『クルシェは殺すことにした』四十六話までの感想

クルシェは殺すことにした

作者 小語

https://kakuyomu.jp/works/16816927861985775367


 傷を負いながらクルシェは、九紫美の顔面めがけ短刀の投擲を繰り返す。四本中三本を撃ち落とすも、残り一本は間に合わず、九紫美の頭部を透過した。なにか企んでいると察知したとき、加勢しにクオンが三階からおりて来る。クルシェの電話で挑発されたと気づきながら九紫美は彼をかばい、共闘しながらクルシェを追い詰めていく。

 仕留めようと九紫美の前にクオンが出たタイミングで飛び出したクルシェは、クオンをかばう九紫美めがけて四本の短刀を投擲する。透過できてもクオンに当たってしまう。しかも九紫美の腕では、三本は撃ち落とせても一本は間に合わない。彼女はクオンを護るために短刀をその身に受けた。

 息絶えていく九紫美は影に沈み、クオンも彼女とともに影に飲まれて消えた。闇に消えた二人を見届けたクルシェは、ソウイチを助けに行こうとするも力尽き倒れる。そんな彼女を抱きとめたのは、監禁されていた倉庫から逃げてきたソウイチだった。

 彼におぶわれながら〈月猟会〉の支部を後にするクルシェは、フリードの面影に別れを告げた。


 物語は佳境を迎えました。


 クオンを挑発して戦いの場に連れ出したクルシェの戦略勝ち、だったですね。冷静さを取り戻したからこそ、フリードの助言からクオンの性格を読み、九紫美のウィークポイントを突けたのでしょう。

 ひょっとすると、リヒャルトから九紫美のことを聞いたとき、フリードを殺害したのは彼女かもしれないと考えながらクルシェは、「このクオンって男は女に戦わせてのし上がってるだけじゃないの」と蔑んだのかもしれません。


 クルシェが凄いと思えるのは、四本同時に短刀を投げているところです。投げるだけならできるかもしれませんが、正確に相手の頭部を狙うのは正直難しい。これまでの鍛錬が発揮されたのでしょう。

 短刀を撃ち落とす九紫美も、またすごい。

 こちらに向かって刃先が向かってくるのだから、的が小さい。

 投擲速度をダーツの矢速と同じと考えると、最速で時速二十二キロほど。およそ秒速6.1メートル。二人が銃撃戦を繰り広げていた室内がどれほどかわかりませんが、二人の距離が二十メートルもないと仮定すると、三秒ほどで到達するわけです。

 のび太の早撃ち速度0.1秒ほどではないとしても、冴羽獠並みで0.2秒。撃ち落とせないわけではなさそうですが、正確さが求められます。九紫美は一丁拳銃で戦っていますので、二丁拳銃だったなら、四本の投擲を回避できた可能性があったかもしれません。


 九紫美の戦いは、これ迄になく短刀を投擲しています。

 殺害依頼を受けたとき、クルシェは短刀を五十本、体内に取り込みました。ウィロウやクオン達四人、ハチロウとの死闘では、それほど投擲しておらず、死期視を使うことが多かったです。

 九紫美との死闘で、とどめの胸に突き刺さるまでに十七本も投げています。十八本目で刃が届いたわけです。

 クオン殺害依頼を果たすまでに二十四本(数え間違えてたらごめんなさい)クルシェは短刀を使いました。

 半分残っているということは、まだ死闘が続くのでしょうか。


 死んでいく九紫美とクオンは、影に飲まれ消えていきました。

 魔女が死ぬときは、常人とは違って骨身も残らず消滅してしまうのでしょうか。

 彼女の場合、自身の魔力に飲みこまれたと見るべきなのかしらん。

 これには、何かしらの意味があるのかもしれません。


 九紫美の胸に短刀が突き刺さり、死んでいく傍でクオンが駆け寄り「本当は分かっていた。俺が彼女の足枷になってしまうことは」「それでも来たかった。俺は九紫美とともにいることを示したかったからな」と声をかけています。

 若頭としてではなく、一人の男としての行動を彼は選んだのです。

 九紫美が戦っていたのは彼のためであり、月猟会の次期会長となる彼の夢を叶えるためです。

 互いに贈ろうとしたものは違っても、その行為の源は共通でした。

 クオンと九紫美から、ある物語を思い出しました。

「少年と少女が互いに愛し合い、二人は婚約することにしました。婚約には互いにプレゼントを交換しなければなりません。貧乏な少年は、唯一の宝物である祖父からもらった時計を売って美しい恋人の髪のために髪飾りを買いました。お金のない少女は自慢の髪を売って、金の時計の鎖を買いました。彼女は彼に、時計のための鎖を送り、彼は彼女に髪飾りを贈りました」

 彼らは互いを思い合っているからこそ、愛ゆえに全てを委ねて影に消えていきました。こんなことは現実には起きない。でも起きている。起こり得ないはずのことが起こったとき、人はそれを奇蹟と呼びます。

 これも愛の奇蹟。

 なぜなら、愛に規則や決まり事などないからです。

 クオンと九紫美のストーリーはメロドラマのように、個々の能力だけではクリアできない障害が用意され、クリアするごとに成長して前に進むものでした。

 彼らはようやく、愛を手にしたのです。


 ソウイチが美味しいとこを持っていきました。

 クオンと九紫美、ソウイチとクリシェが対になってます。

 それぞれの二人が、片や影に飲み込まれ、片や共に帰路につく。

 映像としてはいい感じです。

 とはいえ、当初のクオン殺害依頼は達せられました。なので、ソウイチが今までひた隠しにしてきた魔女の力を使って倉庫から抜け出し、ソナマナンが瀕死の重体にもかかわらず、助けに行かなくてはと起き上がった甲斐がありません。ここで終わるならば、ですが。

 枚数換算だと三百枚ほどなので、全体が四百枚程度なら第二幕の終わり。

 次回から第三幕の幕開けといったところ……え、あと二話で終わり?

 だったら、三十四話くらいから第三幕でしょうか。

 今回がクライマックスですね。

 クオン殺害がメインプロットならクライマックスを迎えたのでしょう。

 でも、まだスッキリ終わった感じがしません。

 解決が残っています。

 リヒャルトと死闘を繰り広げるのでしょうか。

 はたして三人に、なにが待っているのか。


 


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