『なまくら冷衛の剣難録』第三章第五話までの感想

なまくら冷衛の剣難録

作者 小語

https://kakuyomu.jp/works/16816927863238741872


 五年前の冬、十五歳の美夜は酔漢に絡まれたとき冷衛に助けられたことを忘れずにいながら、恩人と敬愛する春日爾庵誠之助に仕えている。人材派遣業と称して〈黒屋〉に集められた暗殺集団が炎衣士郎次率いる御馬前衆殲滅を企ていた。

 冷衛は唯一の友であり肺を患っている由比太に、真人の仇を討つ小竜に協力を頼むと頭を下げる。「頭を下げることを覚えただけ、ありがたいと思いなよ」と言われ、引き受けてくれる。

 小竜と甘味処に立ち寄り、土手で団子を食べながら小竜から真人といつも一緒にいた話を聞いた冷衛は、春日邸で会った美夜のことを語り、あれが恋だったかもしれないと思うのだった。

 午後、城に出向き士郎次と会い、真人の部屋から見つけた弾丸を彼に渡すのと引き換えに、真人殺害を命じた人物について心当たりがあることを聞き出す。

 その夜、由比太と小竜の三人で士郎次の後を追って邑咲最大の繁華街である白夜街に来ていた。その後怪しい男を尾行する士郎次たち御馬前衆の後を追って、八ツ騎街の区画にある広場へと向かうと、斬り合いがはじまっていた。


 各章、一日を賞味している。なので真人殺害から一週間、冷衛が仕事を引き受けて三日目である。


 二章の終わりで、夜に〈黒屋〉に集められた暗殺集団が炎衣士郎次率いる御馬前衆殲滅を企ていたところで終わり、このあとどうなるのかと読者に思わせておいて、朝の春日亭で美夜の話につながるのは良い流れである。

 裏と表、二つは対になっている感じ。

 夜、悪いことをしている暗殺集団の一員の黒衣。

 朝、春日亭の花が咲く庭園に侍女として立つ美夜。

 だから、黒衣で隠された美夜の、本音の部分が語ることができる場面なのだろう。

 もちろん、黒衣の人物が美夜の場合、だけれども。

 

 春日邸の裏庭にある花畑の様子が描かれている。

「丈の高い茎から薄桃色や橙の花を咲かせているのはユリズイセン。紫や白、黄色の花で足元を埋め尽くすのはパンジー」「白い小さな花弁が密集して咲くコデマリは可憐なその姿で見る者の目を奪う。タンポポはすでに綿毛になっており、風が吹くごとに舞い散った綿毛が空中を彩った」

 時代劇ではないのだけれども、本作は漢字表記が世界観にあっている気がするので、アストロメリアのルビをせず百合水仙、他も小手毬、三色菫などでいいのでは、と考える。

 考えるのだけれども、漢字表記が増えると文章が重くなるので、花名はカタカナ表記でいいかもしれない。

 タンポポの綿毛について「綿毛となったタンポポは、風に揺られてひとひら……ずつ花弁を散らしていく」とある。

 綿毛の実がなる部分は「本」で数える。

 ひとひらは、薄く平らなものの一枚。一片。

 表現を変えたほうがいいと思うのだけれども、今夜散っていくであろう御馬前衆を思っているのかもしれない。なので、綿毛に息を吐きかけてあっという間に散らすかのごとく殺すなら、そう書くだろう。一人ずつ殺していく戦闘を表現するために、ひとひらとしているのではと邪推する。

 そうでないなら、一考してみたらどうかしらん。


 ユリズイセンの花言葉は「エキゾチック」「持続」「幸福」「幸福な日々」

 パンジーの花言葉は「もの思い」「私を思って」

 タンポポの花言葉は「愛の信託」「真心の愛」

 一息で綿毛を吹き切れれば恋心が叶うとされ「幸せ」

 一方、綿毛が風に乗って運ばれる姿に「別離」もある。

 美夜の複雑な乙女心がこもった花畑のように思えてくる。


 現在二十歳の美夜の過去が語られている。

「当時五歳ほどであった美夜の記憶は薄く」「家族が亡くなった理由は分からない」が、春日爾庵誠之助は武官時代から内務大臣の懐刀として政争に加担していた。

 冷衛やその父のように、美夜の父親も派閥争いに加担しては失敗、利用されて殺されたのかもしれない。あるいは当主に背いた責めを受けて家は断絶、家族ともども首をくくったのかもしれない。子供だった彼女だけが残された、ところかしらん。

 そのため十五年前、美夜の「父親は爾庵のために働いていたらしい。その任務に関することで美夜の家族が亡くなったため罪滅ぼしとして」「孤児となった美夜を引き取」ったとある。

「爾庵のせいで家族を失ったとは、美夜は感じていない。むしろ、独りぼっちとなった美夜に生きる場所を与えてくれた恩人として、爾庵への敬愛の方が強かった」ため、現在春日邸にて侍女として働いている。

 親が死んでどう生きていいのかわからないところ手を差し伸べてくれたのだから、敬愛するのはわかる。利用されて殺されたと彼女が知ったら、どうなるのだろう。そもそも利用されて死んだのかもわからない。


 また、跡目相続の一件で弟派が破れたあと退官した春日爾庵誠之助が「人材派遣業と称して〈黒屋〉に無頼の剣客や暗殺者を招き、その戦力を内務大臣のために利用している」ことも知っている。つまり、跡目相続で画策してはうまくいかなかったことも知っているに違いない。

 ますますもって、黒衣の正体が美夜の可能性が濃くなった。


 美夜にとって、実子派が政務する現在の公国の世を、あわよくば転覆させようとする目論む内務大臣に春日爾庵誠之助が加担することで世が乱れようとも、大事なのは春日爾庵誠之助の手足となって動くことなので、自分のしていることに疑問を挟む余地があまりないのだろう。

 挟むとしたら、五年前に酔漢に絡まれた際、助けてくれた冷衛だけのようだ。

 どうして彼女が、主人公になにかしら気にかけるような言動をするするのか、どんなことがあったのだろうと気になっていたが今回、ようやく明かされた。

 二年前、冷衛が邸を頻繁に訪れていたとき、応接をしていたのは美夜である。

 彼女は覚えていたが、彼は覚えていなかったのだろう。

 した側よりされた側の方が印象に残るのは、よくある話だ。


「おーい。冷衛、そこにいたのか? 飲みに誘ったのはお前だろ?」

「悪い。早く〈酔いの小森〉に行くとするか」

 このとき、一緒にいたのは由比太だろう。子どもの頃からの付き合いで、冷衛の数少ない友達だから。

 三章の一話で、美夜の回想で登場したキャラが、二話で現在の姿で登場する流れは、つながっていて綺麗でうまい。映像にしたとき由比太が昔からの友達、という説明の裏付けにもなる。

 これまで、由比太の名前は度々出てきたけれど、一向に登場せず名前だけかとヤキモキしていたので、登場に嬉しさを覚える。


 本作は三人称、多視点で書かれた作品。地の文に説明と感情を一緒にするのは難しい。なので、会話のやり取りに面白さを表現している。


 小竜と冷衛のやり取りで、いつものように小竜が棘のあるようなことを言う。そんな会話の後、今度は由比太と冷衛のやり取り。

「そうです。子どもの頃からの付き合いですよ」

「腐れ縁というやつだ」

「それはおれの台詞だよ。いや、小竜さんには自己紹介が遅れましたね。おれは由比太といって、冷衛とは剣を通じての友人です。ここのところは縁遠になっていますけどね」

 ちっとも顔を見せなかった冷衛に対し、棘のあることを言う。


 三人で話をするとき、

「ああ、士郎次か。もう何年も会っていないなあ。彼は冷衛と反りが合わなそうだったからねえ。冷衛ってあまり喋らないくせに我が強いんですよ。それでいつも周囲と軋轢を生んでいた。根はいい男なんですけどね」

「あ、それ分かります」

「本題に入っていいか」

 冷衛に棘のあることを言った二人は意気投合し、主人公はのけ者っぽくなる。由比太と小竜は性格が似てるかもしれない。


 冷衛が頭を下げて協力を頼んだとき、由比太に話題をそらされる。

「小竜さん、お茶の味はどうですか。おれはこの梅入りの昆布茶が好きでしてね」

「え? はい、おいしいです」

「みなはおれに無理するなというのですけどね。……小竜さんは、それほどまでに真人の仇を討ちたいのですか」

「はい。真人の無念を晴らしたいんです。それに私も守られているだけじゃありません。これで……」と鉄砲を取り出し、「私も戦ってみせます。決して人任せにするつもりはありません」

 由比太は笑い、

「勇ましいなあ。何だか冷衛があなたに手を貸す気持ちが分かったような気がするよ。おれでよければ力添えさせてもらいます」

「あ、ありがとうございます!」

「本当は、最初からこうするつもりだったんだけどね。なにせ、暇なんだ。たまには無茶してみたいってもんだろう」

 主人公そっちのけで話がまとまってしまう。


 そんな扱いされたら面白くないので、

「それでは俺が頭を下げただけ損したというわけじゃないか」

 抗議すると、

「頭を下げることを覚えただけ、ありがたいと思いなよ」

 またまた棘のあることを言われてしまう。

 その素直さが若いときにあれば、無用な敵を作らず済んだのにと遠回しに忠告されているのだ。


 親子共々、春日爾庵誠之助にいいように使われ、父は死に自分は失職。お金に困る生活を送っている冷衛。そんな主人公はなぜ二人にいじられているのだろう。

 幼馴染の許嫁を殺された小竜。

 将来有望視されていたが肺を患って蟄居している由比太。

 二人も不憫と思える境遇なのに、冷衛をいじり笑うほどタフさをそなえているのはなぜかしらん。

 江戸時代のような世界観なので、大事なのは個人より家柄であり、真人にはおそらく兄弟がいて家督を継ぐ者がいるのだろう。小竜や由比太にしても同じことが言えるのかもしれない。それは冷衛も同じで、弟が家を継いだので御家断絶にはなっていない。

 なので、家が潰れることはない分、余裕があるのかもしれない。

 少なくとも二人はそういう風に冷衛を観ていると仮定し、ではなぜ二人はいじるのか?

 由比太の「頭を下げることを覚えただけ、ありがたいと思いなよ」セリフに意味があると考える。

 冷衛はこれまで、誰かに相談することなく自分で行動してきたのかもしれない。その結果、落ちぶれて今に至るわけだ。

「ありがとう」と「ごめんなさい」は言えても、「助けて下さい」は言えない子だったのだ。

 困った時は頭を下げて誰かに助けを乞う、ことが生きるためには必要。それを学んでほしくて二人は、冷衛をいじるのだろう。そして、頭を下げることができたことで、由比太はひとまず安心したに違いない。


 人を頼ることができた冷衛は、少し余裕ができたのだろう。

 甘味処で買った団子を土手で食べながら、小竜の話を聞き、自分の恋の話、美夜と会って話したことを思い出しては「あれが恋だったのでは」と考えを巡らせるまでになっている。

 ここでのやり取りは、冷衛と美夜の関係を、読者に伝えるためと思われる。

 双方とも何でもない関係で、この後相対する場面があったとしてもただの敵同士となり、読者は勝敗にしか目がいかず、ドキドキもハラハラも起きなくなる。さりげないけれども、大事な場面である


 本作ではこれまで、食事をしている場面は甘味処で小竜がたべるくらいしかない。冷衛が食事をしてるシーンがほぼ無い。

「変哲もない餡子の乗った団子だが、五本も買うことはないではないか。酒飲みで甘いものは好まない冷衛は、これを食べるのは気が重い」

 彼は酒飲みとわかる。たしかに回想で、春日亭で勧められて酒をんでいた。でも、家柄の格や年長など、勧められたら拒めない状況に冷衛はあったので、酒飲みかどうかまではわからない。嗜む程度かもしれないからだ。

 美夜の回想でも友人に「飲みに誘ったのはお前だろ?」とあるけれど、付き合いで飲んでいただけかもしれないし、これから飲みに行くところで彼の飲酒量まではわからない。

 そもそも本作の世界でお酒がどう飲まれているのか、正直わからない。江戸時代のように、酒と水を一対一で割って水代わりに飲んでいるのかもよくわからないので。

 とにかく、餡ののった団子がでてくる場面で、どうしてこんな説明が入るのか、とモヤッとした。

 あとで白夜街で食事シーンが出てきた。

 穀物から精製した蒸留酒を飲んでいる。本作の世界では蒸留酒が酒なのかしらん。「琥珀色の液体」とあるので、スコッチウィスキー、カナディアンウィスキー、ジャパニーズウィスキーなどの香り付けの蒸留酒で、アイリッシュウィスキーではなさそう。


 釣銭を渡し忘れていた彼に対して、『こういうところでカッコよく決めてくれたら、もっとなー』と小竜は思っている。

 たしかに冴えないところがある主人公は、二・五、あるいは三枚目キャラなのだ。今後、カッコいい姿が見られるかもしれない。期待しよう。

 

 由比太に助けを乞うことができたことで、冷衛は士郎次に会いに行くことがスムーズにできた。

 もともとできる性格なら、父に続いて春日爾庵誠之助に利用されることもなかったはずだし、二年も間、口入れ屋からもらったペット探しで食いつなぐなんてこともしていないはず。

 主人公も、物語が進むにつれて少しずつ成長している。


 真人を殺害したのは辻斬りではないと語る士郎次は、「もし真人を斬れるとすれば、外部から雇った人物かもしれないな」「真人は亡くなる前からある殺人事件を捜査していたらしい。それは上役から捜査を留めるよう達しが来ていたが、真人は諸士検見役しょしけみやくとしての職務とは別に調査を進めていたということまでは分かっている」「真人を殺害した実行犯は不明だが、その凶行を命じた人物については推測がついている」と、真人の部屋で見つかった弾丸を見せられて、話してくれた。

 だが、人物までは教えてくれていない。

「それを貴様に言うことはできん」「貴様のような部外者にあれだけ教えてやっただけ、感謝してほしいくらいだ」

 おそらく、推測から目星はついているが、断定までは至っていないのだ。

 真人が殺害されて一週間。「凶行を命じた人物については推測がついている」とあるので、現在はその人物の特定にむけて動いているのだろう。

 殺害できる限られた人物の潔白を証明している点や交換条件だったとはいえ話してくれたことなど、それなりに気を使ってくれているのがわかる。


 美夜が黒衣の人物だった場合、考えてみると真人を殺した人物であるので、小竜が討つべき相手。

 冷衛は小竜に雇われている身なので、たとえ恋を抱いた相手でも、斬らねばならない。

 美夜も春日爾庵誠之助を敬愛しているので、たとえ恋心を抱いていても、次相対するときは斬らねばならない。

 仮に、小竜が銃で美夜を撃ったとして、その後冷衛と仲良くなれるかといえば無理な気がする。

 だからといって、美夜を捕まえても真人を斬った罪で処刑される可能性が高い。冷衛たちを斬るか国を抜け出る以外に彼女が生き残れる道はない。

 今後の展開としては、斬れと命じられて冷衛を斬れずに戻ってきたため美夜は春日爾庵誠之助に撃たれて命を落とし、死に際冷衛に思いを囁いて息絶える。そして、主人公は春日爾庵誠之助を斬るのではと想像する。

 屋敷を調べたら内務大臣との繋がりの証拠が出てきたり、手足のように動いていた春日爾庵誠之助を失ったことで、弟派の残党勢力はもはや逆らえなくなるかもしれない。

 

 夕方、邑咲最大の繁華街である白夜街にきた三人は、士郎次の後を追って潜んでいる建物を見張る。

 由比太が「こういう盛り場に来たのは久しぶりで、楽しいものですよ。昔は冷衛ともよく遊びに来たんですけどね」という。

 彼は体が悪いので、元気だった頃のことを行ったのだろう。

 小竜が目を向けた店は、「酒を出すが主な商売は女性を揃えて一時の春を売るものだった」という。

 良い書き方だ。

 描写でなく説明し、小竜の感情行動「二人から一歩身を引く」と描写。説明と感情をセットにした書き方が、よく見られる。

 こういう書き方は伝わりやすいし、何でもかんでも描写してしまうより文章のカロリーも押さえられる。見せ場であるシーンは描写して比重を高め、他は押さえた書き方はメリハリの付く。

 

 ちなみに「いかがわしい店には断じて……」「一人だけ格好つけるなよ、冷衛。お前も結構好きだったろ」から、二人は少なくとも来店したことはあるらしい。


 城から出た後、士郎次は配下らしき十数人の剣士を引き連れて白夜街に来ると、数名ずつ男たちを分け、近くの個室のある高級店に向かわせ、見張りをしている。

 おおよその目星はついていたが、冷衛のもたらした情報から相手を特定し、ねぐらを見つけたのだ。

 それがおそらく〈黒屋〉である。

 とはいえ、やけにタイミングがいい。

 昨夜、〈黒屋〉に集った暗殺集団は御馬前衆を討つ企てをしていた。

 ようは、春日爾庵誠之助側が怪しい連中がいると御馬前衆に情報を流し、おびき寄せたのだろう。でなければ、タイミングが良すぎる。

 そんな状況にあることに、冷衛は思い至っていないに違いない。

 真人の部屋で見つけた弾丸以上の情報を手に入れいない冷衛たちは、それ以上調べようがないため、なにか知っている士郎次たち御馬前衆の後を着いてきただけだから。

 ただ、危ない目に合うかもしれないという危機感は、元武官であり雇われた身なので、常に持ち合わせていると思われる。小竜がどれほどの覚悟を持っているかは不明だけれども。


 白麦を原材料にして練った麺に特製のタレを絡め、刻んだ野菜と合わせて炒めた料理を小竜は食べている。彼女は食事担当キャラである。

 小麦粉を使った麺料理なので、焼きそばや焼きうどんにパスタ、ミーゴレンやパッタイに焼きラグマンといった料理かしらん。「追加で注文した鉄板焼き」は鉄板で野菜や肉、魚介類などを焼いて食べる料理やジンギスカン、プルコギ、モンゴリアンバーベキューなども鉄板焼きの一種。またスキレットやステーキ用の鉄板にのせる料理も「鉄板焼き」と称する傾向がある。小麦粉を水で溶いて焼いたお好み焼き、どんどん焼き、もんじゃ焼き、一銭洋食なども鉄板焼きに含まれる。焼きそばやちゃんちゃん焼きなど鉄板を用いた料理も含まれる。なので、なんだろう。


 小竜は食いしん坊キャラとして描かれている。彼女は一番年下だし、遠慮なく好きなものを食べるのは幼い感じがする。

 幼馴染で許嫁が殺されて、仇討ちをしようと口入れ屋に依頼をし、殺されて四日目に冷衛が名乗りを上げてそれから三日。

 目的に向かって忙しくしているからお腹が空くこともあるかもしれないけれども、よくここまで食欲があるなと感心する。

 幼馴染で好きな人が死んだら、ショックで食事なんて喉を通らないし、食べてもストレスから味覚異常になることだってある。しかも殺されるという、普通ではない死に方をしているので、小竜自身精神が不安定なところもあって、はしゃいだり落ち込んだりをくり返しているはず。

 なので、登場したときから小竜だけ妙に浮いているように見える。

 読んでいてずーっと、モヤモヤしてました。

 なぜ彼女は甘味をよく食べているシーンばかりなのか?

 ひょっとすると、普段の食事はろくに食べることができず、それでもお腹はすくから、好きな甘いものだけを食べているのかもしれない。

 ストレスから、甘いものばかり食べがちになることはある。

「すごーい! こんなの食べるの久しぶりだなあ! 美味しいですよ、これ!」

 焼きそば的な麺料理を食べるのが久しぶりではなくて、ひょっとすると甘味以外の食事をとるのが「久しぶり」なのかもしれない。

 つまり、彼女はいままで食事ができなかった。

 真人が死んで一週間して、手がかりを見つけ尾行し、仇討ちに進展がみられる状況になったおかげで、ストレスが軽減、食欲も出てきたのかもしれない。


 士郎次が怪しい男を尾行し、その尾行をする三人。

「夜が深まりつつあると言っても、まだ人の往来がある」「士郎次から距離を隔てて、配下らしき剣士が数名ずつ分かれて後に続いている。彼らの背を遠目にしながら歩を進める三人は、いつしか盛り場を出て閑静な区画に踏み入った」

 だから、夜で、盛り場から外れた区画へ移動したのはわかるけれども、暗くてよく分かるなと感心する。月や星の描写もないので街灯もないと歩けないと思う。提灯などの明かりを持っているとも書かれていない。

 とはいえ、八ツ騎街という区画は、「戦国期に王の本陣を守護していた八人の武将の末裔が居住する」とあるように、屋敷が立ち並んでいるのだ。なので、道が整備されていると思われるので、迷いにくく歩ける場所なのだろう。

「春日や夏目、秋重など八つの名家が居を構えていた」とあるので、春日邸がここにあると思われる。

 役職を外されて以降、城の傍に住むのはおかしいなと思っていたけれども、春日邸はこちらにあったのだ。


 道を曲がった広場では、「十数名の人間が入り乱れて斬り合いを演じていた。そのなかに刀を抜いて勇戦する士郎次の姿」もある。

 尾行していたつもりが、尾行をさせられて敵に誘い出されたのだ。

 そこに冷衛も駆けつけるも、立ちはだかる灰色の髪をし、腰に剣を差した童顔の男。

 四百字詰め原稿用紙換算で百七十枚ほど。本作三百枚ぐらいとすると、第二ターニングポイントに向かっているところと思われる。

 盛り上がってきた。

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