第14話真実
【真実】
9月も半ばを過ぎると、すこしづつではあるけれど過ごしやすくなってきた。
世間ではシルバーウィークと言って結構騒いでいるようだけど、俺には関係のないことで、ただ家族持ちや、彼氏のいる女子社員はやっぱり飛び石連休の間に有給を取って土日にくっつけて連休にする人も結構いたりして、俺は代用要員というかいつものように営業経理業務の課長が調整役の佐々木係長に声をかけて、佐々木係長から全日出社のご相談、断る理由もなく、俺の休みは皆が休んだ後。
「高谷君、結局いつも通り全日出社ね」
「はい、柴田さんは?」
「うん、私は前半の祝日を出社する代わりに後半の土日に1日つけて3連休にしたの」
「何かあるんですか?」
「うん、ちょっとね」ニコニコしているのを見て
「何か良い事あるんですか?知りたいですね~」
「うん、ちょっとね、どういう訳かまた軽井沢に行くことになったの」
「それ、この前の夏休みに行った所ですか」
「うん、そう」
「そうですか……」
また2人で軽井沢……気持ちが一気に沈む、どんより。
「どうしたの? なんか顔色が悪いわよ」
「いえ、ちょっと疲れが溜まってるみたいで」
「そう、……明日も仕事だけど、うちに来る?」
「いいんですか?」
「もちろん」
「ありがとうございます」
いつものように夜11時、仕事を終えて2人でラブホ街を通り24時間スーパーで買い物をして裕子さんのマンションに。
俺は、軽井沢の事が頭から離れず、暗―い顔をしているらしく
「本当に調子悪そうね、大丈夫?」
「ええ、疲れが溜まっているだけなので、大丈夫です」
いつもなら、風呂から上がってビールを飲んで雑談に花が咲くのだが、俺の反応が悪くって…沈黙が続く。
黙っていられなくなって、でも直接聞けない、言えない、何か言わなきゃ、思わず口に出した
「あのっ、柴田さんは、自分で×2、とか言ってるけど、俺は柴田さんにやさしくしてもらって、相談にも乗ってもらったり、色々話もさせてもらって、柴田さんは優しくて思いやりがあって、とてもいい人だと思いました。
だからもっと自分を大切にしてください、お願いします」
こんな事しか言えない自分がなさけない
『それでも専務が好きなの』なんて聞きたくない、けど何か言わなきゃ・・・そう思っていたら
「ひょっとして噂の事?・・・そっか・・・」
「すみません」
「いいの・・・あのね、橘専務はね、叔母の旦那さんなの、つまり私の叔父にあたるのよ」
・・・何?・・・
「へっ?」
「人事の人しか知らないけどね」
「そうなんですか?」
「私ね、父と色々あって、実家と疎遠になってるでしょ、叔母が心配してね、この会社に入ったのもそういう事なの」
「そうなんですか?」
「そう、だから橘専務が色々私の事を気にかけてくれて、時々呼び出されるのよ」
「だから、専務の部屋に・・・」
「そう、私×2でしょ、それに父とは喧嘩別れしたから、叔母も父とは反りが合わなくてね、だから一層私の事を心配してくれるの、そういう事もあって頻繁に私の様子を橘専務経由で聞いてくるのよ」
「そうなんですか・・・この前、夏に同じ部屋にいたのは……」
「うん、ほらソファー、新しくしたでしょ、1人でうまく組み立てられなくてお願いしたの」
「そうなんですか」
「うん、あの時はほんと大変だったのよ、2人とも汗だくになってやっとできたんだけどね、でも、そのおかげで寝心地良いでしょ?」
「はい、あのー、軽井沢は……」
「そういう事で実家に帰らないから、休みも独りぼっちだからってね、それで叔父様が課長の所に直接言いに来て休みを取ったの」
「そうなんですか、今度もそうなんですか?」
「そう、別荘から車で1時間くらい行ったところに温泉があって、そこがとれたんですって」
「そうなんですね」
「ああ……叔父様が私の休みについて直接課長の所に言いに行ったものだから、すごい噂が立ったみたいだけどね」
「そうです、皆、そう思ってますよ」
「ハハハ、そうよね」
・・・俺はなんだったんだ?・・・1人でモヤモヤして、あの時、裕子さんと橘専務が同じ部屋で・・・って思ったら胸が苦しくなって・・・・・・なんで?
そんな事を考えてたら、裕子さんがすっきりした顔で風呂場から出てきて、俺もお風呂を進められ、それからいつものように冷蔵庫からビールを2缶、1つを俺に渡して、裕子さんは喉をぐびぐび言わせながらビールを一気に飲む・・
「プハー、一仕事終わってお風呂でスッキリした後のビールって最高!」
1人で勝手にモヤモヤしてて苦しくなって、顔色が悪いとかで裕子さんに心配されて……
「プハーッ、冷えたビールがおいしいです」
「そっか、やっぱりお風呂上りのビールって最高ね」
「はい・・・あの・・・すみませんでした」
「何?」
「1人で早とちりして・・・噂の・・・」
「いいのよ、それより、高谷君は私の事を心配してくれてたんでしょ?」
「・・・はい」
「ふ~ん、そっかー・・・ありがと」
「いえ、俺が勝手に噂を信じて・・・」
「そうね、噂、広まってるものね」
「はい」
「でもそういう事、噂なんてそんなものよ」
「でも、なんで否定しないんですか?」
「だって、私ってほらこの顔でこの体で×2でしょ
何もなかったら皆そっち目当てで言い寄ってくるじゃない。
でも橘専務と不倫しているって噂があるから、橘専務の事を言ったら誰も近寄ってこないじゃない、
まあそれでも齋藤部長みたいな人もいるけど」
「そうですね」
「そう、こんな私の事を心配してくれるのって高谷君くらいよ」
「そうですか、でも柴田さんは、その…とてもやさしいし、気が付くし・・・とってもいい人ですよ」
「そう?そう言ってもらえてうれしいわ、ありがと」
「いえ、本当の事ですから」
「そう、・・・そっかー、高谷君は私の事を心配してくれてたんだ」
「・・・はい・・・心配でした、こんないい人なのに、過去に何かあったんでしょうけど、でもそんな事しないでちゃんとした人と付き合うべきだと思って・・・」
「ははは、そうね、不倫なんて・・・ね」
「はい、柴田さんも相手の家族も皆不幸になるっていうか・・・柴田さんはちゃんと幸せになるべき人だって思って・・・」
「うんうん、ありがとね」
「いえ」
「ねえ、ひょっとして、あの時マンションの前に立ってたのって、心配して来てくれたの?」
「・・・はい」
「私のため?」
「・・・はい・・・」
「そっかー」
すみません、自分のためなんです、モヤモヤが、胸の苦しさが何かわからず思わず行動してしまっただけなんです。
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