カクヨム賞 『蛸の街から』の感想
蛸の街から
作者 東雲聖
https://kakuyomu.jp/works/16816927860884277687
年に一度、北海道八石で開催されるタコ祭りに参加し英気を養い、郷里を後にする物語。
本作は企画物で、『料理研究家リュウジ×角川食堂×カクヨム グルメ小説コンテスト カクヨム賞』を取った作品。審査に際し、最も重要視した点は「いかに料理がおいしそうに描かれているか」「料理を注文した後、その料理の登場する小説を読みながら、いつ自分のもとへ届くのかとワクワクしてしまう物語を選んだ」とあります。
蛸の街とは何処のことだろう、と楽しみにしながら読み進める。
タコを食べに帰ろう。
故郷はと多くに有りて思うもの、と誰かが言った。
思うだけでなく、帰る場所でもある。
帰る理由を無くしても、忘れてはならないこともある。
それが、年に一度の「タコ祭り」である。
超BIGタコ焼きそばは、実に美味しそうだ。
体験談調の作品。
一人称私で書かれた文体。体験したことが綴られ、会話はない。
女性神話の中心軌道で書かれている。
私は、両親をなくして帰省地である北海道八石から出、東京で生活している。
年に一度行われるビッグイベントであるタコ祭りが開催されるのを機に有給休暇をとって北海道八石へ向かう。
東京で食べたタコは全くの別物。
八石のタコが特別で、唯一無二な存在なのだ。
ところどころの屋台で古い友人に遭遇しては、この街で過ごした青春を思い起こす。ぐるりと会場を一周したのち、今回のタコ祭りで目標としている超BIGタコ焼きそばを購入し、食べる。
発案者の好きが詰まった一品は美味く、幸せを噛みしめる。年に一度の帰省理由であるタコ祭りがこれからも続くことを神社で参拝し、帰路につく。
タコの生産地として全国的に知られている北海道の八石を、私は存じ上げなかった。なので、そのような街があることを知れただけでも、本作品を読めたことに価値はある。私と同じように知らなかった人も作品を呼んだ人の中にはいるかもしれないので、世のタコ好きもそうでない人も、八石の存在を知るいい機会だったと思う。
検索すると、タコの名産として知られる愛知県日間賀島の「たこ祭り」が出てくる。本作は架空の街と思われる。
日本で食べられている多くのタコは、海外の海で取れた輸入もの。
日本では年間約八万四千トンが流通し、このうち国産は約三万七千トン前後。
半分強が 輸入タコである。
多くはモロッコとモーリタニアから輸入され、二カ国からの輸入量は年々減っている。また、輸送時に冷凍して運ばれてくる。
対して漁港から水揚げされたタコは近海でとられたもの。なので、あきらかに鮮度が違う。味の違いに差が出るのは必然だろう。
そもそもどんな蛸なのか。
日本近海には五十種類ぐらいいるという。
市場でもよく来るのは、マダコや、ミズダコなど。
よく見る蛸とは違う種類なのかもしれない。
タコ祭りは「広大な漁港の隅から隅まで」「趣向を凝らした唯一無二のタコ料理から王道のタコ焼きまで、様々な屋台が立ち並び、全国からやってくる何千人ものグルメを唸らせる」という。
肉などを使うところ、すべてタコにして、屋台が埋め尽くされるという。その眺めは圧巻であろう。
超BIGタコ焼きそばは、「お好み焼きとタコ焼きの中間のような見た目の食べ物」で「柔らかくモチモチした皮」「中から出てくるのはトロトロの生地とタコの大きな足、そして短く切られた焼きそば」「タコ焼きと焼きそばを同時に味わえる」代物だという。
肉玉そばのモダン焼きならぬ、タコ玉そばのモダン焼きなのだろう。美味しいものと美味しものを合わせたものが、美味しくないわけがない。
最後に、両親が他界し帰省する理由を失っていることが語られている。いまではこのタコ祭りが、生まれた故郷に帰るための理由なのだ。
これでまた一年頑張れる、と帰っていく主人公の背中は、満員電車で取り込み忘れた洗濯物みたいにくたびれていたときに比べたら、遥かにたくましくなっていたことだろう。
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