第12話 クァズ視点/婚約後


――ということで僕は嫡男の座を守り抜くために、多額の慰謝料を払うために、金持ちの家から婚約者を選んで金を用意する必要があったのだ。僕自身が働いて金を稼ぐなんてとても無理だからね、金持ちの貴族の令嬢を娶って舅にお金を出してもらうのだ。我ながらうまい作戦を思いついたものだ。



でも、婚姻を結べる家は限られる。僕が起こしてしまった問題は結構大きなものだったからだ。何しろ公爵家の婚約をダメにしちゃったからなぁ。



不幸中の幸いと言うか、シンクーロ公爵家は元からイサッカと子爵令嬢の婚約に反対だったらしく、また、息子が寝取られたことを広められたくないということで話を広めようとはしなかった。おかげで僕が公爵令息を怒らせた話は広まってはいない……と思う。



それでも、耳のいい貴族は僕のやらかしたことを聞いて僕を避けてしまう。特に金持ちの貴族ならなおさらだ。そういう奴らに限って、耳ざとくて細かいことばかり気にするんだもんな。だからこそ、下級貴族で僕の起こした問題をよく知らない家の令嬢を選ばなければならない。条件が絞られるから面倒だ。



そこで目を付けたのがイカゾノス家だ。伯爵家なのだが、先代の当主の代から多くの商人と取引をしているということで条件としてはピッタリ! 早速、イカゾノス家の当主の伯爵と話をつけてアキエーサという少し地味だが美人な女と婚約できた。これでお金の問題は解決した!



……だけど、後になって婚約したことに後悔してしまう。理由は二つ、アキエーサは真面目過ぎるうえに小言ばかりで口うるさいのだ。地味だけど顔とスタイルはいいというのに僕に全くなびかないから腹立たしい! 女のくせに家庭教師かよってわけだ!



もう一つの理由、それはワカマリナという可愛いもう一人の娘に僕は心を奪われてしまったからだ。あの子はすっごく可愛くて僕を立ててくれるから一緒にいて楽しくて仕方がない。今まで遊んだ女たち以上に金遣いが荒いけど全部伯爵に押し付けられるから問題もない!



だから僕は思ったんだ。ああ、最初からアキエーサじゃなくてワカマリナと婚約できればよかったのに。何度も何度もそう思った。それをついワカマリナの前で口にしてしまったらワカマリナがこんなことを切り出した。



「クァズ様! それならお姉様と婚約破棄すればいいではありませんの!」


「え?」


「その後でわたくしと婚約すればいいのですわ! あんな地味でつまらない女よりもわたくしのほうがいいに決まってますでしょう!?」



ワカマリナは冗談のつもりで言ったみたいだったけど、僕の頭は曇りが晴れたような気がした。アキエーサとの婚約破棄、ワカマリナとの婚約。その言葉を可愛いワカマリナから聞いた僕は即決した。



「そうだな。そうしよう!」



即決したその日にイカゾノス夫妻に相談すれば喜んで了承してくれた。なんて話の分かる人たちなのだろうと感激したものだ。その話もその日のうちにワカマリナに話してしまった。



「嬉しいですわ、クァズ様!」



アキエーサとの婚約は卒業式のパーティーで盛大に婚約破棄することも決まった。これであの女の泣きっ面を拝めると思うとゾクゾクする! ああ、卒業式が待ち遠しい!





「……なんてこともあったな」



――僕はこれまでのことを振り返って、違和感に気付いた。今になっておかしいと思うべきだったのかもしれない。



婚約に関する話の進み方が早すぎるのだ。伯爵家からすれば、娘が侯爵家に嫁ぐのは嬉しい限りだし、そこは問題ない。だが、姉の婚約を妹に変更するというのはどうなのだろう?



「……あんな女でもアキエーサは伯爵の娘のはずなのに、なんだかワカマリナを異様に可愛がっていたな。どういうことだ?」



思えばワカマリナは今まで見てきた女たちの誰よりも我儘で金遣いが荒かったな。お金を使うことは楽しいことだけど、あれはなんだか一線を越えた何かに見えなくもない。それに比べてアキエーサは逆だ。可能な限りケチっていたのはよく覚えている。僕に向かって「金の無駄遣いはお控えください」と口酸っぱく言っててうるさかったからな。



……あれ? 姉妹で違いすぎないか? 金のこともそうだけど、僕に対する態度も、趣味も容姿も何より性格も全てが違いすぎる。同じ親を持ったのにどうして?



思えば、イカゾノス夫妻の態度もおかしい。アキエーサに厳しくてワカマリナを甘やかす。もしや、あれが俗にいう姉妹格差ってやつなのでは? イカゾノス家は金持ちだと思ったけど、なんだかマズいものを抱えているんじゃないのか?



何だか嫌な予感がするな。イカゾノス家を調べてみるか。お金が欲しくて、金持ちかどうかという条件でしか見てこなかったからな。




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