第一航空艦隊の攻撃
「敵艦隊を発見しました! 敵機動部隊です!」
マニラに進出した第一航空艦隊司令部で小沢中将は報告を聞いた。
レイテへの上陸を聞きつけ、小沢は各所に分散していた指揮下の航空機をフィリピンへ空中移動させるよう命令。
自身もマニラへ進出し攻撃の機会を狙っていた。
「偵察機が正規空母を含む空母群を発見! ハルゼーの機動部隊に間違いありません」
「直ちに攻撃隊を発進させろ」
攻撃の機会を得た小沢は命じた。
第一遊撃部隊への援護の為にも、ハルゼーに手出しさせないためにも攻撃を仕掛けなくてはならなかった。
「第二航空艦隊に知らせますか?」
「ダメだ。戦力が少ない」
ただ大西率いる第二航空艦隊には敵艦隊発見の連絡を小沢はしなかった。
ダバオ事件で戦力を大きく失っている上に、よからぬ事を考えているからだ。
「攻撃は我々のみで行う。攻撃隊を直ちに編成して出撃させろ。第二航空艦隊には第一遊撃部隊への護衛に向かうよう要請しろ。敵艦隊の位置は絶対に知らせるな」
「はっ」
「第一遊撃部隊への上空援護は?」
「出来るだけ出すんだ。だが、攻撃隊の護衛も必要だ。足りない分は第二航空艦隊に依頼しろ」
「了解1」
以上の理由から小沢は大西の第二航空艦隊には第一遊撃部隊の援護を要請しただけだった。
ハルゼーへの攻撃は戦力を維持している第一航空艦隊のみで行う事になった。
連絡を受けた各基地は直ちに攻撃隊を発進させ、ハルゼーの機動部隊へ向かって行く。
しかし、小沢の攻撃は失敗した。
マリアナで大打撃を受けた後、再編成を行い一千機近い機材を保有するまでに回復した第一航空艦隊だった。
だが、一箇所に集まっているわけでなく、フィリピン各所に点在する陸上飛行場に広く、少数に分かれて分散している。
通信機器が発達していない当時は、各基地から発進した航空隊の空中での合流は困難であり、離れた飛行場から飛び立った航空隊が合流に成功することはほぼなかった。
結果的に各基地から発進しそのまま敵艦隊に向かうったため一波が五、六十機程度の波状攻撃となる。
彼らは一個空母群だけで数百機の搭載機を持つハルゼー機動部隊の迎撃を受け、各個撃破された。
第一航空艦隊に発見され攻撃を受けた第三八任務部隊第二空母群は向かってくる日本軍攻撃隊をピケット艦として遠方に配置してういたレーダーを装備の駆逐艦を早々に探知されてしまう。
攻撃隊を見つけた米軍は直ちに全戦闘機を発艦させ、待ち伏せを行い、やってくる日本軍機を次々に撃墜し、撃退に成功した。
それでも波状攻撃を受けた米軍第三八任務部隊空母第二群は第一遊撃部隊への攻撃へ行けず防空一本となった。
さらに度重なる攻撃と攻撃隊の一部が断雲と欺瞞紙――電波反射材、のちのチャフを使って巧妙にレーダーを欺瞞して、第二群の上空への侵入に成功。
そのうちの一機の彗星艦爆が軽空母プリンストンに急降下爆撃を敢行。爆弾を命中させ大破炎上させた。
被弾したプリンストンは大火災が発生しダメージコントロールがきかず、沈没させている。
しかし、第一航空艦隊の攻撃はこれが精一杯だった。
残りの第三空母群、第四空母群から発進する第一遊撃部隊への攻撃隊、空襲を阻止することは出来なかった。
「能代より報告! 東方より航空機の編隊多数接近する! 方位〇九七」
能代からの無線電話が大和艦橋に入り、大和艦内に緊張が走る。
改めて上空の護衛戦闘機の予定を確認する。
今日の航空機は全て西側から合流する手はずになっている。
ならば接近するのは敵だ。
「敵機は真っ直ぐ向かってきます」
「一三号電探探知始め!」
大和艦長である有賀大佐は命じた。
敵との接触は避けられない。
針路を変更して回避しようにも狭いシブヤン海では無理だ。
ならば迎え撃つしかない。敵に逆探知される事を恐れて電波発信は 最小限に抑えていたが、戦闘が不可避の今は敵の情報が遅滞なく欲しい。
「一三号電探、探知始めます!」
「敵機、発見! 方位〇九七! 機数多数!」
探知を開始してすぐに敵機の反応があった。
間違いない。他の艦からも同じ方位に発見の報告が入ってくる。
「総員戦闘配置!」
有賀が命じると、ラッパ手がタカタカタッタッター、タカタカタッタッターと吹奏し、艦内に戦闘配置を命じる。
「防空指揮所に移ります」
「操艦を頼む。それと司令部と第一航空艦隊に打電、我敵の空襲を受ける」
「はっ」
南雲が静かに言うと有賀は敬礼して応えた。
宇垣は敵機が来るであろう方向を見て黙ったまま、頷くだけだった。
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