艦隊に砲撃させ、増援が来ているように見せかけた。
志摩の目論見にはまり新たな日本艦隊の出現に動揺したオルデンドルフ少将は、一時離脱を命令。
全艦が一斉に回頭し志摩艦隊から距離を置いて態勢を立て直しレイテ湾に入ってくる志摩艦隊を迎えうとうとした。
「敵艦隊離脱します」
その様子は志摩艦隊でも確認され、旗艦那智に報告が入る。
「こちらも離脱する」
「レイテ湾へ突入しないのですか?」
「……西村艦隊が壊滅した今、勝機は無い」
いぶかしがる参謀に志摩は断腸の思いで命じた。
本心を言えば志摩は突入し、同期である西村の仇を討ちたい。
しかし本来の作戦では重巡二隻の志摩艦隊は西村艦隊が有する戦艦二隻の援護の下でレイテ突入を行うはずだった。
だが西村艦隊の戦艦が二隻ともに撃沈された今では、重巡が最高火力である志摩艦隊は戦艦を有する圧倒的な米軍に敵わない。
駆逐艦の雷撃も考えられるが、既に一回撃っている。
次発装填も出来るが、敵の追撃があった時、撃退するための切り札だ。
現状では残存戦力を離脱させるだけで志摩艦隊には精一杯だった。
「残存する西村艦隊を指揮下に収め、全艦離脱せよ!」
改めて苦しい思いで志摩は命じた。
西村艦隊の残存艦最上、時雨、朝雲、山雲、満潮を収容し反転する。
幸い、オルデンドルフ少将は、新たな日本艦隊のレイテ突入を警戒して、海峡の出口付近で防御を固めたため追撃は行わなかった。
新たな艦隊の出現は想定外であったし、西村艦隊への攻撃で艦隊は乱れている。
そして既に西村艦隊への攻撃で砲弾と特に魚雷を多数発射したため戦力が減っていた。
日本と違いアメリカの駆逐艦は次発装填装置を持っていないため、一回発射すると一度再装填のために港か泊地へ戻る必要がある。
以上の事からオルデンドルフ少将は追撃を断念。志摩艦隊は無事に離脱した。
戦闘海域から離脱した志摩は連合艦隊司令部及び第一遊撃部隊に打電した。
『第二遊撃部隊攻撃終了、戦場離脱、後図を策す』
『二戦隊全滅大破炎上す、残存艦を収容し撤退す』
「第三部隊……西村艦隊が全滅」
夜明け頃、激しいスコールが打ち付ける最中、志摩艦隊の報告電を受信した大和の艦橋は重苦しい雰囲気に包まれた。
最難関であったサンベルナルジノ海峡は、夜間であったこと、ハルゼーの艦隊が機動部隊に向かって東方へ全速で向かっていた事もあり、全艦が突破に成功した。
空襲により陸奥が撃沈され、他の勘も代書言うの被害が出ている。
しかし、主要艦艇は残っており、レイテへ突入し敵船団を撃滅できると確信していた矢先の出来事だけに衝撃だった。
「作戦続行だ」
南雲は呟いた。
「ハルゼーは居なくなり、船団を攻撃できる状況だ。それに西村艦隊を攻撃した艦隊も離れている」
「そうだ。攻撃だ」
「西村艦隊の弔い合戦だ!」
大和艦橋内の士気が回復した直後、艦隊の先頭を航行する矢矧の電探が、敵艦の影を確認し、全艦隊に通報した。
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