レイテ上陸決定

「レイテへの上陸か」


 ハルゼーの出した提案を興味深く読んでいるのはフィイピン奪還を声高に主張する南西太平洋方面連合軍司令官マッカーサーだった。


「スケジュールを早めることは可能か?」

「可能ですが、難しいでしょう」


 マッカーサーの意見に幕僚は渋い顔をした。


「マリアナとペリリューの制圧が遅れています」


 マリアナへ侵攻した米軍だったが、日本軍が作った地下陣地の制圧に手こずっていた。

 通常の爆弾では殆ど破壊出来ず、制圧のために地上部隊が前進すると、地下から現れて反撃してくる。

 損害も多く、制圧は遅々として進まず、マリアナに兵力が張り付いたままだ。

 ペリリューに関しても四日での攻略終了を予定していたが、ここも地下陣地の存在により、制圧に手間取り、上陸開始から半月以上経った今でも、日本軍は激しい戦闘を続けている。


「だが、モロタイ島の制圧は終わっているな」


 モルッカ諸島の北にあるモロタイ島は飛行場適地が多く、フィリピンに近いため、フィリピン攻略時の航空機発進基地として使えるので占領が実行された。

 日本軍が大した兵力を置いていなかった事もあり、制圧に成功。

 現在は飛行場の建設が行われており、近日中に重爆撃機の運用も可能になるとされていた。

 ペリリューも同じ理由で攻略されたが、此方は、日本軍の抵抗が激しいため難航している。

 そして、フィリピンから距離が離れていた。


「モロタイ島を航空拠点にして、米軍機動部隊を使ってエアカバーを行うハルゼーのやり方の方が良いのではないか?」


 マッカーサーはハルゼーの意見書の内容を口にした。

 陸海軍の中にも、ハルゼーの意見に賛成する人間が多い。


「国民はマリアナと、ヨーロッパで戦争が長引いていることに苛立っている。戦争終結を早くするためにも、レイテを先に攻略するべきだと思わないか?」


 マッカーサーの言うとおり、戦争が長引くにつれ、国民の不満も大きくなっている。

 戦争を少しでも早く終結させるためにも、ショートカット出来るならしたいと思っているだろう。

 そしてマッカーサー自身も開戦初頭、日本のフィリピン攻撃の前に逃げ出す事となったとき宣言したI shall returnを実現するために早急にフィリピンへ向かいたかった。


「計画を変更する。<キングⅡ>を早めレイテへ上陸する」

「ですが閣下、マリアナの制圧も終わっていません。それに日本軍は中国戦線や南方から部隊を引き始め、フィリピン各地に配備してます」


 マッカーサーの幕僚が反対意見を言った。

 先月、大陸打通作戦を成功させた日本は、中国各地から撤退を開始した。

 太平洋方面に兵力を移動させるためでもあるが親日派国軍、親日派いや日本の傀儡政権とアメリカが認識している南京政府の軍隊が占領地に現れはじめたからだ。

 北山の産業育成が進み、人々の雇用を確保し経済が回るようになっていった。そのため人心を掌握するようになってから親日政府の軍隊に加わる人が多くなった。

 少なくとも占領地を任せる程度には親日国部隊の訓練が出来たため、日本軍の主力部隊は彼らと交代して続々と大陸から太平洋へ転戦していった。

 対米開戦前から行われていた北山の計画が今ようやく実ったのだ。

 そのため、中国各地から日本軍が撤退し、フィリピンを中心に再配置されていた。


「つまり、これ以上遅らせると日本軍は増え続け、我々の勝機はないという事だろう」


 フィリピン奪回が遅れるのはマッカーサーにとって避けたいことだった。

 そしてフィリピンへの上陸中止が決定されることをマッカーサーは恐れていた。


「計画を早める。<キングⅡ>レイテ上陸を主眼とするよう統合参謀本部に提案するんだ」


 マッカーサーの意見は通り、レイテへの上陸作戦が決定した。

 そして、その前段階として、ハルゼーによるフィリピン周辺の日本軍航空基地攻撃、沖縄、台湾へ対する空襲作戦が十月初頭に実行されることになった。

 だが、着実にフィリピン南部から攻撃して行く作戦は却下され、フィリピンの中心にあるレイテ、周りを日本軍占領地に囲まれた島に米軍は上陸することとなる。

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