『クルシェは殺すことにした』四十二話までの感想

クルシェは殺すことにした

作者 小語

https://kakuyomu.jp/works/16816927861985775367


 意識を取り戻したソナマナンは負傷した体を起こし、大好きなクルシェとソウイチを助けに向かう決意をする。

 囚われの身だったソウイチは、二人の危機を救うべく隠してきた魔女の力を発動して監禁部屋から出ると、構成員達の攻撃を弾き飛ばし、エンパを殴り殺すのだった。


 ここからは反撃開始ですね。


 本作を読みはじめた当初、かなりシリアスな展開になると思っていました。が、ソナマナンが助かったので、違うという確信に至りました。


 二つの話は、対になっていると同時に一つとして読むことができます。

 気がついたソナマナンの「目前に映る現実の景色は、想像以上に薄汚れた天井」であり、彼女がいるのは床には埃の積もった薄汚れた平屋の中でした。

 ソウイチがいる暗い部屋は「壁の上部に備えられた明かり取りの窓から月光が差し込んでくるが、それでもなお暗い」〈月猟会〉が監禁に使う倉庫で、「埃っぽく、すえた匂いが」しています。

 状況は違うけれど、似たような所からはじまっています。

 

 ソナマナンは治療されていることに気づき、九紫美に撃たれた後、かかりつけ医に連絡したことを思い出し、命拾いしたと安堵する。改装される過去から、二人に出会って過ごした二年間の楽しかったことが去来し、クルシェと連れ去られたソウイチを助けに向かうためにベッドを降りる。

 ソウイチは〈月猟会〉が監禁に使う倉庫でエンパに蹴飛ばされながら大人しくしていた。が、クルシェたちを心配し、助けにくる王子様を待つお姫様じゃないと発奮、隠してきた魔女の力を発動させて銃弾を弾き飛ばし、エンパを撲殺する。

 独立した話だけれども、「クルシェの仲間」とひとくくりにして読めば、このあとスムーズに合流していけるでしょう。しかも、二人の行動とともにストーリーも前に進んでいるので、うまいなと思いました。

 

 ソナマナンは十歳で魔女の力を使ったようで、「魔力が発現したのは、彼女が大人になったとき」と書かれています。

 猟師の父親が酒飲みで、この夜に使い、十歳で村を出たという流れから察するに、父親が娘に手を出して魔女の体液毒で死んだから、村を出たということかしらん。

 その後は、援交やパパ活みたいなことで殺害と金稼ぎをして生きてきたのでしょう。

 くどくど書かず、さらりとほのめかす表現はいいと思います。

 ただ、前日に銃弾を三発受けているソナマナンが起き上がれるのかしらんと考えてしまいます。

 恐らく銃弾は貫通しているだろう。左胸と腹部と脇腹に負傷し、止血も終えている。動くのはかなり痛いだろうし、力も入らないと思われる。それでも動けるのは、魔女は回復能力が常人より高いのかもしれない。

 クルシェとソウイチを助けるため、ソナマナンはベッドから起き上がるのだ。このへんは男らしくみえます。(女だけど)


 ソウイチは監禁されている部屋で、エンパに蹴飛ばされています。 ただ、どういう状況がわからない。

 あとで地べたに座っていたと伺えるけれど、手足は縛られていなかったのかしらん。動けるなら逃げ回れるのに、どうして抵抗もせずエンパに蹴飛ばされていたのかがしっくりこない。

 さんざん抵抗したあとで床に倒れていた、あるいは寝ていた所を蹴飛ばされたのか。その辺りが書かれてないのでわからない。


 男のソウイチが魔女だったのが明かされます。

 元々彼は、ハクランの末裔であって水華王国の人間ではないので、彼が魔女であっても問題がないと思います。なぜなら、ハクランに魔法が使える人がどれくらいいるのかがわからないからです。

 ハクラン人は男女関係なく魔法が使えるのなら、ソウイチが使えてもおかしくない。逆に、ハクラン人は魔法はまったく使えないのなら、ソウイチの特殊性が際立ってくるでしょう。


 隠していたようですが、スカイエは知っていたようです。

「今まで黙っていたけれど、ソウイチにはある秘密があるのよ」

 では、彼女はいつ知ったのでしょう?

 ソウイチは、はじめ普通の酒場として〈白鴉屋〉に応募したけれど、働いてみたら暗殺の仲介をしていて、魔女の出入りもしているのを知った。だからソウイチは、「特異な能力を有する魔女のなかに混じれば目立たなくなるのでは」と考えたみたいです。

 ということは、先にスカイエがソウイチに暗殺の雑用を持ちかけたということになります。

 だからといって、持ちかけたスカイエがソウイチの秘密を知るはずはなく、ソウイチもスカイエに自分の秘密を打ち明けるとも思えない。初対面の面接時に「じつは魔女です」と告げたのなら別ですが、水華王国内に来て男の自分が魔女だと公言すれば目立ってしまうので、彼から打ち明けることはないでしょう。

 うっかり魔力を使った所をスカイエに見られ、それから知られたのかもしれません。

 背嚢に雑誌を詰め込んだだけで弾除けにするのは、かなり危険な行為だと思っていました。けれども、彼は魔力で弾除けをしていた、だから殺害依頼に同行できていたのでしょう。

 九紫美に顔を掠めたときは?

 本当は直撃だったけれど掠める程度で済んだとみるべきか、魔力を使っていなかったとみるか。あるいは魔女同士では効果が鈍いのか。

 おそらく、相手が魔女だったからだろう。

 魔女は凡人ではない。なので、ソウイチの魔力は魔女相手だと半減するのではと推測する。

 

 ソウイチの魔力は〈逸脱〉であり、「凡人から逸脱していくことで自身を強化していく能力」「この魔力は逸脱していくだけで、元に戻ることは決してできない」とあります。

 一般人から逸脱した力が使えるということかしらん。

 ある一定空間内にいる人間の平均を出し、そこから逸脱した能力が使える、という魔力なのだろうか。あるいは、向かい合った相手より逸脱しているのか。そのあたりがわからないが、凡人の定義次第では、特質な状態に必ずしもなるわけではないだろう。

 たとえば、病人のいる病室にソウイチが行けば逸脱して、元気な普通の一般人になるだろう。幼子の集団に混じれば、子供達よりは強くなるにちがいない。だから、一般人に混ざっているだけで目立ってしまうのだ。

 クルシェたちと昼食を食べに行ったとき、人目のある場所を歩くのが好きだとソウイチはいっている。なぜなら「傾城の美姫を二人も連れているのだから衆目を集めること甚だしい」からだ。

 つまり、普段ソウイチは逸脱して目立ってしまうけれど、彼女たちと一緒なら自分が目立たなくなるから、というのが本音にあると推測する。


 元に戻ることは決してない、とあるけれども、自分が魔女だと認識したのは、過去に魔力を使った事があるからだと思う。

 もし戻れないなら、その時から今までずっと魔女として魔力を使って逸脱してきたことになるので、「俺が顔だけの男じゃないってことを見せてやる!」と気合を入れて魔力を使うこともないのではないかしらん。

 クルシェや九紫美をみても、自分の意志で魔力の使いどころを決めている書き方がされています。

 とくに九紫美はわかりやすい。体が透過するのに、銃や苺、クオンの手を掴むなど、自分の意志で透過しないよう選択しています。

 クルシェも短刀を任意で出し入れできていて、腕をふるたびにボトボトと短刀がこぼれ落ちる描写もありません。

 なので、ソウイチも自身の力をコントロールできると思われます。彼のコントロールが、クルシェ達ほどうまくできるかどうかは知りませんけれど。


 エンパがソウイチを見て、男の魔女の存在に驚いています。

 魔女といえば女しかいないと育ってきたのでしょうから、知らない存在を見て驚くのは当然です。

「もしも、男にもこの異能を持つ者が存在するとすれば、女王の存在意義が根底から揺らぐことになる。王朝の成立から現在までの王室の歴史が否定されることになるのだ。〈魔女〉の力を有する男など、存在してはいけないのだった」

 これは王朝としては、一大事でしょう。

 でもエンパは〈月猟会〉に属していて、王朝とは関わり合いがありません。いくら王国内に生きていても王族と平民とでは考え方がちがうので、男の魔女にびっくりはしても「こいつを生かしておいたら、あたし達も危なくなるかもしれない。殺せ!」となるだろうか。

 でも、彼女は狼狽えている。

 危機に対して、動物的勘が働いたのでしょう。

 ソウイチの存在は王朝にとっては異物。

 巡回裁判所のリヒャルトはおそらく、ソウイチを探しにきていたのでしょう。彼を抹殺しても、男の魔女がいた事実を知る者も存在していてはならないとし、この場にリヒャルトがいたらエンパたちも殺すに違いない。

 だからエンパは巻き込まれるのが嫌だから、ソウイチを殺せと叫んだのでしょう。こういうところは、命のやり取りをしてきている彼女だから察知できたと思われます。

 今後、リヒャルトとクルシェたちの戦いが待っているかもしれません。

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