第10話 朝のニュース


「おはよ」


「おはようお兄ちゃん! 朝ごはんできてるから早く顔を洗ってきて」


「へーい」


 あー、さすがに眠いな。昨夜は深夜に家を出て、またぼったくりの被害に遭っている人を助け、そのあとコンビニ強盗も捕まえて、さあ帰ろうとしたらは原付バイクでひったくりをした奴が目の前を通り過ぎて、さすがに見て見ぬ振りはできずに追いかけ回してやっと捕また。そんなこんなでで帰ってきたのは朝方というかついさっきだ。


 しかもここの所は運の回収を終えた後も、図書館から借りてきた神仏学の専門書とか読んでてあんま寝てないしな。いくら身体強化の祝福と精神力強化の祝福があってもさすがに無理しすぎか。


 まあ今日からバイトも無いし、昼はゆっくり寝るとするか。


 そんなことを考えながら顔を洗い居間へ行き、朝食が並ぶちゃぶ台の前へとあぐらをかいて座る。すると母さんがご飯をよそって手渡してくれ、海音が麦茶を置いてくれる。そしてみんなでいただきますと言い、焼き魚と味噌汁と白飯だけの朝食を食べ始める。


 海音はご飯を食べながら、今日友達と遊びに行くと母さんに話している。


 俺はそんな二人を横目にテレビのスイッチを入れた。


 このテレビは近所のおじさんから譲ってもらったやつだ。息子さんが自分の部屋にゲーム用に置いていた物らしく、新しく買い替えたから捨てるつもりだったらしい。その話を聞いた俺が譲ってくれるよう頼んだという訳だ。うちのはボロボロだったからな。いいタイミングだったよ。


 ただ、テレビは電気代が高いので、朝と夕飯時の1日2時間までと決めている。


 テレビをつけると朝のニュースがやっていた。この時間はどこもニュースばかりなので、このままでいいかとチャンネルを変えることなく見ていた。


《次のニュースです。昨夜捕まったコンビニ強盗の犯行映像が届きました。これは店内の防犯カメラで撮られた物です。このように犯人が包丁を店員に突きつけています。しかし店内のトイレから突然現れた、般若の面をした黒いコート姿の男性が駆け寄ります》


「ぶっ!」


 俺はテレビに映った自分の姿に思わず味噌汁を吹き出した。


「どうしたのお兄ちゃん!? お味噌汁でも気管に入った?」


「あ、ああ。も、もう大丈夫だ」


 マジか。昨夜コンビニ強盗を撃退した映像じゃねえか。あ〜コンビニだもんな。そりゃ防犯カメラはあるし、そりゃ映るわな。黒闇天にいきなり店のトイレに出されたから、あの時はコンビニだって気付かなかったんだよな。


 俺は台所で鍋から味噌汁をすくって飲んでいる黒闇天へとチラリと視線を向けたあと、ため息を吐きながらテレビへと視線を戻した。画面には俺が権能を発動した瞬間の映像がちょうど流れている所だった。



《これは!》


《あっ! この黒い蔦のような物はもしかして!?》


 女性アナウンサーと、最近アイドルを卒業したばかりの女性が防犯カメラの映像を見て目を丸くしている。


《そうです。神の権能です》


 それに対してメインキャスターの男性アナウンサーが神妙な顔をして答える。


 しかし防犯カメラにも黒闇天は映らないんだな。俺にとっては心霊みたいなもんなんだけどな。それにラッキーコインもそうだ。権能は映るのに、ラッキーコインは映らないんだな。まあ権能を発現させるために、運を吸い取ってるとか知られたくないからその方がいいんだけど。


《では軍の神兵が?》


《いえ、軍に問い合わせた所、軍に所属している者でこのような禍々まがまがしい権能を使う神兵はいないとのことです》


 禍々しいって……まあその通りだけどさ。


《ということは、加護を授かったのに申告していない人間だということですか? それにしては強力な権能に見えるのですが……》


 加護を得て国に申告する前に使い方を試そうとする人間は一定数いる。けどそのほとんどが中学生で神力も加護を得たばかりということもあり低いので、たいしたことはできないまま見つかって対魔学園に入れられる。


 だから俺みたいにいきなり対人戦で通用するほどの権能を使える人間は少ない。俺だって黒闇天の加護がなければたいした権能は使えなかっただろう。


《おっしゃる通りです。恐らく長い間加護を得たことを隠してきたのでしょう。実は一昨日にありましたお年寄りの女性宅への押し入り強盗から、その女性を助けたのも般若の面をした男性だったということがわかっています。さらにそれ以前にボッタクリバーで被害にあった方も、般若の面の男性に助けられたとSNSで呟いていました》


《あっ、それ私も見たことあります! 他にもチンピラに絡まれていた所を助けられた女性も呟いてました。すごく怖い雰囲気を身に纏った男性だったそうですが、何もお礼を受け取る事なく黙って去っていったすなんです》


《まるで正義のヒーローのようですね》


《ですが加護を得た人間を管理する政府や軍としては、どうにかしてこの人物を特定するべく動いているようです》


《うーん、仕方ないといえば仕方ないのでしょうね》


《強力な力を持ちますからね。もしそれが悪用されればと考えると……般若面さんには申し訳ないですが、やはり特別な力を得た方には日本国のために魔界で悪魔退治をしていただきたいですね》


 言ってることはわかるけど、加護を得たからって魔界で無理やり戦わせるのはなぁ。加護を得る前には将来なりたい職業とかあっただろうに。それを無視して悪魔と戦えってのもな。だから脱走兵が後を絶たないんじゃないか?


 まあ俺は収入がいいし、社会的信用も高いから軍に入るけど。


《そうですね。今は悪人を退治することに権能を使っていますが、強い力を持った人間は力に溺れることもあります。国が管理してこそ私たちも安心して暮らせるのです》


《ですよね。私も同意見です》


《テレビをご覧の皆さんも般若の面をしたこの男性を見かけた際は、軍への通報をお願いいたします。では次のニュースです……》



「ほええ……般若のお面の人って凄いんだね。黒い蔦みたいなのであっという間に犯人を無効化しちゃって、そのあとなんか黒い虫みたいなのを大量に飛ばしてたよ」


「そうね。犯人はなんだかぐったりしてたけど、どんな権能だったのかしら?」


「さ、さあどんなのだろうな」


 俺は海音と母さんの言葉に冷や汗をかきながら答えた。


「んーでもあの黒い般若のお面どこかで見たような……それにあの黒いコート。お兄ちゃんが着ていたのに似ていなかった?」


「そう言われればお爺さんが昔部屋に飾っていたお面に似ていたわね。最近見なくなったけどどこにしまったのかしら」


「お、おいおい二人とも。それじゃあまるで俺があの般若仮面みたいな言いようじゃないか。俺が加護なんて得ている訳ないだろ? もう16だぞ?」


 す、鋭い! さすが家族だ。


 俺はなるべく平静を装いつつ不思議そうに視線を送ってくる二人へと反論した。


「それもそっか! 確か加護を得るのはほとんどが中学生の内だもんね。あーあ、私も可能性があるのはあと1年か。福の神様の加護を得られたら、今日の福引なんて1等から5等まで全部当たるのになぁ」


「ふふふ、そんな欲張りな子に神様は加護を与えてはくれませんよ」


「そうだぞ。だいたい海音が加護を得たら軍に入らなくちゃならないじゃないか。そんなの兄ちゃんは嫌だぞ」


 福の神どころか、つい最近まで家ごと貧乏神に取り憑かれていたなんて知ったらどんな顔をするんだろう?


「お兄ちゃん……うん、そうだよね! 私が軍に入ったらお兄ちゃん心配し過ぎて病気になっちゃうもんね! 大丈夫、私ずっと側にいるから! そしてお兄ちゃんの赤ちゃんを産むよ!」


「な、なんで海音が俺の子を産むんだよ! ほら、食ったなら早く着替えてこい! 遊びに行くんだろ?」


「照れちゃってお兄ちゃん可愛い! ふふふ、あと3年待っててね。お母さんみたいなボンキュッボンになるから。そうなったらお兄ちゃんも理性が……」


「ハイハイ、俺は部屋に行ってるから。テレビ消しとけよ」


 俺は海音の妄言と、それを聞いて楽しそうに笑う母さんを無視して食器を流しに持っていき部屋へと向かった。その際に台所で黒闇天が、『妹にはモテモテじゃのう。妹にはの』とかからかってくるので、黒闇天が持っていた味噌の入った容器を奪い取り棚に閉まった。


 くそっ! 定期的に加山さんとの事を思い出させやがってあの厄病神め!


 しかし参ったな。このまま繁華街付近で運の回収をしていたら、軍に通報されたり見つかるのは時間の問題だ。なんとかしないとなぁ。


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