【短編小説部門】短編特別賞『夏が過ぎたら』の感想

夏が過ぎたら

作者 都鳥

https://kakuyomu.jp/works/16816452219853371480


 夢の中で彼女と出会い告白し付き合うことをくり返しながら、冷凍睡眠による夏休眠から目を覚まさない彼に寄り添い続ける彼女の物語。


 第四回カクヨムweb小説短編賞2021において、

「短編賞を受賞した三作品はストーリー展開、キャラクター、文章力などが高いレベルでまとまり、小説として完成度が高く、なおかつコミカライズでさらに輝くポテンシャルを持っていました」

「短編特別賞の九作品はいずれも秀作で、わずかの工夫や見直しで短編賞を受賞した可能性がありました。作者の皆さまは力量十分ですので、次回にぜひ捲土重来を期してください。短編小説を書く方には参考になる作品ばかりなので、ご一読をおすすめします」

「コミックフラッパー奨励賞の一作品は短編小説としての完成度という点で他の受賞作と比較した場合、一歩足りないところはありますが、映像が情景として浮かびやすく、この物語を別の媒体で読みたいと思わせる作品でした」

「新設の実話・エッセイ・体験談部門では、七作品が短編特別賞に選ばれました。独自の経験、体験談を見事にアレンジし、読み手に届けることに成功した作品ばかりです。新しい知識が面白く得られる作品から、涙なしでは読めない感動の作品まで、幅広いラインナップとなっています。フィクションとはまた違った角度から、読む楽しみを味わわせてくれる作品ぞろいではありましたが、コミカライズという点では適さない部分もあり、惜しくも短編賞は該当なしとなりました」と総評されています。


 SFである。

 短い中にも、出会い→深め合い→不安→トラブル→別れ→結末といった、恋愛もののストーリーを描いている。

 すれ違い、同じ時間を生きられない作品は、SFではよくみられるものの、こんな短く綺麗に書かれているのは秀逸である。

 

 主人公は恋人同士の男女、一人称僕と私で書かれた文体。四〇〇字詰め原稿用紙五枚程度の短編でも、情景描写が書かれている。

 

 女性神話の中心軌道で書かれている。

 夏の暑さを乗り越えるために冷凍睡眠技術で夏休眠するも記憶の一部を失うため、付き合っていた事を忘れてしまう彼女と彼は付き合っている。

 夏になる前に思い出を積み上げ、どうか忘れませんようにと願いながら「また秋に」と眠りにつくも、約束の場所に彼女は現れない。

 もう一度時間をかけて声をかけ、知り合い、告白して付き合うまで三カ月。残りの三カ月を恋人同士として思い出を積み上げ宛のない約束をして、またくり返していく。

 ……という夢をみながら冷凍睡眠で夏休暇している彼を、彼女は見守っている。

 夏の暑さを乗り越えるために冷凍睡眠技術で夏休眠するも、本当にわずかな確率で、永遠に目が覚めない若者がいる。

 秋に出会い、冬に友達になって春に恋人同士となり、互いを忘れずに居ようと約束をした。彼女は忘れなかったが、彼は目を覚まさなかった。

 彼女は彼が目覚めるのを待ちながら、老いていく。


 彼が「夏休眠から覚めて、いつもの公園へ行く」「ここで会おうと約束をしたのに、また君は居ない」「まず友達になる切っ掛けを探すのに一カ月」「なんとか声を掛けて友達になるまでに二カ月」「告白をして付き合うまでに三カ月」「残りの三カ月で精一杯思い出を積み上げる」「そして夏にはまた離ればなれになる」秋にはまた会おうと、あてのない約束をして」をくり返しているのは、少なくとも一度は、夏休眠のあと目が覚めて公園に行ったら彼女が忘れてしまっていたことがあったと推測する。

 そして、また恋人になれて夏休眠に入る。

 今度は彼女は忘れず目が冷めたのに、彼は眠ったままになってしまったのだろう。

「目を開かないだけで、脳は活動しているらしい。そしてずっと夢の中で、あの一年を繰り返しているのだそうだ」とあるので、冷凍状態であるわけではないのだ。

 解凍されても目を覚まさず眠り続けている状態。

 頭の中ではあの一年をくり返し、体は彼女と同じく老いていっているのだろう。


 眠り続ける人を待ちながら付き添う生き方の辛さを私は知っている。治ることもなく、ただ終りが来るのを待つ側も、眠り続けるように人生が止まったような生き方になってしまう。

 そうならないためにも、外で活動するが、眠り続ける人の前では、時が止まってしまう。

 はじめの頃は待てても、いっそのこと殺してしまおうと思ったことは幾度となくあったに違いない。

 それでもできなかったのは、彼を愛していたからもあるし、いまさら自分で壊してしまったら、この先どう生きていいのかわからなくて不安になるのが嫌だから。

 ただ彼が目を覚ます日を待ちながら、共に老いていく。

 そんなあるがままを受け入れた生き方を手に入れて、彼女は彼に寄り添い手を握ったのだろう。


 




 

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