第155話:妖精さん。

 どうやら殿下方には妖精さんの姿は見えておらず、光の玉という認識しかないようだ。私を先頭にして妖精さんたちの案内で道を進んでいるけれど、こんなにはっきりと視認しているのに。不思議である。

 

 「いや、でも…………」


 「諦めたらどうだ。気付いているのだろう」


 認めたくないなあと遠い目になる。見えていない殿下方と見えている私たちの決定的な違いって、私の祝福を受けていないかどうかくらいだ。

 みんなアルバトロス王国出身だし、お貴族さま出身の人が多いので魔力は備わっているし、それなりに多い。殿下とソフィーアさまなら、多分だけれど殿下の方が魔力量は多いはず。


 「……私の祝福」


 「だろうな。――他に思い当たることがない。軍や騎士の連中ならば、偶然掛かったヤツがいるかもしれんが少数だろう」

 

 私は浄化儀式の時に受けているからな、とソフィーアさま。あれも一種の祝福だからなあ。私の魔力を纏わせたというかなんというか。

 まだ効果が続いていたことに驚きだけれど、まあ結果オーライだろう。殿下たちに光の玉が妖精だと説明できる人が必要だ。真実だと疑われないのは公爵家という箔を持っている、ソフィーアさまの言葉である。


 「――"神の加護を"」


 歩きながら魔力を練って、詠唱した。距離は離れているけれど、殿下たちアルバトロス王国の面々に掛かるようにしておいた。あと念の為、銀髪くんの所属国の人とギルドの人にも。一節しか詠唱していないけれど、ある程度の効果は認められるはず。これで見えないと言われたら、上書きするだけだし。

 

 「いいのか?」


 「一番効果が薄いと言われているものです。事後報告になってしまいますが、今回は見えていた方が良いでしょうから」


 「助かる。代表の方々が見えないのは不味いからな」


 どんな粗相につながるか分からないからなあ。周りを固めている護衛の人たちに聞いてみたいけれど、勤務中だし声を掛け辛い。


 「は?」


 「え……」


 あ、急に見え始めて驚いたようだ。大きな動揺ではないけれど、それぞれ急に見えはじめた実像を咀嚼するのに時間が必要なのだろう。

 

 「聖女さまが祝福を掛けて下さった。――その影響だ。妖精が見えても驚くな。我々は亜人連合国へ参っているのだ、王国の価値観で物事を図るなよ!」


 周りに聞こえるようにと声を張るソフィーアさま。近くに居た護衛の人に声を掛け『殿下方にも知らせてこい』と伝えると、走っていく騎士の人が一人。こちらの言葉を理解しているようで、妖精さんたちはその声にきゃっきゃしてる。どうやら驚かせたのが面白かったらしい。

 

 「……気ままだなあ」

 

 ちょっと羨ましいと思わなくもないが、私は人間である。寿命とか長そうだし、そうなったら暇を持て余しそうだ。

 死に方なんて、周りに迷惑を掛けないようにピンピンコロリが一番だ。前世はどういう死に方をしたのかは、覚えていない。死ぬには随分と早かった位の認識で。前世でも孤児だから家族も居ないし、日々の生活を送る為に必死で恋愛なんてする気も起きず。話を聞けば、寂しい人生だという人もいるだろうが、後悔はしていない。それが運命だったのだろうし、そして今生きているのも運命なのだろう。


 「羨ましいか?」


 私が呟いた言葉が聞こえたのか、ソフィーアさまが苦笑いを浮かべつつ質問を投げた。


 「え、ああ。どうでしょう、妖精になってみないと分からないでしょうね。ソフィーアさまは?」


 価値観とか全然違って苦労するかも知れないし、性に合って生きやすくなるのかも知れない。


 「確かにな。私は、考えたこともなかったな。私はソフィーア・ハイゼンベルグであってそれ以上でもそれ以下でもないと考えている。だからこそ、国に尽くすべきだとも」


 「強い、ですね」


 「強くはないな。貴族としてそう育てられたということもあるが……心に決めたことがある。それが私の支えになっているからな。――お前もそういうものが見つかるといいが」


 確かに信念とか目標があれば、考え方や捉え方は変わるのだろう。私はまだ孤児仲間が無事に生きていけば良いと願っているだけだ。みんな自立してて、私の助力などもう必要ないというのに。

 

 「前にも言った気がするが、ゆっくりでいい。探してみろ」


 殿下へ報告を終えた護衛の人が戻って来たので、少し離れた。聞いては駄目な内容かもしれないし。


 「――……ああ、分かった。殿下が感謝する、とのことだ……あちらに妖精は居ないそうだがな」


 「……卵に誘因されているのでしょう」


 そうとしか考えられないかな。卵を見て喜んでいたし。


 「進むしかないな。少し急ごう」


 「はい」


 歩幅を広くして回転数を上げるけれど、身長差がモロに影響されている。ソフィーアさまの一歩は、私の一歩半。同じ回転数で歩いていると、差が開くのは当たり前で。さらに足運びの速度を上げて、歩く。


 「大丈夫か?」


 「大丈夫です」


 早いスピードだけれど着いていくしかない。ソフィーアさまの言葉を苦笑いで返し、足を進める。早めに出発したとはいえ、時間に遅れる訳にもいかないし。

 

 「増えていないか……」


 歩いて暫く時間が経っているのだけれど、ソフィーアさまが零した通り妖精さんの数が増えているような。

 私たちに興味があるというよりは、私が腰から下げている巾着袋の中身なのだろう。頭の上で遊んでいる個体も居るので、個性があるようだけれど。『早く』『行こう』『戻ってきた』『――だ』そんな声が聞こえたり、感情が流れていたりと忙しない。


 「増えているようですね。集落が近いと解釈してもいいのでしょうか……」


 「そうだといいが。こちらの国の情報は全くないといっても過言ではないからな」


 進もうという言葉に頷き、また歩きはじめるのだった。一人だけ早足で。

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