第56話:処分決定。
ソフィーアさまとセレスティアさまがヒロインちゃんに対して尋問を行ったり、意味不明な彼女の補足説明を二人にしたり。
魔術師団副団長さまとヒロインちゃんの魔眼研究の為に何度も王城へと呼び出されたりと、割と忙しかった。
「さて僕個人のアリス・メッサリナ氏が持つ魔眼の能力の見解です」
また王城へと呼び出され、何故か王国の政を司る重鎮たちが集まり非常に重い雰囲気の会議室内で、副団長さまの椅子の横にちょこんと座る羽目になっていた。
「――彼女の魔眼の力は一定の指向性があるでしょう」
そうして副団長さまの見解が続く。不特定多数に洗脳や魅了の効果がある訳ではなく、彼女が気に入った人物、または気になる人物に強く反応するものらしい。
でなければ殿下たちを狙い撃ちできないし、他に彼女の犠牲となる人物が生まれてしまうのだけれど、そういう人物はいない。
ジークに粉をかけたことも理由に挙げると、何故か私の名前が出てくる。どうやら私の近くで長く過ごしていたことで、耐性を得ていたらしい。そんな馬鹿なと副団長さまの顔を見上げると、黙っていてくださいねという視線を頂いたので、黙るしかなくなる。
「おそらく発動条件は視線が合うことと術者である彼女が特段の好意を持っていることが条件でしょう。――『シナリオ』『ゲーム』という言葉を僕は余り理解できませんが、ここにいる聖女さまが上手い例えをしてくれたので、彼女に代わって頂きます」
は、ちょ、待って。何の説明もなしにバトンを渡されても困るのだけれど、この人は一体どういうつもりなのか。兎にも角にもお偉いさんばかりが集まる会議室である。粗相のないように、静かに椅子を引いて立ちあがる。
「みなさま、はじめまして。聖女を務めさせていただいております、ナイと申します。――至らぬ身ではありますが、魔術師団副団長さまの補足をさせて頂きたく存じます」
うわあ、怖いよ視線が怖い。マジモンのヤクザがメンチ切ってるくらいに怖い。まあ王国の未来に関わることだから、心配なのはわかるけれど今回私は副団長さまのとばっちり。
仕方ないなあと、深く息を吐いて吸い込んで団長さまやソフィーアさまにセレスティアさまへと例えとして話したことを、もう一度彼らへと語る羽目になったのだった。
「ありがとうございます、聖女さま」
「せめて事情を説明して頂けると助かります」
「いやあ、申し訳ありません。ギリギリまで魔眼のことを調べていたものですから、ついおろそかになりまして」
聖女さまのことを信頼していますからと、にこりと笑っているけれど絶対適当に喋ってるよ、この人。魔術馬鹿だから仕方ないとはいえ、もう少し説明とかいろいろと社会人としてやるべきではなかろうか。
そんなこんなで、いろんな人に振り回されていればあっという間に時間が経つ。そんなこんなで魔獣討伐から一週間強。
側近くん四人は学院でヒロインちゃん不在の席をぼーっとみつめていたり、時折、こちらに視線を向けて申し訳ない顔をしていたり、赤髪くんがセレスティアさまに罵られていたりと割と忙しいというか。
ヒロインちゃんと殿下たちの処分が決定した。
ヒロインちゃんの言動があまりにもアレだったが為に周囲の理解を余り得られず精神錯乱状態と判断され、本来ならば処刑だった所を貴重な魔眼持ちということで一生幽閉。モルモット。
彼女の家族もそのとばっちりを受けていて、王家に仇をなした商家と世間の皆さまから判断され、売り上げがガタ落ちしているそうなので、そのうち潰れてしまうのではと言われてる。しかも親類縁者の中に魔眼持ちが居ないか調査された為、いろいろと憶測が憶測を呼び、尾ひれ背びれがくっついた噂が街中に流れているそうな。
第二王子殿下と側近くんたちは、魔眼による洗脳状態だったという理由で、これから一週間の謹慎処分の後に再教育コースが決定した。
罪が軽くないか、と言われそうだけれど将来は国の重要な職に就く人たちである。まだ若いし将来性もあるので、こってり絞られた上で次やらかしたら分かっているなと国王陛下からお言葉を頂いているらしい。
婚約者がいる人たちには家と家で相談の上、婚約を継続するなり白紙に戻すなりしていいし、なんなら王家がお相手探すよという、お言葉もあったそうだ。男側は知らんけど、らしい。
殿下は帝王学やそのあたりを強化し、乳兄弟の側近くんも殿下の下に就く為の教育を再度、他の三人もそれぞれの分野のエキスパートの下で鍛えなおされる。全員学院に通いながらである。
特進科に所属しているので勉強が大変だろうけれど、このくらいは出来て当たり前という判断なのだろう。無理ならやらせないだろうし。
「私は継続する。――やるべきことがある。それを成し遂げるには、やはり第二王子妃の地位の恩恵は大きいからな」
「わたくしもですわ。そもそもヴァイセンベルク辺境伯家からクルーガー伯爵家へ願ったものですし、仮にも十年近く婚約を結んでおりますし」
ハイゼンベルグ公爵家が王家と婚姻を結ぶことの旨味は薄いそうだ。ただソフィーアさまがやりたいこと、成し遂げたいことがあるので今回の殿下のやらかしは公爵家としては不問。次はないとのこと。
ヴァイセンベルク辺境伯家は近衛騎士団長を務める伯爵家との婚姻で、魔獣や魔物に国境からの外敵から領土を守る為に伯爵家を利用したいそうなので、そのまま継続。こちらも次はない、とのこと。
お貴族さまって大変だなあと、学院のサロンの中で紅茶を啜る。味、よく分からないけれど。
「で、だ。ナイ、お前に頼みたいことがある」
「ええ。わたくしも」
魔獣討伐以降、何故かこの二人に出会ったり呼び出されたりと忙しい。なんで私がと愚痴りたくなるけれど、お貴族さまの前でそんなことは言えないのが悲しい所。
「そう嫌そうな顔をするな。――まあ、少々面倒かもしれんが……」
「まあ、貴族の社交の場なんて貴女からすれば面倒そのものですわね。――わたくしも社交場よりも狩りや魔物狩りに出かける方が楽しいですわ」
おっと顔に出ていたか。一月前ならばソフィーアさまに怒られそうであるが、交流が増えた所為なのか多少の失礼ならば見逃してくれるようになっていた。
「すみません。――それで頼みたいこととは?」
「ああ、すまないが……――」
なんでそんなことになるのかなあ、と窓から見える空を眺めるのだった。
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