第147話:【4】なんで俺が。
国に仕える軍人に騎士? 聖女? 貴族? それがどうした。個人で命を掛け脅威である魔物を倒す冒険者の方が、余程この大陸に貢献しているじゃないか。
俺がAランクパーティーだと伝えても、この国の連中は驚きも何もしない。流石、障壁を張って閉じこもっている連中。他の国ならば『Aランク!? 凄い!!』となるのが普通だというのに。
聖女と名乗った黒髪黒目の女の前へ、派手な巻髪が特徴の女が出てきて俺に被害の賠償を求められたが、なんでそんなことをしなきゃならない。ドラゴンを倒したのは俺なのだから、褒め称えるのが普通だろ!
何故、俺が悪いと一方的に責められねばならない。これじゃあまるで仕事で失敗した俺を責め立てた嫌いな上司と一緒じゃないか。ゲームでミスした俺を責める、有名プレイヤーと一緒じゃないか。
――ふざけるな!
俺はキチンとやったんだ。それでミスしたくらいで何故責める。道理を説いて諭そうとする。俺は生来そういうものが大嫌いなのだ。
ずっと抑圧されてきた。元の世界のルールよりも、この世界のルールの方が俺の性分には合っていた。冒険者になってからは猶更だ。強い奴が正義。単純明快なルール、分かりやすい。それでいいじゃないか。
本当にいちいちうるせえ……。
すっと片腕を上げる。双子の奴隷に何か攻撃を仕掛けろという合図だった。
『セレスティア、避けろっ!!!』
赤髪の男が特徴的な巻髪の女を守ると、男の腕に矢が刺さった。女自身に傷を入れられなかったのは残念だが、仕方ない。女に手を出したことが不味かったのか、場の雰囲気が一変する。
状況は好転という訳ではないが、俺に注目が集まっているのが心地よい。双子にも注意を払っているが、俺の方が相対的に多い。そうしてまた違う女が出てくる。正直、そそる女だった。巻髪の女もよく見れば、とんでもない美人だ。
赤髪の男を心配している様子だが、奴隷が放った矢をまともに捌くこともなく女をまともに守ることが出来ないヤツには勿体ない。そうしてまた別の目立つ赤髪の女。傍にも背の高い赤髪の男が居るが、顔が似ているのできょうだいだろうか。まあ、それはどうでもいい。
俺のパーティーに組み入れば、更に高みを目指せるな。そのくらいに女どもの魔力が高い。黒髪の餓鬼は平凡程度で雑魚。相手にはしない。自身の容姿が良いのは理解しているし、Aランクだと名乗れば大抵の女は落ちる。ただ今まで出会った女どもは冒険者として活躍できる魔力量は有していなかった。
が、目の前の三人の女はどうだ。十二分な量を所持している。だから俺のモノになれと誘う。
しかし……俺の事を『坊や』と抜かして邪魔をする奴が表れ体内にある魔力を練り、魔術を発動させようとする。
――なんて馬鹿魔力!
双子の奴隷の言う通りだ。目の前に仲間を守るように立ちはだかった銀髪スカシ野郎の魔力は尋常じゃねえ……。
たらりと汗が背に流れるのを感じ、撤退という二文字が頭に浮かぶ。勝てるビジョンが浮かばない。仕方ない、一度下がってタイミングを計るしかない。あいつらの移動中や就寝中を狙えば、まだチャンスはある。
魔石の回収も大剣も戻っていないのだ。適当にとんずらをして一夜明け、更にもう一度夜が明ける。アルバトロス王国の東の端で野宿をしながら、機会を狙っていた。
「久しぶり。とうとうやってしまったんだね、トーマ。残念でならないよ」
そうしていけ好かない男とその仲間たちが、俺の目の前に現れた。Sランクパーティーを追い出された時より、装備の質が更に良くなっている。
「……なんでお前が俺の前に立つ?」
俺はお前らに追い出されて、装備の更新なんて出来ていないんだぞ。しかも手切れ金で貰った金は、そろそろ底をつく。
「本当はこんなことしたくはないけれど、他の人たちに捕まったら君の命がないだろうから……僕がギルドに『冒険者狩り』をさせてくれと申し出たんだ」
「……冒険者狩り?」
「覚えていないのか……僕たちは君に冒険者手引きは読めと何度も言ったはずだよ。それを君は僕たちが居るから大丈夫だと言っていたけれど、ソロになってから読んでいないのか……」
はあと仰々しくため息を吐く元パーティーメンバー。双子の奴隷は状況を理解しておらず、目を白黒させている。俺が何も言わないので、行動にはしないだろう。ただこういう時くらいは機転を利かせろと思わずにはいられない。
「冒険者狩りはね、ルールを破った者を制裁できる自浄作用みたいなものだよ。――ギルドの許可さえあれば、見せしめで首を落とすことも可能だ」
ゆっくりと目を瞑って言葉を続ける男。
「今回は生け捕りが条件だから他のチームも無茶はしないと思うけど……。けれど君のやったことは他の冒険者に取って迷惑でしかない。冒険者やギルドそのものの価値を貶めた」
「俺のやったことが何故悪い! 昇格する為に頭を使って命を張る! それが冒険者だろう!!」
「間違えてはいないけれど……そこには条件やルールがある筈だよ。そこから外れてしまうと煙たがられるのは君も理解しているんじゃないのかい?」
「はっ! そんなものを気にして冒険者なんてやってられるかよ!! 富と名声だけありゃ十分じゃねえか!!」
「そうだね、そういう考えでも僕は良いと思う。――でも君のしたことは到底許されるものではないよ」
「相変わらずの優等生振りだな」
こういう人種は嫌いだ。俺に合わない。
「ギルドから聞かされたけれど、討伐依頼が出ていないドラゴンを倒して放置し、あまつさえその場に居合わせた騎士や軍、果ては聖女さまに貴族のご令嬢に危害を加えようとしたって」
俺がやったことの全てが知れ渡っている訳ではないようだ。
「ただ君の事だ。他にも何かやらかしているんだろうね……」
「だったらどうしたよ?」
「どうもしないよ。僕は私刑が嫌いだからギルドからの条件に従うだけ。他の人たちでなくて良かったね。感情に任せて君の命がない可能性だってあったんだから」
「は? そんな連中蹴散せばいいだけじゃねーか!」
「はあ。トーマ、君の素行をきちんとギルドへ報告して少しでも情報を渡しておくべきだったよ。でも後悔してももう遅いし、どうにもならないけれど――みんな」
その言葉と同時に俺ではなく、奴隷の双子目指して突貫しようと一歩足を踏み出した。
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