駐米英国大使ハリファックス卿
1944年9月某日
「今日は面会して頂きありがとうございます大統領閣下」
「いやいや、同盟国英国の大使の会見を拒むことなどしませんよ。まして、共に戦う戦友ならば尚更です」
ルーズベルト大統領は駐米英国大使ハリファックス卿をホワイトハウスに向かえた。
だが、ルーズベルト個人としては、あまりハリファックス卿を好いていない。
チェンバレン内閣で外務大臣を務めていたがイタリアのエチオピア侵攻、チェコスロバキアで枢軸国に対して融和的な政策を行い、第二次大戦を開いてしまった。
ポーランド開戦後もハリファックスはドイツとの本格的な戦闘を恐れ経済封鎖に留めようとしたが、ノルウェー侵攻により頓挫しチェンバレンが辞任。
後任の首相としてハリファックスも候補に挙がったが、貴族院出身のため庶民院を纏めることが出来ないと自ら辞退して対立候補であり徹底好戦派のチャーチルが首相となった。
チャーチルの内閣でもハリファックス卿は外務大臣として留まったが、チャーチルの方針と対立したため駐米英国大使に事実上左遷された。
だがフランスが脱落した状況ではアメリカの支援が英国には欠かせない状況であり、駐米大使であるハリファックス卿の役割は重大であり、戦局が悪化するごとに重要性は増していった。
アメリカの左翼から対独融和外交を主導した保守政治家、いけ好かない貴族外交官と言われ卵を投げつけられたこともあった。
それでも亡国の危機にある祖国英国の為にアメリカの支援と支持を受けるためハリファックスはアメリカ各地を訪れ、徐々にアメリカで人気を得ていった。
一種の道化だったが、やらなければならず、ハリファックスはあえて役割を受け入れ、果たした。
祖国英国の苦境を救うために。
この日も英国のへの支援を行うよう米国に求めるため、ルーズベルト大統領との会見にハリファックスは臨んだ。
そして本題を切り出した。
「どうにかインド洋へアメリカの空母機動部隊を派遣して頂けませんか?」
「残念ながら太平洋の方に必要です」
いつものようにルーズベルトは却下した。
アメリカからすれば地球の反対側にあるインド洋へ機動部隊など派遣出来ない。
しかし、ハリファックス卿は食い下がらず、説明を続けた。
「インドの資源は豊富です。インドの資源が供給されれば連合軍の戦力は確実に増強されます」
ハリファックスの言葉は確かに事実だった。
英国王の王冠輝く最大の宝石、と称されるインドの資源は膨大であり、供給されれば戦力を増大させることが出来る。
だが、あまりにもアメリカからは遠すぎる。
資源ならばアメリカ周辺、カリブ海や南米大陸で十分だった。その気になればアメリカは国内で自給可能だ。
なおも英国がインドにこだわるのは、英国の最大の植民地であり、資源供給源だからだ。
しかし、日本軍の封鎖により資源供給は途絶。
アメリカからの援助で生き延びている状況だ。
このままではアメリカの属国と成り果てる。
経済的に自立し、独立を保つためにも英国はインドを必要としていた。
だから、ハリファックスは、内心しらけたルーズベルト大統領相手に熱弁をふる。
「ですが、日本軍のインド洋封鎖により途絶しています。先月は、機動部隊の襲来もありました」
8月再編成なった日本機動部隊はリンガを出撃。
スンダ海峡を南下すると、オーストラリアのフリーマントルを空襲した。
潜水艦基地が置かれており、南シナ海の通商路破壊のための重要な基地だったが、空襲によりその機能を喪失した。
度々空襲にあっていたが、どうしようもなかった。
フリーマントル襲撃を終えた機動部隊は北西へ進路を変更、インド亜大陸各地の英国の港湾施設を襲撃。船団を攻撃していった。
洋上にあった船団は航空機に見つかり全て撃沈され、港湾に残った商船も空襲で沈められた。
「英国で何とか出来ませんか?」
「残念ながら我々では対応できません」
苦渋の思いでハリファックス卿は英国の窮状を、二年も続く封鎖の苦しさを伝えた。
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