第12話:入学式。
――い、居場所がない……。
特進科に用意されている教室へと入ると、異様な視線を向けられてしまった。覚悟はしていたけれどこうもあからさまとは。
仕方ないので教室の片隅に移動し手持無沙汰なので、周囲を観察しているのだけれど、これは関わるなという視線なのだろう。どこの誰とも分からないし、貴族でもないのだから不審人物としか映らないよね。彼らからすれば。廊下には護衛の人たちが何人か居るので、よほど高位の人がクラスに在籍するのだろう。
先程の公爵令嬢さまも、この国においてかなり重要な立ち位置だろうし、警備を受け持つ人たちは大変だ。問題が起これば、自分たちの首が飛ぶんだし。比喩ではなく実際に飛ぶものなあ、この世界。
「各自適当に席に着け~」
随分と軽いノリで教室へとやって来た無精ひげを生やし猫背ぎみな中年男性。こげ茶色の髪をざんばらに伸ばし後ろで緩く結び、たれ目姿が彼のやる気のなさそうな雰囲気に拍車を掛けていた。
「ごめんなさ~いっ! 遅れましたっ!!」
ガラリ、と教室の引き戸を開けて突然に入って来たのは、掲示板の前で特進科へと転科出来ることを喜んでいたピンクブロンドの女の子。息を切らしながら空いている席を目指して、着席したのだった。
「間に合ったんですね~よかったあ。――あ、よろしくお願いしますね!」
元気だなあと視線を彼女へ向けていると、隣の席となった男子生徒へと無邪気に声を掛けていた。その人はこの国の第二王子殿下だよ……。顔を知らないのか、それとも無邪気すぎるのか。
「ああ、よろしく」
いいのかなあ、あんなに簡単に声を掛けて。隣国の王子さまや王女さまが学院へ留学して彼に声を掛けたのならば、何ら問題はない。むしろ仲良くなれるならば好都合だろう。
平民出身の彼女と仲良くしても得することはない。寧ろ隙を見せていると周りから見られてしまうのがオチだろうに。とはいえここは平民も通う学院である。あまり横柄な態度を取るわけにもいかないのか、殿下は無難に声を返していた。
誰にも分からないように心の中で溜息を吐くと、ピンクブロンドの少女へ厳しい視線を向ける人が居ることに気が付いた。その視線のもとは公爵令嬢さまだった。私のネクタイのことを注意した時よりも更に険悪な雰囲気だった。自分に向けられている訳でもないのに、背中にたらりと汗が流れるのを感じると、その空気を打ち破る人が居たのだった。
「俺を無視せんでくれんかねえ……――まあ、いい。今日の予定と今後のことを簡単にだが話していくぞ~」
呆れ声を上げた教師はこの特進科の担任教諭だそうだ。これから始まる入学式の説明と今後の学院行事をざっくりと説明して、早々に講堂へと移動するようにと促される。集まっていた在校生の席を抜け、一年生にと用意されていた椅子へと腰を掛けると開会のアナウンスが流れた。魔術具で作ったマイクで講堂の隅から隅まで聞こえるように配慮されているのだろう。
お偉いさん方の挨拶が終わり在校生挨拶となる、どうやら生徒会長を務めているようで学院に早く馴染めるようにと心遣いをしていた。サラサラの髪に良い顔立ち、身体の発育の良さから高位貴族だというのがうかがい知れた。同じ制服を着ているというのに空気が違うんだよね、私たちとは。そんなことを考えていると、先程教室にいた第二王子殿下が新入生代表として壇上に立つ。
「学院に咲く桜の花が私たちを迎え入れ、本日から――」
声変わりがまだ終わっていないのか少しだけ高い音を感じさせる声色で、奇麗なテンポで原稿を読み上げていく殿下。その姿にキラキラと目を輝かせながら、顔を上げている令嬢たちが何人も居た。
ついでにピンクブロンドのクラスメイトもその中の一人だった。若いねえと、周囲を見ていると数名の女子は何かを考えているような顔で殿下を見上げていた。どうやらいろいろと思うことがあるらしい。それが何なのかは分からないけれど、まあみんなお年頃である悩みの一つや二つ抱えているものだろう。
校門の桜もどきは桜だったのだなあと妙な感じになりつつ、さっぱり分からない学院の校歌を披露されて、無事入学式も終え。教室へと戻り、自己紹介へと相成るのだった。
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