第11話 クァズ視点/婚約する少し前
(クァズ視点)
イカゾノス家の屋敷から出て行った僕はすぐさま馬車の中でこれからのことについて考えていた。イカゾノス家と縁を結ぶべきなのか、そうでないのかを。
僕はクァズ・ジューンズ。ジューンズ侯爵家の嫡男だ。上級貴族の家の令息であり、近いうちに父・ユドビア・ジューンズから家督を継ぐ身の上だ。
……いや、継ぐはずだったのだ。公爵令息の婚約者に手を出さなければ。物思いにふける僕の脳裏に浮かぶのは、アキエーサとの婚約が決まる前のことだ。
◇
アキエーサと婚約する少し前、僕は褒められたことではないが下級貴族の令嬢相手に女遊びをしていた。その中に婚約者がいた子爵令嬢の娘もいた。子爵程度なら婚約者がいても大丈夫だろうと思って手を出したのが間違いだったのだ。
その婚約者がなんと公爵令息のイサッカ・シンクーロだったのだ!
公爵令息なのに子爵令嬢を婚約者にしたことに驚く暇もなく、僕は大変なことになってしまった。自分の婚約者に手を出されたことにイサッカ・シンクーロは激怒したからだ。相手は公爵家、格上の相手となあると侯爵家の僕は反論すら許されなかった。
イサッカは激情家で、自分の女に手を出されたという理由で僕を徹底的に殴りまくった。とても痛くて死にそうだった。殺される寸前に向こうの親たちが止めてくれなければ虫の息だった。本当に最悪だ。子爵令嬢ごときのためにそこまで怒るなよな!
話はそこで終わらなかった。今度はシンクーロ公爵家から多額の慰謝料の請求を求められてしまったから貴族の立場として大変なことになってしまった。気に入った女のために金を使ってきた僕の懐具合は寂しいというのに!
そのことで父にも殴られて叱られてしまった。
「お前はなんてことをしてくれたんだ! だから女遊びはもう止めろと言っておったというのに!」
「殴らないでよ……ただでさえあの馬鹿な男に殴られたばかりなのに……」
「馬鹿はお前だ! こちらの責任で公爵家の婚約を白紙にしたんだぞ! しかも慰謝料まで請求されたんだ。我が家に泥を塗りおって、お前はもう廃嫡にする!」
「そんな! 父上、それだけは!」
そんなの嫌だ! そんなことしたら僕は笑い者になるし女の子と遊べないじゃないか。
「文句を言うな! どうしてもと言うなら慰謝料をお前だけで払って見せろ。そうすれば廃嫡するかは考えてやる。まあ、今のお前ならば無理だろうがな」
「ええーっ!?」
「それともう一つ付け加えておこう。今度、とんでもない問題を起こしたら親子の縁を切る。二度と我が家の名を名乗ることは許さん。覚悟しておけよ。分かったな?」
「……そんな、父上……」
「返事は?」
「はい、分かりました……」
なんということだろうか。父上は実の息子を切り捨てるつもりのようだ。ちょっと、大きな問題を一度起こしただけなのに。
……なんだよ、もう少し大目に見てくれてもいいじゃないかよ! くそ!
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